大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門
(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座)
2017年度研究成果報告

以下は大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座、松岡研究室)の2017年度の研究成果一覧です。 ご清覧いただき、忌憚のない意見を下されば幸いです。 2018年4月08日更新。

目次

  1. メンバー
    1. スタッフ
    2. 共同研究者
    3. 学生
  2. 研究業績
    1. データセンタの省電力化に関する研究
      1. ディープニューラルネットワークによるデータセンタの電力予測手法の提案
      2. 機械学習とCFD シミュレーションの連携によるデータセンタの消費電力の簡易シミュレータの構築
      3. 自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術
    2. IoT情報を地域分散保存する技術に関する研究
      1. Cold Storage Geo-Replicationシステムの構築
    3. エネルギー管理システム (Energy Management System) に関する研究
      1. 様々な嗜好を有する人々の合意形成アルゴリズムの提案
    4. クラウドネットワークアーキテクチャに関する研究
      1. ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究
      2. 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究
    5. 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究
      1. M2M通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャに関する研究
      2. 仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの性能向上
  3. 発表論文一覧
    1. 学術論文誌
    2. 解説論文・記事
    3. 国際会議会議録
    4. 口頭発表
    5. 博士論文・修士論文・特別研究報告
      1. 博士論文
      2. 修士論文
      3. 特別研究報告

1. メンバー

1.1. スタッフ

松岡 茂登
松岡 茂登
教授
長谷川 剛
長谷川 剛
准教授
樽谷 優弥
樽谷 優弥
助教
徐 英峰
徐 英峰
富士通次世代クラウド
協働研究所
特任助教
金川 恵
金川 恵
秘書
小林 奈都子
小林 奈都子
富士通次世代クラウド
協働研究所
秘書

1.2. 共同研究者

村田 正幸
村田 正幸
大阪大学
教授
萩田 紀博
萩田 紀博
ATR IRC
所長
上羽 正純
上羽 正純
室蘭工業大学
教授
浮田 宗伯
浮田 宗伯
豊田工業大学
教授
多田 知正
多田 知正
京都教育大学
准教授
中村 泰
中村 泰
大阪大学
特任准教授
谷口 義明
谷口 義明
近畿大学
講師
松田 和浩
松田 和浩
大阪大学
招へい研究員
江崎 浩
江崎 浩
東京大学
教授
落合 秀也
落合 秀也
東京大学
講師
村田 修一郎
村田 修一郎
大阪大学
招へい研究員
丹 康雄
丹 康雄
北陸先端科学技術大学院大学
教授
秋山 豊和
秋山 豊和
京都産業大学
准教授

1.3. 学生

阿部 修也
阿部 修也
博士前期課程2年
村岡 駿
村岡 駿
博士前期課程2年
信家 悠司
信家 悠司
博士前期課程2年
入江 諒
入江 諒
博士前期課程1年
上野 真生
上野 真生
博士前期課程1年
黒川 稜太
黒川 稜太
博士前期課程1年
山崎 里奈
山崎 里奈
博士前期課程1年
Yasser AL-Bulushi
Yasser AL-Bulushi
博士前期課程1年
桑原 鋭人
桑原 鋭人
学部4年
杉田 修斗
杉田 修斗
学部4年
安達 智哉
安達 智哉
学部4年
賀 振宇
賀 振宇
研究生
賀 振宇
凌 棟
研究生
賀 振宇
董 忻
研究生

2. 研究業績

2.1 データセンタの省電力化に関する研究

近年、データセンタの消費電力削減が大きな課題となっている。本研究テーマでは、データセンタの省エネルギー技術と、広義の再生可能エネルギーである廃熱をオフィス等へ高効率に利活用する技術を両立させ、抜本的な電力削減を実現することを考えている。具体的には、データセンタの電力消費の3大要素(ICT機器、空調機器、電源)それぞれの省エネ技術について個別に取り組むと共に、高効率に回収した廃熱のオフィス等への利活用技術、およびそれらの統合連携制御を検討している。

