大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門
(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座)
2016年度研究成果報告

以下は大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座、松岡研究室)の2016年度の研究成果一覧です。 ご清覧いただき、忌憚のない意見を下されば幸いです。 2017年4月10日更新。

目次

  1. メンバー
    1. スタッフ
    2. 共同研究者
    3. 学生
  2. 研究業績
    1. データセンタの省電力化に関する研究
      1. 空調機の消費電力の削減のための機械学習を用いた温度予測
      2. ディープニューラルネットワークによるデータセンタの電力予測手法の提案
      3. データセンタインフラストラクチャ管理システムへのIoT通信プロトコルの適用
      4. 数値流体力学シミュレーションと消費電力モデルを連携したデータセンタの消費電力シミュレータの構築
      5. 自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術
    2. IoT情報を地域分散保存する技術に関する研究
      1. Cold Storage Geo-Replicationシステムの構築
    3. エネルギー管理システム (Energy Management System) に関する研究
      1. ユーザとシステムとの対話に基づいたクラウド型EMSの構築
      2. 機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御
      3. IEEE1888 over WebSocket<
    4. クラウドネットワークアーキテクチャに関する研究
      1. ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究
      2. エッジコンピューティングによるWeb性能向上に関する研究
      3. 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究
    5. 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究
      1. M2M通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャに関する研究
      2. Web パフォーマンス計測と性能向上に関する研究
      3. 電力供給ネットワークと情報ネットワークの相互依存関係に関する研究
      4. 仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの性能評価に関する研究
  3. 発表論文一覧
    1. 学術論文誌
    2. 解説論文・記事
    3. 国際会議会議録
    4. 口頭発表
    5. 博士論文・修士論文・特別研究報告
      1. 博士論文
      2. 修士論文
      3. 特別研究報告

1. メンバー

1.1. スタッフ

松岡 茂登
松岡 茂登
教授
長谷川 剛
長谷川 剛
准教授
樽谷 優弥
樽谷 優弥
助教
金川 恵
金川 恵
秘書

1.2. 共同研究者

村田 正幸
村田 正幸
大阪大学
教授
萩田 紀博
萩田 紀博
ATR IRC
所長
上羽 正純
上羽 正純
室蘭工業大学
教授
浮田 宗伯
浮田 宗伯
奈良先端科大
准教授
多田 知正
多田 知正
京都教育大学
准教授
中村 泰
中村 泰
大阪大学
特任准教授
谷口 義明
谷口 義明
近畿大学
講師
松田 和浩
松田 和浩
大阪大学
招へい研究員
江崎 浩
江崎 浩
東京大学
教授
落合 秀也
落合 秀也
東京大学
講師
村田 修一郎
村田 修一郎
大阪大学
招へい研究員
丹 康雄
丹 康雄
北陸先端科学技術大学院大学
教授
秋山 豊和
秋山 豊和
京都産業大学
准教授

1.3. 学生

ENKHEE TEMUYLEN
ENKHEE TEMUYLEN
博士前期課程2年
北川 貴大
北川 貴大
博士前期課程2年
田代 晋也
田代 晋也
博士前期課程2年
田中 博貴
田中 博貴
博士前期課程2年
寺山 恭平
寺山 恭平
博士前期課程2年
阿部 修也
阿部 修也
博士前期課程1年
村岡 駿
村岡 駿
博士前期課程1年
信家 悠司
信家 悠司
博士前期課程1年
入江 諒
入江 諒
学部4年
上野 真生
上野 真生
学部4年
大エキ 健太郎
大エキ 健太郎
学部4年
黒川 稜太
黒川 稜太
学部4年
山崎 里奈
山崎 里奈
学部4年
賀 振宇
賀 振宇
研究生

2. 研究業績

2.1 データセンタの省電力化に関する研究

近年、データセンタの消費電力削減が大きな課題となっている。本研究テーマでは、データセンタの省エネルギー技術と、広義の再生可能エネルギーである廃熱をオフィス等へ高効率に利活用する技術を両立させ、抜本的な電力削減を実現することを考えている。具体的には、データセンタの電力消費の3大要素(ICT機器、空調機器、電源)それぞれの省エネ技術について個別に取り組むと共に、高効率に回収した廃熱のオフィス等への利活用技術、およびそれらの統合連携制御を検討している。

2.1.1 空調機の消費電力の削減のための機械学習を用いた温度予測

機械学習を利用した温度分布予測

ソーシャルネットワーキングサービスや動画共有サービスのようなクラウド環境に基づくネットワークサービスの普及により、データセンタの需要が増加している。 また、ICT 機器の処理能力の向上に伴う発熱量の増大と、それを冷却するための空調機の消費電力により、データセンタにおける電力コストは年々増加している。 このことから、データセンタの省電力化に関する研究が注目を集めており、データセンタを構成する個別の機器やシステムに対して、電力効率を向上させる取り組みが行われている。 しかし、データセンタ全体のエネルギー効率を改善するためには、各機器間の協調制御が必要であり、特に空調機をデータセンタ内の温度分布に基づいて制御することが効果的であると考えられる。