2.1.1 ディープニューラルネットワークによるデータセンタの電力予測手法の提案

ディープニューラルネットワークによるデータセンタの電力予測手法

近年、スマートフォンの普及や SNS サービス、オンラインストレージのようなインターネットサービスの増加により、サーバサイドコンピューティングやクラウドコンピューティングに対する需要が増加している。 それに伴い、そのようなサービスを行うデータセンタの数及び規模が年々拡大しており、消費電力の増大が問題となっている。 データセンタは多数の機器によって構成されており、それぞれの機器は相互に依存しあっている。 そのため、個々の機器をそれぞれ制御するだけでは最適にデータセンタを運用することができず、複数の機器を協調して予測制御する必要がある。 このような精緻な制御を実現するためにはデータセンタのモデル化が欠かせないが、多数の機器の複雑な相互依存を考慮したモデルを作成するのは容易ではない。

このような状況のモデル化に適した方法として機械学習法、特に深層学習が、複雑な問題に対するモデル化において注目されている。 特に画像認識の問題に対しては、ディープニューラルネットワークにより画像のピクセルといった幾何学的な特徴を自動的に抽出し、学習できることが示されている。 ここで、データセンタ内の温度分布やタスクの配置状況といったデータセンタモデルの入力の一部は、2次元マップとして表すことができる。 本論文では、この2次元マップの入力と画像のピクセルとの類似性を踏まえ、ディープニューラルネットワークによる消費電力予測モデルを提案する。 ディープニューラルネットワークにより対象のデータセンタの依存関係を含んだ特徴を自動的に抽出することで、複雑なモデル化を行うと同時に、予測精度の上昇を見込むことが出来る。

提案モデルの性能を評価するために、データセンタの過去の稼働データを用いてモデルの作成及び予測を行った。 その結果、提案モデルによる消費電力の予測は、我々の研究グループが提案するデータセンタの予測制御に十分な精度と速度で予測できることを明らかにした。

2.1.2 機械学習とCFD シミュレーションの連携によるデータセンタの消費電力の簡易シミュレータの構築

構築する消費電力シミュレータ

近年, ネットワークサービスの増加や Internet of Things (IoT) やビッグデータ処理など, クラウドコンピューティングの需要が増加している. それに伴い, 処理基盤であるデータセンタの数やその規模も拡大しており, データセンタの消費電力の増大が問題とされる. この問題に対し, データセンタの消費電力の大部分を占めるサーバなどのIT 機器や空調などの冷却用設備の電力効率を向上させる研究が行われている. しかし, これらの研究による省電力化は, サーバや空調の設定変更が相互に影響することを考慮していない. そのため, ある機器の消費電力を削減できたとしても, 他の機器の消費電力が増加してしまい, 結果としてデータセンタ全体の省電力化に繋がらない可能性がある. したがって, データセンタ全体の効率的な省電力化のためには, 各機器間の相互依存関係を考慮した連携制御が必要となる.

この連携制御を実現するためには, 各機器の設定における IT 機器や空調などの消費電力を把握し, その総計を削減する制御が必要である. サーバの消費電力は, 割り当てられるタスク数とサーバのファン回転数に依存している. 特にサーバのファン回転数はサーバの吸気温度などのデータセンタ内の温度分布に依存する. そのため, 消費電力を正確に把握するためには, データセンタ内の温度分布の把握が必要となる. データセンタ内の温度分布を把握するために, 機械学習を用いて温度分布を予測する研究も行われている. しかし, 学習データとなるデータセンタの稼働データが機械学習を行うには必要であり, また機器の入れ替えを行う度にデータの再収集および再学習が必要となる.

この問題に対して, Computational Fluid Dynamics(CFD) シミュレーションとサーバ消費電力モデルと空調消費電力モデルを連携させた消費電力の簡易シミュレータを提案する. CFD シミュレーションではパラメータとしてサーバの発熱量とサーバファンによる風速, 空調機の設定温度と設定風量を与えることにより, データセンタ内の定常状態の温度分布と風速分布を予測することができる. そのため, 学習データとなるデータセンタの稼働データの必要なしに温度分布や風速分布を把握できる. CFD シミュレーションによって得た, 温度分布や風速分布を用いて, 事前に機械学習によって構築した消費電力モデルにより, サーバや空調の消費電力を予測できる. しかし, サーバの消費電力予測には, サーバの排気風速とサーバの排気温度を必要とする一方で, CFD シミュレーションにはサーバ全ての消費電力とサーバファンの風速が必要となる. 従来の消費電力シミュレータでは, CFD シミュレーションとサーバの消費電力予測を繰り返し行うことにより, 温度分布や風速分布の予測精度を高め, サーバの消費電力の予測を行ってきた. しかし, この方法は計算時間が長く, 消費電力を削減するために動的にタスク配置を求めるなどの制御への適用は難しい. そこで本報告では, サーバの排気風速をサーバファンによる風速と空調による風速の和と考え, サーバファンの回転率に対して一次近似であると仮定することで, CFD シミュレーションを1回に抑えた. 提案手法の評価は, データセンタテストベッドにおいてサーバに均一にタスクを配置した場合の消費電力のシミュレーションを行った. その結果, 構築した消費電力シミュレータは最大11%の誤差で消費電力を予測できることを明らかにした. また, 消費電力シミュレータの計算時間を従来の10%に抑えたことを明らかにした.

  1. 桑原鋭人, ``機械学習とCFDシミュレーションの連携によるデータセンタの消費電?の簡易シミュレータの構築,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.

2.1.3 自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術

自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術

近年、高性能計算機環境やGPU による演算を行うようなサーバにおいては、プロセッサ当たりの消費電力が大きくなっている。そのため、稼動時の発熱量が大きく、空調を用いた冷却方式では効率的な冷却を行うことができない。この課題を解決するために、特にスーパーコンピュータのようなシステムにおいては、CPU の冷却を水冷によって行い、他の箇所の冷却を空冷で行うようなハイブリッド冷却方式が採用されている。

しかし、ハイブリッド冷却方式は、空調設備を必要とするので、電力効率などの観点で最適な冷却とは言えない場合がある。それに対し、発熱量が高い機器を冷却する方法として、サーバを液体の冷媒に浸潤させる液体浸潤方式がある。液体浸潤方式はハイブリッド冷却方式に比べ、安価に発熱量の高い機器を冷却することができる。従来の液体浸潤方式では、ポンプを用いて冷媒を循環させることで強制的に対流を起こす手法が取られていた。この方式では、ポンプを稼働するための電力コストや故障等によるポンプの停止への対応が課題となっている。それに対し、我々の研究グループでは、ポンプを必要としない自然対流を用いた液体浸潤方式を提案しているが、冷却性能の評価が行われていない。

そこで本報告では、自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術の性能評価を、CFD シミュレーションを用いて行った。具体的には、液体浸潤方式を用いたサーバシステムのシミュレーションモデルを構築し、物性値の異なる様々な冷媒を用いたシミュレーションを行うことで、CPU 表面温度や冷媒の対流速度を評価した。その結果、大きなレイリー数を持つフロリナートを冷媒として用いることで、CPU を効率的に冷却できることを明らかにした。また、CPU の発熱量の不均一性が冷却性能に与える影響や、CPU にヒートシンクを設置することの効果に関する評価を行った。その結果、あるCPU 発熱量の変動は、周囲のCPU の冷却効果には大きな影響を与えないこと、また、ヒートシンクを設置することにより、冷媒の種類に関わらず一定程度の冷却性能が得られることを明らかにした。

  1. Morito Matsuoka, Kazuhito Matsuda and Hideo Kubo, ''Effective Cooling of Server Boards in Data Centers by Liquid Immersion Based on Natural Convection Demonstrating PUE below 1.04,'' in Proceedings of ASHRAE 2018 Winter Conference, January 2018.

2.2 IoT情報を地域分散保存する技術に関する研究

Internet of Things (IoT) の普及に伴い、データセンタはセンサ情報や機器情報などの膨大なデータを管理することが求められている。データセンタの管理するデータ損失のリスクを減らすために、複数の大陸に地域分散保存することにより、冗長性をもたせつつ、アクセス頻度等の情報に基づき、ファイルを分類、保存することによる省エネ機構を抜本的に解決する Cold Storage Geo Replication 技術とその活用技術に取り組んでいる。