空調機による冷却設定の変更がデータセンタ全体の温度分布を変化させるまでには、約 10 分の時間を必要とする。 そのため、温度センサを用いて温度分布を計測し、それに基づいて空調機を制御する場合、ICT 機器の動作温度を超えないように、余裕を持たせた空調機の稼働が必要となり、電力効率の低下につながる。 それに対し、温度分布を予測することができれば、予測結果を利用して空調機を制御することが可能になるため、電力削減が可能になると考えられる。 しかしながら、データセンタ内の温度分布は、データセンタ構成、サーバ構成、機器の仕様、サーバで実行されるタスクの特性等の様々な要素に複雑な影響を受けるため、その予測は難しい。

本研究では、データセンタの電力削減を目的とした、機械学習法を利用したデータセンタ内の温度分布の予測手法を提案する。 機械学習法は、観測データが豊富に得られ、かつ多くのパラメータが複雑に影響しあうデータセンタ環境に適していると考えられる。 提案手法においては、データセンタの空調機設定やサーバの消費電力などの稼働データを基に、データセンタ内の温度分布に影響を与えると考えられる変数を特定し、線形回帰法あるいはランダムフォレスト法による温度分布の回帰モデルの学習やディープニューラルネットワークを用いたモデルの学習を行う。 研究グループが運用している実験用データセンタの稼働データを用いて提案手法を評価した結果、空調機の設定値及びサーバのタスク配置を変更してから10 分後のデータセンタ内の温度分布を高精度で予測できることを明らかにした。

  1. Yuya Tarutani, Kazuyuki Hashimoto, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Takumi Tamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Reducing Power Consumption in Data Center by Predicting Temperature Distribution and Air Conditioner Efficiency with Machine Learning,'' in Proceedings of IEEE International Conference on Cloud Engineering 2016 (IC2E2016), April 2016.[paper]
  2. Shinya Tashiro, Yutaka Nakamura, Kazuhiro Matsuda and Morito Matsuoka, ``Application of Convolutional Neural Network to Prediction of Temperature Distribution in Data Centers,'' in Proceedings of IEEE Cloud 2016, July 2016.

2.1.2 ディープニューラルネットワークによるデータセンタの電力予測手法の提案

ディープニューラルネットワークによるデータセンタの電力予測手法

近年、スマートフォンの普及や SNS サービス、オンラインストレージのようなインターネットサービスの増加により、サーバサイドコンピューティングやクラウドコンピューティングに対する需要が増加している。 それに伴い、そのようなサービスを行うデータセンタの数及び規模が年々拡大しており、消費電力の増大が問題となっている。 データセンタは多数の機器によって構成されており、それぞれの機器は相互に依存しあっている。 そのため、個々の機器をそれぞれ制御するだけでは最適にデータセンタを運用することができず、複数の機器を協調して予測制御する必要がある。 このような精緻な制御を実現するためにはデータセンタのモデル化が欠かせないが、多数の機器の複雑な相互依存を考慮したモデルを作成するのは容易ではない。

このような状況のモデル化に適した方法として機械学習法、特に深層学習が、複雑な問題に対するモデル化において注目されている。 特に画像認識の問題に対しては、ディープニューラルネットワークにより画像のピクセルといった幾何学的な特徴を自動的に抽出し、学習できることが示されている。 ここで、データセンタ内の温度分布やタスクの配置状況といったデータセンタモデルの入力の一部は、2次元マップとして表すことができる。 本論文では、この2次元マップの入力と画像のピクセルとの類似性を踏まえ、ディープニューラルネットワークによる消費電力予測モデルを提案する。 ディープニューラルネットワークにより対象のデータセンタの依存関係を含んだ特徴を自動的に抽出することで、複雑なモデル化を行うと同時に、予測精度の上昇を見込むことが出来る。

提案モデルの性能を評価するために、データセンタの過去の稼働データを用いてモデルの作成及び予測を行った。 その結果、提案モデルによる消費電力の予測は、我々の研究グループが提案するデータセンタの予測制御に十分な精度と速度で予測できることを明らかにした。

  1. Shinya Tasiro, ``Power Consumption Prediction of Data Center by Deep Neural Network'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  2. 田代晋也, 中村泰, 松田和浩, 松岡茂登, ``データセンタのAIクラウドによる予測制御のための消費電力予測モデルの構築,'' 電子情報通信学会総合大会論文集 SS-120-121 ,2017年3月.

2.1.3 データセンタインフラストラクチャ管理システムへのIoT通信プロトコルの適用

データセンタインフラストラクチャ管理システムへのIoT通信プロトコル

データセンタの消費電力は増加し続けており、その省電力化を実現する手段としてDEMS(Data center Energy Management System) に関する様々な研究が注目を集めている。今日のデータセンタにはDEMS を実現するため、サーバを冷却するためのエアコンだけ でなく、サーバの吸排気熱を監視するための温湿度センサや風速センサなど、多種多様なセンサが多数混在しており、これらセンサを管理するためのより軽量でスケーラブルなセンサネットワークが必要とされている。このような背景から、データセンタ内の新たな機器管理の仕組みとして、RedFish が提案されている。しかしこれはBroadcom やDell、Emerson、HP、Intel、Lenovo、Microsoft、 Supermicro、VMware といったベンダ各社の主導によって専有化されたプラットフォームである。