2.2.1 Cold Storage Geo-Replicationシステムの構築

Cold Storage Geo-Replicationシステム

データセンタが管理するデータは年々増加しており、その電力コストが年々増大している。データセンタのストレージに保存されるデータには、ホットデータと呼ばれる、アクセス頻度が高いデータと、コールドデータと呼ばれる、アクセス頻度が低いが総量が大きなデータが混在している。コールドデータとホットデータの混在によるコスト増大を解消するための方法として、データをそのアクセス頻度に応じて分類し、適切なストレージに保存する階層化ストレージがある。

一方、データセンタが管理するデータ損失のリスクを減らすために、遠隔地にデータの複製を保存するGeo-Replication と呼ばれる手法がある。Geo-Replication により、一か所のデータセンタが災害等によって機能を失った場合にも、他のデータセンタに保存されたデータにアクセスすることでデータの可用性が高まる。

我々の研究グループでは、階層化ストレージとGeo-Replication を組み合わせたシステムである、コールドストレージGeo-Replication システムを構築している。本システムでは、階層化ストレージを用いることでデータ管理によって生じる電力コストを削減しつつ、Geo-Replication によってデータの可用性を高めることができる。本研究では、Cold Storage Geo-Replication システムにのシステムアーキテクチャを提案し、実証システムを構築した。

2.3 エネルギー管理システム (Energy Management System) に関する研究

家庭やビルなどのエネルギー消費を制御する技術として、エネルギー管理システム (EMS:Energy Management System) が注目を集めている。EMSでは、多数のセンサや制御機器の情報を監視、制御を行うことで、エネルギーの削減や機器の適切な制御を行う。本研究テーマでは、EMSのためのシステムアーキテクチャや通信プロトコルを検討している。また、多数のセンサ情報や制御情報、ユーザとの対話等の情報を基に機械学習に基づいたAIエンジンに基づくM2M、H2Mを共存させたスマートコミュニティの機器制御を検討している。

2.3.1 様々な嗜好を有する人々の合意形成アルゴリズムの提案

様々な嗜好を有する人々の合意形成アルゴリズムの概要図

IoT(Internet of Things)やクラウドコンピューティングの普及を受けて、消費電力の最適化のために機器を制御するサービスが検討されている。 このようなサービスが人の生活環境に身近になるにつれ、人への影響を考慮して制御を行う必要がある。 特にオフィスなど不特定多数の人が集まる空間では、特定の人の嗜好に基づいた機器制御が他人の快適さを損なう可能性がある。 そのため、一定の条件の目的を満たしつつ全てのユーザの合意を得ることができる機器制御は容易ではない。 また、同一ユーザであっても身体状況や環境の変化によって嗜好が揺らぐため、ユーザの嗜好や満足度をリアルタイムに収集、反映するのは困難である。>/p>

このような状況に対し、ユーザから直接嗜好を収集するのではなく、センサ機器からの情報を用いて、ユーザのストレスを検知することによってユーザの嗜好判定をする方法が考えられる。 しかし、従来の研究で行われているストレス検知は、特定の状況や、他のストレスが与えられない理想的な環境での実験結果を用いている。 オフィスなどの生活環境では、様々な要因がユーザへストレスを与えるため、これらの単一のモーダルによるユーザのストレス判定は有効でない。 そのため、単一のモーダルによるユーザのストレス判定ではなく、マルチモーダルによってユーザのストレス判定の精度を高める必要がある。この問題は、入力も出力もマルチモーダルな最適化問題だと捉えることができる。 このような多数の入出力に基づいて最適な解を導き出すには、機械学習が有効である。 しかし、これまで成功している機械学習のほぼすべては、適切な解に対応する教師データを必要とする。 そのため、本問題のような完全な教師データが得られないユーザのストレス判定を行う手法の検討は不十分である。

そこで本研究では、多種多様なセンサから得られたデータを用いて嗜好や反応を識別するユーザモデルを構築し、 これらのモデルを用いて、空間内のユーザの合意を得ることが可能となる機器制御手法を提案する。 学習器の構築に用いるセンサデータの収集を行うために、テストベッド環境においてアクチュエータの制御を伴う実験を11人の参加者に対して行った。 本研究では、実験で得られた様々なセンサデータのうち、ストレス判定に一般に利用されている心拍変動、および顔の表面温度に着目し、これらの解析を行った。 その結果、心拍変動と顔の表面温度の間には相関があることが明らかとなった。 また、不快な環境においてLEDの色を変更する実験を行い、ユーザのストレスへの影響を調査した。 その結果、LEDを青色にすることによって、ユーザのストレスを軽減できる場合があることを明らかにした。 また、ユーザの嗜好によってストレスを軽減できることを利用し、各ユーザの合意形成のためのアルゴリズムを提案した。

  1. Shun Muraoka, ``Consensus Building Algorithm for Users with Various Preferences'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2018.