我々の研究チームは、より汎用的で誰もが自由に使用可能なOSS (Open Source Software)による、ソフトウェアベースのデータセンタ管理システムの策定を目標として研究に取り組み、Internet of Things 分野で注目を集めるOSS の1 つである、MQ Telemetry Transport およびMQTT-SN (Sensor Network) に着目し、データセンタ内のセンシングや機器制御プラットフォームを担うプロトコルの策定に着手した。本研究ではこの取り組みの一つとして、MQTT-SN のスケーラビリティを改善する手法として、MQTT-SN Client とClient を収容するGW (Gateway) 間のRTT に基づいた、GW の増設手法およびClient 接続先GW の決定手法を提案する。

  1. Takahiro Kitagawa, ``Application of IoT communication protocol to DCIM (Data center Infrastructure Management) System'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.

2.1.4 数値流体力学シミュレーションと消費電力モデルを連携したデータセンタの消費電力シミュレータの構築

構築する消費電力シミュレータ

近年、様々なネットワークサービスの増加やクラウドコンピューティングの普及により、データセンタの需要が増加している。それにより、データセンタの運用コストも増加しており、その省電力化のため、サーバへのワークロードの割り当て方法や空調機の制御を効率的に行う研究が注目を集めている。しかし、データセンタのように様々な種類の機器が混在して稼働している環境においては、個々の機器の省電力化だけでは期待している効果が得られないことがある。したがって、データセンタのより効率的な省電力化のためには、それらの機器を連携して制御することが必要となる。データセンタの消費電力においてサーバなどのIT 機器と空調機の消費電力は大部分を占める。そのため、連携制御による省電力化を実現するためには、データセンタ内に混在しているIT 機器と空調機の消費電力を把握し、その総和が減少するように制御する必要がある。サーバ、空調機の消費電力はその吸気部の温度に強く依存するため、これらの機器の消費電力を把握するためには、データセンタ内の温度分布が必要となる。

機械学習を用いて、データセンタ内の温度分布を予測する研究も行われている。しかし、この方法による温度分布予測には、学習データとなるデータセンタの稼働データが必要となる。そこで、本研究では、データセンタ内の温度分布を予測する技術として、Computational Fluid Dynamics(CFD) シミュレーションを用いる。CFD シミュレーションでは、入力としてサーバや空調機の消費電力と、空調機の設定温度や設定風量があれば、データセンタ内の温度分布を予測することができるため、学習用の稼働データを必要としない。このようにして予測したデータセンタ内の温度分布を用いて、サーバや空調機の消費電力を推定する。ただし、CFD シミュレーションを行うためには、各機器の消費電力や、データセンタ内の温度分布に影響を与える設定の情報が必要である。そのため、CFD シミュレーションによるデータセンタ内の温度分布の予測と、各機器の消費電力の推定は相互に依存する関係となる。したがって、現実のデータセンタに則した温度分布及びその消費電力を得るためには、CFD シミュレーションによる温度分布の予測と、各機器の消費電力推定を交互に繰り返すことが必要になる。

本研究では、このようにCFD シミュレーションと各機器の消費電力モデルを組み合わせた、データセンタの消費電力シミュレータを構築した。この消費電力シミュレータは、各サーバへのワークロード割り当て及び、空調機の設定温度と設定風量を入力とし、データセンタ全体の消費電力を出力としている。そして、構築したデータセンタの消費電力シミュレータを用いて、入力された各サーバへのワークロードの割り当てに対して、データセンタの総消費電力を低減する、最適な各サーバへのワークロードの割り当てを求めることを示した。

  1. Kyohei Terayama, ``Optimization of workload allocation to servers using data center power consumption simulator based on CFD'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.

2.1.5 自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術

自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術

近年、高性能計算機環境やGPU による演算を行うようなサーバにおいては、プロセッサ当たりの消費電力が大きくなっている。そのため、稼動時の発熱量が大きく、空調を用いた冷却方式では効率的な冷却を行うことができない。この課題を解決するために、特にスーパーコンピュータのようなシステムにおいては、CPU の冷却を水冷によって行い、他の箇所の冷却を空冷で行うようなハイブリッド冷却方式が採用されている。

しかし、ハイブリッド冷却方式は、空調設備を必要とするので、電力効率などの観点で最適な冷却とは言えない場合がある。それに対し、発熱量が高い機器を冷却する方法として、サーバを液体の冷媒に浸潤させる液体浸潤方式がある。液体浸潤方式はハイブリッド冷却方式に比べ、安価に発熱量の高い機器を冷却することができる。従来の液体浸潤方式では、ポンプを用いて冷媒を循環させることで強制的に対流を起こす手法が取られていた。この方式では、ポンプを稼働するための電力コストや故障等によるポンプの停止への対応が課題となっている。それに対し、我々の研究グループでは、ポンプを必要としない自然対流を用いた液体浸潤方式を提案しているが、冷却性能の評価が行われていない。