2.4 クラウドネットワークアーキテクチャに関する研究

2.4.1 ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究

ハイブリッドクラウドシステム

広域ネットワークの広帯域化を背景に、オンプレミス型プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせてアプリケーションシステムを構成するハイブリッドクラウドが普及しつつある。 特に、計算リソースを定常的にプライベートデータセンタに配備し、リソース不足時にパブリックデータセンタへスケールアウトを行う方式をクラウドバースティングと呼ぶ。 このクラウドバースティングにおいては、プライベートとパブリックの各データセンタ間の負荷分散を適切に行うことで、サービスレベルを守りつつ全体コストを最小化することが求められる。

そこで本研究では,ビジネスクリティカルシステムに対して、プライベートおよびパブリックデータセンタの二センタ構成とし、平均的な処理要求に必要な計算資源をプライベートデータセンタに固定的に配備し、処理要求の増加時にはパブリックデータセンタの計算資源をオンデマンドに拡張することで、可用性や性能要件を満たしつつ計算資源の利用効率を高める方式を提案した。具体的には、モデル予測制御の適用により、計算資源の過度なスケールアウト/インを避けつつ目標利用率を保つ。まず、計算資源のコスト、障害耐性、操作量に着目した評価モデルを提案し、次いで、実ウェブシステムのトレースデータを用いて計算機シミュレーションを行った。リクエスト受信率予測誤差によりシステム利用率が頻繁にしきい値以上となるが、操作量を考慮することで制御回数が抑制され、結果として高利用率が緩和されることを示した。

  1. Yukio Ogawa, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Prediction-based cloud bursting approach and its impact on total cost for business-critical Web systems,” IEICE Transactions on Communications, vol. J100-B, pp. 2007?2016, November 2017.

2.4.2 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究

生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法

Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。

本研究では,化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて,上記のようなネットワークサービスにおいて,提供するサービスや機能を適切な場所で実行し,サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案している.提案手法では,提案システムをNFVを実現するために適用することを考え,NFVにおけるサービチェイニング,Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置,フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し,その有効性をコンピュータシミュレーションによって確認した.

また,提案手法をNFV環境実現のためのオープンソースプロジェクトであるOPNFV上に実装し,VNFを適用するネットワークフローのレートに応じて,仮想マシン上で稼動するVNFのプロセスに対してCPU資源を過不足なく,かつ適応的に割り当てることができることを確認した.

  1. Koki Sakata, “Adaptive and autonomous placement method of virtualized network functions based on biochemical reactions,” Master’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2018.
  2. 杉田修斗, “生化学反応モデルに基づいた動的資源割り当て手法のNFVフレームワークにおける実験評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.

2.5 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究

2.5.1 M2M通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャに関する研究

M2M 通信収容のための仮想モバイルコアネットワークアーキテクチャ

携帯電話加入者数の増加や高機能なスマートフォン等の普及により、3G やLTE などのモバイルネットワークにおいて、ユーザプレーンとコントロールプレーンの双方において発生する輻輳への対応が課題となっている。 特にコントロールプレーンの輻輳については、新たな需要拡大を伴う通信形態であるMachine-to-Machine (M2M) 通信による影響が大きいと指摘されている。 M2M通信は、通信するデータ量そのものは多くはないが、端末数が膨大になるとされており、その通信特性は大きく異なる。 そのため、M2M 通信を行う端末(以下ではM2M 端末と呼ぶ) を従来の携帯電話端末と同じ方式でモバイルネットワークに接続すると、特にコントロールプレーンの輻輳が悪化すると考えられる。 スマートフォンのようなユーザ端末のトラヒックはユーザの端末操作に応じて発生し、遅延時間に対する要求条件も厳しいため、輻輳解消のための制御は不向きである。 一方、M2M 端末が発生させる通信は一般的に機械に組み込まれることが多く、端末数が非常に多く、間欠的であり、遅延時間に対する制約はユーザ端末に比べると緩い。 このような特性を持ったトラヒックに関して、制御の効果を生み出しやすいことが期待される。

そこで本研究では,モバイルコアネットワークの負荷を軽減するための通信集約手法を提案し、その性能評価を行った。また、端末側のシステムインテグレータで集約を行う場合やネットワークにおいて集約を行う場合等の集約箇所の違いや,集約の度合が性能に与える影響を数学的に解析し,集約によって軽減されるモバイルネットワークの処理負荷や,M2M 通信に新たに発生する遅延時間の特性を評価した.評価の結果,モバイルコアネットワークの仮想化を行い、資源利用効率を高めることで、端末収容効率が32.8%向上し、通信集約手法を適用することでさらに201.4%の向上が可能であることを明らかにした。

さらに,日本全土に展開されるような広域モバイルコアネットワークを対象とし,端末のベアラ確立時間及びネットワークの端末収容能力の評価を行うことで,広域モバイルコアネットワークの性能向上に関する検討を行った.まず,モバイルコアネットワークノードのの配置がベアラ確立時間に与える影響を明らかにした.次に,各ノードに対するサーバ資源の割り当て方法が,モバイルコアネットワークの端末収容能力に与える影響を評価した.さらに,コアノードの負荷に応じて端末を分散収容することによって,サーバ資源の利用効率を向上させ,モバイルコアネットワークの収容端末数を向上する手法を評価した.評価の結果,コアノードを適切に分散配置することにより,M2M/IoT 端末のベアラ確立時間が最大7.5% 減少することを示した.また,サーバ資源の割り当て手法が,収容可能な端末数に最大42% の影響を与えること,及び,端末を分散収容することにより,収容可能な端末数が最大23% 増加することを示した.

  1. Shuya Abe, Go Hasegawa and Masayuki Murata, “Effects of C/U plane separation and bearer aggregation in mobile core network,” IEEE Transactions on Network and Service Management, pp. 1?14, January 2018.
  2. Shuya Abe, Go Hasegawa and Masayuki Murata, “Design and performance evaluation of bearer ag-gregation method in mobile core network with C/U plane separation,” in Proceedings of 16th Inter-national IFIP TC6 Networking Conference (IFIP Networking 2017), (Stockholm), June 12-15, 2017.
  3. 長谷川剛, 村田正幸, “IoT/M2M 通信を収容するためのモバイルコアネットワークアーキテクチャ(招待講演),” 電子情報通信学会技術研究報告(CQ2017-70), vol. 117, pp. 1?6, November 2017.
  4. Shuya Abe, “Bearer aggregation methods in mobile core networks with C/U plane separation,” Mas-ter’s thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka-University, February 2018.
  5. 安達智哉, “コアノード配置とサーバ資源分配に着目した広域モバイルコアネットワークの性能向上,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.

2.5.2 仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの性能向上

仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの性能向上に関する研究

近年、第5 世代携帯電話網の実現に向けて、モバイルネットワークを構成するRadio Access Network (RAN)やフロントホールネットワーク、バックホールネットワークの再考が進んでいる。そのような新たなネットワークにおいては、資源利用効率を高めるために、計算機資源やネットワーク資源の仮想化技術が前提となっている。特に、Software Defined Network (SDN)技術は、ネットワークの柔軟な制御を可能とする重要な技術として考えられている。モバイルネットワークに対して仮想化技術を適用することで、トラヒック需要の変動に応じた柔軟な計算機資源の制御やネットワーク制御が可能となる。また、ネットワークの省電力化に対しても有効であると考えられている。しかし、特にモバイルネットワークにおいては、仮想化技術の適用によるそれらの効果の定量的な評価はほとんど行われていない。

そこで本研究では、モバイルアクセスネットワークに着目し、仮想化技術に基づいた集中制御の有効性を明らかにすることを目的とした。そのために、まず、評価対象である、仮想化技術を前提としたアクセスネットワークのモデル化を行う。次に、そのモデルをモバイルアクセスネットワークへ適用し、数値評価を行う。性能評価は、端末を含めたネットワーク全体の消費電力、端末の通信時に発生する遅延時間やスループットの観点で行う。評価の結果、消費電力が低く抑えられる一方で遅延時間やスループットが悪化する場合があるということがわかった。

  1. 山崎里奈, 長谷川剛, 村田正幸, “仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの解析的性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 117, pp. 55?62, July 2017.