そこで本報告では、自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術の性能評価を、CFD シミュレーションを用いて行った。具体的には、液体浸潤方式を用いたサーバシステムのシミュレーションモデルを構築し、物性値の異なる様々な冷媒を用いたシミュレーションを行うことで、CPU 表面温度や冷媒の対流速度を評価した。その結果、大きなレイリー数を持つフロリナートを冷媒として用いることで、CPU を効率的に冷却できることを明らかにした。また、CPU の発熱量の不均一性が冷却性能に与える影響や、CPU にヒートシンクを設置することの効果に関する評価を行った。その結果、あるCPU 発熱量の変動は、周囲のCPU の冷却効果には大きな影響を与えないこと、また、ヒートシンクを設置することにより、冷媒の種類に関わらず一定程度の冷却性能が得られることを明らかにした。

  1. 大エキ健太郎, ``自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術の性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.

2.2 IoT情報を地域分散保存する技術に関する研究

Internet of Things (IoT) の普及に伴い、データセンタはセンサ情報や機器情報などの膨大なデータを管理することが求められている。データセンタの管理するデータ損失のリスクを減らすために、複数の大陸に地域分散保存することにより、冗長性をもたせつつ、アクセス頻度等の情報に基づき、ファイルを分類、保存することによる省エネ機構を抜本的に解決する Cold Storage Geo Replication 技術とその活用技術に取り組んでいる。

2.2.1 Cold Storage Geo-Replicationシステムの構築

Cold Storage Geo-Replicationシステム

データセンタが管理するデータは年々増加しており、その電力コストが年々増大している。データセンタのストレージに保存されるデータには、ホットデータと呼ばれる、アクセス頻度が高いデータと、コールドデータと呼ばれる、アクセス頻度が低いが総量が大きなデータが混在している。コールドデータとホットデータの混在によるコスト増大を解消するための方法として、データをそのアクセス頻度に応じて分類し、適切なストレージに保存する階層化ストレージがある。

一方、データセンタが管理するデータ損失のリスクを減らすために、遠隔地にデータの複製を保存するGeo-Replication と呼ばれる手法がある。Geo-Replication により、一か所のデータセンタが災害等によって機能を失った場合にも、他のデータセンタに保存されたデータにアクセスすることでデータの可用性が高まる。

我々の研究グループでは、階層化ストレージとGeo-Replication を組み合わせたシステムである、コールドストレージGeo-Replication システムを構築している。本システムでは、階層化ストレージを用いることでデータ管理によって生じる電力コストを削減しつつ、Geo-Replication によってデータの可用性を高めることができる。本研究では、Cold Storage Geo-Replication システムにのシステムアーキテクチャを提案し、実証システムを構築した。

  1. Enkhee Temuulen, ``Proposal of system architecture of cold data?geo-replication for cloud storage'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  2. 入江諒, ``コールドストレージGeo-Replicationシステムにおけるプロキシサーバの構築および性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.

2.3 エネルギー管理システム (Energy Management System) に関する研究

家庭やビルなどのエネルギー消費を制御する技術として、エネルギー管理システム (EMS:Energy Management System) が注目を集めている。EMSでは、多数のセンサや制御機器の情報を監視、制御を行うことで、エネルギーの削減や機器の適切な制御を行う。本研究テーマでは、EMSのためのシステムアーキテクチャや通信プロトコルを検討している。また、多数のセンサ情報や制御情報、ユーザとの対話等の情報を基に機械学習に基づいたAIエンジンに基づくM2M、H2Mを共存させたスマートコミュニティの機器制御を検討している。

2.3.1 ユーザとシステムとの対話に基づいたクラウド型EMSの構築

Chatbot EMS の概要図

Internet of Things (IoT) の普及に伴い、家電や照明、空調等の機器がネットワークを通じた管理・制御が行えるようになっている。とりわけエネルギー需要の増加に対する省エネルギーへの取組みとして、ネットワークを通じてセンサ機器や制御機器から情報を収集し、エネルギー消費の管理・運用を実現するエネルギー管理システム(EMS) が大きな注目を集めている。EMS による電力管理を行うためには、EMS サーバ等の専用の機器の導入やその管理が必要になる。そのため、一般家庭やオフィスを対象とした Home EMS (HEMS) や Bulding EMS (BEMS) を導入には、導入コストや管理コストが高いことが課題となる。

この課題を解決する方法として、クラウド型 EMS がある。クラウド型 EMS では、EMSサーバをクラウドに配置し、インターネットを通じて複数のユーザで計算資源を共有して利用することで、導入コストや管理コストを低減できる。従来のEMSでは、センサや機器から収集される情報を基に目的に応じたエネルギー管理が行われてきた。しかし、一般家庭やオフィス等では、センサや機器の情報のみからエネルギー管理を行うだけではなく、多種多様なユーザ要求をシステムエネルギー管理へ反映することが必要とされる。しかし、多種多様なユーザ要求をシステム制御へ反映するためには専門のオペレータが必要になり、サービスのコストの増加を招く。

本研究では、この問題を解決する方法として、オフィス内の機器を対象とし、ユーザ要求を専門のオペレータなしで反映するchatbot EMSを提案、実装した。Chatbot EMSは、サービスプロバイダーが提供するWeb アプリケーションを通じてユーザがシステムと対話することにより、ユーザ要求を収集する。システムは収集したユーザ要求と各種機器の情報を基に制御値を決定することで、ユーザとの対話に基づいた制御を実現する。本稿では、ASP型EMSを実現するためにブローカの性能検証を行った。性能検証の結果、ブローカが1秒間に処理するメッセージ数がブローカの負荷の最も大きな原因であり、CPUが律速することを明らかにした。また、本稿で提案するChatbot EMSを実装した。チャットアプリケーションを用いてユーザ要求を基に、オフィステストベッド内のライトを制御できることを確認した。

  1. Hiroki Tanaka, ``Design and implementation of cloud-based enegy manegement system based on human-machine interaction'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  2. 樽谷優弥, 長谷川剛, 松田和浩, 松岡茂登, ``ユーザとの対話に基づいた Chatbot EMS の構築,'' 電子情報通信学会総合大会論文集 SS-118-119, 2017年3月.

2.3.2 機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御

気象データを用いた太陽光発電量の予測

近年、再生可能エネルギー発電設備の導入が進んでおり、とりわけ太陽光発電設備の導入が急速に拡大している。 一方で、再生可能エネルギーによる発電電力の買取制度や電力自由化などの要因から、スマートホーム市場の拡大が期待されている。 太陽光発電や燃料電池などの各種発電設備、家庭用蓄電池といった蓄電設備を備えたスマートホームの運用を考えた際、数日先の太陽光発電量が予測できれば、将来の発電量を考慮した電力の使用や売却といった、より効率的な電力制御が可能であると考えられる。 しかし、太陽光発電は気象変動、特に日射量に依存して大きく変動するため正確な予測が難しい。

そこで本研究では、機械学習を用いて太陽光発電量を予測し、その予測値をもとにスマートホームにおける電力制御を行う手法を提案した。 具体的には、石川県小松市に設置された実験用スマートホームでの観測データと過去の天気データを機械学習の学習データとして使用し、太陽光発電量の予測モデルを作成した。 作成した予測モデルを用いて、一般に公開されている気象予報から数日先の太陽光発電量を予測することができる。 次に、得られた予測値をもとに、スマートホーム内の電力の運用を決定する手法を提案した。 具体的には、電力の運用は、電力買取制度による電力の売却を考慮する場合としない場合を想定し、それぞれに対して電力料金を抑える制御を構築した。

太陽光発電量の予測精度の評価は、実験用スマートホームで得られた観測値と予測モデルから得られた予測値を比較することによって行った。 その結果、観測値と予測値の一日の総発電量の絶対誤差が、晴れの日では1116 W、雨の日では217 Wとなること、及び一月の総発電量の平方平均二乗誤差が1462 W、標準偏差が913 Wになることを示した。 また、太陽光発電量の予測値に基づいた電力制御手法の評価をシミュレーションによって行った。 その結果、電力制御を行わない場合に比べて、電力買取制度を考慮しない場合には約23%の電力料金を削減できることを示した。 また、電力買取制度を考慮した場合にも提案手法が有効であることを明らかにした。

  1. 村岡駿, 長谷川剛, 松田和浩, 松岡茂登, 牧野義樹, 丹康雄, ``機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御,'' 電子情報通信学会技術研究報告(NS2016-86), vol. 116, no.230, pp. 67-72, 2016年9月.

2.3.3 IEEE1888 over WebSocket

IEEE1888 over WebSocket

インターネット技術の普及に伴い、センサ機器やアクチュエータ機器との通信にインターネット技術が基盤として用いられるようになっている。この動きはInternet of Things (IoT) と呼ばれる分野に発展し、多くの注目を集めている。特に、ネットワークに接続されているセンサ機器やアクチュエータ機器から得られる情報を用いて、電力使用状況の可視化や、接続機器の制御等を行うことによりエネルギー消費の最適化を実現するエネルギー管理システム(EMS:Energy Management System) が注目を集めている。しかしながら、多種多様な機器が存在する状況では様々なプロトコルが用いられており、その実現は容易ではない。

このEMS 向けの通信プロトコルとしてIEEE1888が挙げられる。IEEE1888 はセンサ機器やアクチュエータ機器の情報収集や制御等をSOAP 通信で交換するプロトコルとして設計されており、その通信にはHyper Text Transper Protcol (HTTP) が用いられる。これにより、EMS の適用範囲をインターネット環境に拡大すること、および様々な情報システムとの親和性を確保している。このようにIEEE1888 は、インターネット基盤が普及した現在では、広域、大規模なEMS に適したEMS 用プロトコルであると言える。しかしながら、セキュリティ等の理由により通信が制限されたネットワーク環境が存在する。例えば、ファイアウォールによって内部からは通信が行うことができる一方で、外部からはネットワーク内の機器に対して通信できない状況が考えられる。そのような通信が制限されたネットワーク環境下の機器に対しても、ネットワーク外部の機器からセンサ機器の情報の収集やアクチュエータ機器の制御を行うことが必要とされる。従来のIEEE1888 の仕組みでは、このような環境下に存在するIEEE1888 コンポーネントに対して、そのネットワーク外部に存在するIEEE1888コンポーネントから接続することはできない。