発表論文一覧

学術論文誌掲載論文

  1. Yukio Ogawa, Go Hasegawa, Masayuki Murata, ''Prediction-Based Cloud Bursting Approach and Its Impact on Total Cost for Business-Critical Web Systems,'' to appear in IEICE Transactions on Communications, Vol.E100-B, No.11, pp.2007-2016, Nov. 2017.
  2. Nagao Ogino, Takeshi Kitahara, Shin'ichi Arakawa, Go Hasegawa, Masayuki Murata, ''Lightweight Boolean Network Tomography Based on Partition of Managed Networks,'' to appear in Springer's Journal of Network and Systems Management, 2017.
  3. Shuya Abe, Go Hasegawa and Masayuki Murata, ''Effects of C/U Plane Separation and Bearer Aggregation in Mobile Core Network,'' IEEE Transactions on Network and Service Management, 2017.

解説論文・記事等

該当なし

国際会議発表

  1. Shuya Abe, Go Hasegawa and Masayuki Murata, ''Design and performance evaluation of bearer aggregation method in mobile core network with C/U plane separation,'' in Proceedings of Networking 2017, June 2017.
  2. Morito Matsuoka, Kazuhiro Matsuda and Hideo Kubo, ''Liquid immersion cooling technology with natural convection in data center,'' in Proceedings of CloudNet 2017 September 2017.
  3. Morito Matsuoka, Kazuhito Matsuda and Hideo Kubo, ''Effective Cooling of Server Boards in Data Centers by Liquid Immersion Based on Natural Convection Demonstrating PUE below 1.04,'' in Proceedings of ASHRAE 2018 Winter Conference, January 2018.
  4. Morito Matsuoka and Yuichiro Miyake, ''Proposal of Cooling Method for HPC by Drip-Feeding Cooling'' in Proceedings of ASHRAE 2018 Winter Conference, January 2018.

口頭発表(国内研究会など)

  1. 荒川伸一, 荻野長生, 北原武, 長谷川剛, 村田正幸, ''サービスネットワーク連携のための高信頼化ネットワーク基盤構築手法,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 117, no. 89, IN2017-17, pp. 55-60, 2017年6月.
  2. 山ア里奈, 長谷川剛, 村田正幸, ''仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの解析的性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 117, no. 131, NS2017-38, pp. 57-62, 2017年7月.
  3. 長谷川剛, 村田正幸, ''IoT/M2M通信を収容するためのモバイルコアネットワークアーキテクチャ (招待講演),'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 117, no. 304, CQ2017-70, pp. 1-6, 2017年11月.
  4. 小川祐紀雄, 長谷川剛, 村田正幸, "エネルギーストレージを用いたキャンパスビルの電力需要平準化へのモデル予測制御適用に関する一検討," 電子情報通信学会技術研究報告(IN2017-114), vol. 117, pp. 147-152, March 2018.

3.5. 博士論文・修士論文・特別研究報告

3.5.1. 博士論文

該当なし

3.5.2. 修士論文

  1. Shuya Abe, ``PBearer Aggregation Methods in Mobile Core Networks with C/U Plane Separation'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2018.
  2. Shun Muraoka, ``Consensus Building Algorithm for Users with Various Preferences'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2018.

3.5.3. 特別研究報告

  1. 安達智哉, ``コアノード配置とサーバ資源分配に着目した広域モバイルコアネットワークの性能向上,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.
  2. 桑原鋭人, ``機械学習とCFDシミュレーションの連携によるデータセンタの消費電?の簡易シミュレータの構築,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.
  3. 杉田修斗, ``生化学反応モデルに基づいた動的資源割り当て手法のNFVフレームワークにおける実験評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2018.