本研究では、このような通信が制限されたネットワーク環境において、IEEE1888 コンポーネント同士による相互接続や通信の実現する方法を提案する。提案方式では、通信制限のあるネットワーク環境下のIEEE1888サーバのURL を代理するURL をそのネットワークの外部に用意し、かつ外部のネットワークにあるIEEE1888サーバのURL を代理するURL を通信制限のあるネットワーク内に用意することにより、双方のネットワークにあるIEEE1888 コンポーネント同士を相互に到達可能にする方法を採用する。また、代理URL を提供するコンポーネント同士でWebSocket プロトコルを用いたコネクションを確立することで、通信の双方向性をもたせ、双方のネットワークにある機器からの相互アクセスを実現する。提案方式は、IEEE1888 サーバのURL の代理、および通信制限のあるネットワーク環境とその外部ネットワークの間を結ぶWebSocket コネクションを構築するためのコンポーネントを追加するだけであり、IEEE1888 を使用した既存のネットワークに組み込みが容易である。提案したIEEE1888 over WebSocket のプロトタイプを実装し、その動作検証を行った。その結果、通常の方法では通信不可能なIEEE1888 コンポーネントに対しても通信が可能となることが確認した。

  1. 樽谷優弥, 村田修一郎, 松田和浩, 松岡茂登, ``ネットワーク境界越が可能なIEEE1888 over Websocket の提案と実装,'' システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集 60, 6p, 2016-5-25,2016年5月.
  2. Yuya Tarutani, Shuuichirou Murata, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``IEEE1888 over WebSocket for communicating across a network boundary,'' in Proceedings of BIoT 2016(IEEE COMPSAC 2016 workshop), June 2016.[paper]

2.4 クラウドネットワークアーキテクチャに関する研究

2.4.1 ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究

ハイブリッドクラウドシステム

広域ネットワークの広帯域化を背景に、オンプレミス型プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせてアプリケーションシステムを構成するハイブリッドクラウドが普及しつつある。 特に、計算リソースを定常的にプライベートデータセンタに配備し、リソース不足時にパブリックデータセンタへスケールアウトを行う方式をクラウドバースティングと呼ぶ。 このクラウドバースティングにおいては、プライベートとパブリックの各データセンタ間の負荷分散を適切に行うことで、サービスレベルを守りつつ全体コストを最小化することが求められる。

そこで本研究では,ビジネスクリティカルシステムに対して、プライベートおよびパブリックデータセンタの二センタ構成とし、平均的な処理要求に必要な計算資源をプライベートデータセンタに固定的に配備し、処理要求の増加時にはパブリックデータセンタの計算資源をオンデマンドに拡張することで、可用性や性能要件を満たしつつ計算資源の利用効率を高める方式を提案した。具体的には、モデル予測制御の適用により、計算資源の過度なスケールアウト/インを避けつつ目標利用率を保つ。まず、計算資源のコスト、障害耐性、操作量に着目した評価モデルを提案し、次いで、実ウェブシステムのトレースデータを用いて計算機シミュレーションを行った。リクエスト受信率予測誤差によりシステム利用率が頻繁にしきい値以上となるが、操作量を考慮することで制御回数が抑制され、結果として高利用率が緩和されることを示した。

  1. Yukio Ogawa, Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Cloud Bursting Approach Based on Predicting Requests for Business-Critical Web Systems,'' in Proceedings of IEEE ICNC 2017, January 2017.
  2. 小川祐紀雄, 長谷川剛, 村田正幸, ``モデル予測制御によるハイブリッドクラウド環境でのビジネスクリティカルシステムの計算資源配置の一検討,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 116, no. 322, NS2016-101, pp. 1-6, 2016年11月.

2.4.2 エッジコンピューティングによるWeb性能向上に関する研究

エッジコンピューティングによるWeb性能向上に関する研究

クライアントPC からのリクエスト受信時に、サーブレットやJava Server Pages (JSP)のプログラムをサーバ側で実行するか、JavaScript で書かれたAjax やDOM によるプログラムをHTML に埋め込みクライアントPC 側で実行することで生成される動的オブジェクトの割合が増加している。 その結果、Webサイト閲覧時に発生する通信パタンが複雑化している。 一方で、67%のユーザは毎週のようにWeb 閲覧時の待ち時間の長さを感じており、17%のユーザはWeb 閲覧時に最大でも5 秒しか待てないという報告がなされており、複雑性を増すWeb トラヒックをいかにして効率的に配信するかが重要な課題となっている。

本研究では、そのような動的コンテンツを効率良く配信するために、クライアントに近いエッジネットワークにおいてコンテンツを生成・配送するエッジコンピューティングに着目した。しかし、エッジコンピューティングの有効性は、オブジェクトの地理的な分散配置や、Webページのジャンルに依存したコンテンツの地理的配置に依存する。そこで、そのような地理的傾向を計測し、その結果と数学的解析を用いることによって、エッジコンピューティングがWeb性能向上に寄与する度合いを明らかにした。1,000のWebサイトのコンテンツを12箇所からダウンロードする実験の結果、提案方式によってWebのレスポンス時間を20%削減できることを明らかにした。

  1. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomotoy, Go Hasegawaz, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, ``Priority Control Based on Website Categories in Edge Computing,'' in Proceedings of 9th IEEE Global Internet Symposium (GI 2016), April 2016.
  2. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, ``Analyzing Effect of Edge Computing on Reduction of Web Response Time,'' in Proceedings of GLOBECOM 2016, December 2016.

2.4.3 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究

生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法

Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。

本研究では,化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて,上記のようなネットワークサービスにおいて,提供するサービスや機能を適切な場所で実行し,サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案している.提案手法では,サービスや機能を実行するサーバを個々のタプル空間とみなし,ユーザからのリクエスト量やサービスの需要量等を化学物質として考え,サーバ内の局所的な状況を化学物質の濃度変化や拡散によって表現する.そして,その空間で,各サービスに対するリクエストをサーバ資源を用いて処理する反応式を定義し,それを実行することにより,サービスの需要に応じたサーバ資源の共有をシステム内の各デバイスの自律的な動作によって実現する.

また,提案システムをNetwork Function Virtualization (NFV)を実現するために適用することを考え,NFVにおけるサービチェイニング,Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置,フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し,その有効性を確認した.また、簡易なNFV環境を用いた実装実験により、提案システムが仮想化ネットワークシステムに求められる様々な機能を実現できることを確認した.

  1. 黒川稜太, ``生化学反応モデルに基づいた仮想ネットワーク機能の動的資源配分手法の実験評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.

2.4 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究

エンドホスト間でデータを高速に、かつ効率よく転送するための中心技術がトランスポートプロトコルである。特にインターネットで用いられているTCPでは、エンドホストがネットワークの輻輳状態を自律的に検知して転送率を決定している。これは、インターネットの基本思想であるEnd-to-end principleの核になっているものであるが、エンドホストの高速化により、その適応性をより高度なものにできる可能性が十分にある。本研究テーマでは、そのようなトランスポートプロトコルそのものに関する研究、および、そのようなトランスポートプロトコルを用いるアプリケーションシステムの性能向上に関する研究に取り組んでいる。

2.4.1 M2M通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャに関する研究

M2M 通信収容のための仮想モバイルコアネットワークアーキテクチャ

携帯電話加入者数の増加や高機能なスマートフォン等の普及により、3G やLTE などのモバイルネットワークにおいて、ユーザプレーンとコントロールプレーンの双方において発生する輻輳への対応が課題となっている。 特にコントロールプレーンの輻輳については、新たな需要拡大を伴う通信形態であるMachine-to-Machine (M2M) 通信による影響が大きいと指摘されている。 M2M通信は、通信するデータ量そのものは多くはないが、端末数が膨大になるとされており、その通信特性は大きく異なる。 そのため、M2M 通信を行う端末(以下ではM2M 端末と呼ぶ) を従来の携帯電話端末と同じ方式でモバイルネットワークに接続すると、特にコントロールプレーンの輻輳が悪化すると考えられる。 スマートフォンのようなユーザ端末のトラヒックはユーザの端末操作に応じて発生し、遅延時間に対する要求条件も厳しいため、輻輳解消のための制御は不向きである。 一方、M2M 端末が発生させる通信は一般的に機械に組み込まれることが多く、端末数が非常に多く、間欠的であり、遅延時間に対する制約はユーザ端末に比べると緩い。 このような特性を持ったトラヒックに関して、制御の効果を生み出しやすいことが期待される。

そこで本研究では,モバイルコアネットワークの負荷を軽減するための通信集約手法を提案し、その性能評価を行った。また、端末側のシステムインテグレータで集約を行う場合やネットワークにおいて集約を行う場合等の集約箇所の違いや,集約の度合が性能に与える影響を数学的に解析し,集約によって軽減されるモバイルネットワークの処理負荷や,M2M 通信に新たに発生する遅延時間の特性を評価した.評価の結果,モバイルコアネットワークの仮想化を行い、資源利用効率を高めることで、端末収容効率が32.8%向上し、通信集約手法を適用することでさらに201.4%の向上が可能であることを明らかにした。。

さらに,モバイルコアネットワークの実装であるOpen Air Interface (OAI)に基づいて実験ネットワークを構築し、ノードに負荷をかけた際のベアラ確率時間の評価を行った。その結果、ノードが高負荷である状態では、小さいが無視できない確率で、シグナリングメッセージの処理時間が10倍から100倍に増大することがわかった。

  1. 長谷川剛, 村田正幸, ``ノード仮想化とプレーン分離を適用した広域モバイルコアネットワークの性能評価,'' 電子情報通信学会ネットワークシステム研究会, 2016年4月.
  2. 阿部修也, 長谷川剛, 村田正幸, ``C/U分離を適用したモバイルコアネットワークにおける通信集約方式の性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 116, no. 382, NS2016-122, pp. 25-30, 2016年12月.
  3. 上野真生, ``仮想化モバイルコアネットワークの機能配置のためのシグナリングプロトコル処理遅延の実験的評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.

2.4.2 Web パフォーマンス計測と性能向上に関する研究

Webパフォーマンス測定プラットフォーム

近年、Webパフォーマンスの重要性が注目を集めている。 Webパフォーマンスとは、Webページ上のリンクがクリックされてから、次のWebページを構成するオブジェクトがダウンロードされ、表示が完了するまでの時間である。 ユーザはWebパフォーマンスが低いWebページから離れる傾向にあり、Webパフォーマンスの低下はサービス提供者の収入の低下に直結する。 このため、サービス提供者は自身が提供するWebページのパフォーマンスを測定し、パフォーマンス低下の原因を究明、改善する必要がある。 しかし、このようなWebパフォーマンスの低下原因は、ネットワーク環境やクライアントの性能等、Webブラウザの動作環境によって変わると考えられる。

本研究では、Webブラウザの動作環境を変化させ、且つ、Webパフォーマンスに加えてサーバ・ネットワーク・クライアントそれぞれのパフォーマンスについて測定可能とする、Webパフォーマンス測定プラットフォームを提案する。 提案手法を評価した結果、提案手法は959個のWebページの88のホストでの測定において、測定にかかる稼働は30分程度でWebブラウザの動作環境の多様性によらず一定であり、PlanetLabを用いることで多様なWebブラウザの動作環境での測定ができることを確認した。 これにより、測定結果から、Webページのパフォーマンス改善の方針を検討できるデータを収集することができた。

  1. 中野雄介, 上山憲昭, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, 宮原秀夫, ''Webパフォーマンス測定プラットフォームの提案と評価,'' 電子情報通信学会和文論文誌, Vol. J99-B, No.4, pp.313-322, Apr. 2016.

2.4.3 電力供給ネットワークと情報ネットワークの相互依存関係に関する研究

電力供給ネットワーク

インターネットや企業情報ネットワークなどの情報通信ネットワークは、一般的に基幹部分には冗長化構成を採用しており、情報ネットワーク自身の障害に対しては一定レベルの可用性を有している。一方、電力供給ネットワーク(以下、電力ネットワークと記す)に対しては、電力を供給され制御を行うといった機能的な依存関係や、同一の地理的な場所に設置されるといった空間的な依存関係を有する。例えば、地震の際に、広域情報ネットワークにおいて情報機器の電源が失われたり、情報ネットワークと電力ネットワーク双方の機器やケーブルが収容されている建物や管路が損壊したりするといった事例が報告されているが、従来の情報ネットワークの可用性に関する検討は、このような依存性を十分には考慮していない。

そこで本研究では、情報通信ネットワークの電力供給ネットワークへの依存性に着目し、電力供給ネットワークの障害時における情報通信ネットワークの脆弱性の評価を行った。まず、障害時における電源停止範囲の観点から電力供給ネットワークのトポロジをモデル化し、システム全域での通信帯域を指標とした情報通信ネットワークの脆弱度を提案した。次いで、四つの建物からなる構内設備情報をもとに情報通信ネットワークの脆弱度を評価した。その結果、データセンタに集約される通信の場合、全トラヒックが遮断される確率が0.01 程度であるが、データセンタ内のサーバやスイッチにUPS を適用することで改善が図れ、各部屋に分散される通信の場合、同確率が0.003 程度であるが、100 台以上のUPS を割り当てても改善効果が小幅に止まることを明らかにした。

  1. 小川祐紀雄, 長谷川剛, 村田正幸, ``電力供給ネットワークへの依存性を考 慮した構内情報通信ネットワークの脆弱性に関する一検討,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 116, no. 485, IN2016-104, pp. 43-48, 2017年3月.

2.4.4 仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの性能評価に関する研究

仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの性能評価に関する研究

近年、第5 世代携帯電話網の実現に向けて、モバイルネットワークを構成するRadio Access Network (RAN)やフロントホールネットワーク、バックホールネットワークの再考が進んでいる。そのような新たなネットワークにおいては、資源利用効率を高めるために、計算機資源やネットワーク資源の仮想化技術が前提となっている。特に、Software Defined Network (SDN)技術は、ネットワークの柔軟な制御を可能とする重要な技術として考えられている。モバイルネットワークに対して仮想化技術を適用することで、トラヒック需要の変動に応じた柔軟な計算機資源の制御やネットワーク制御が可能となる。また、ネットワークの省電力化に対しても有効であると考えられている。しかし、特にモバイルネットワークにおいては、仮想化技術の適用によるそれらの効果の定量的な評価はほとんど行われていない。

そこで本研究では、モバイルアクセスネットワークに着目し、仮想化技術に基づいた集中制御の有効性を明らかにすることを目的とした。そのために、まず、評価対象である、仮想化技術を前提としたアクセスネットワークのモデル化を行う。次に、そのモデルをモバイルアクセスネットワークへ適用し、数値評価を行う。性能評価は、端末を含めたネットワーク全体の消費電力、端末の通信時に発生する遅延時間やスループットの観点で行う。評価の結果、消費電力が低く抑えられる一方で遅延時間やスループットが悪化する場合があるということがわかった。

  1. 山崎里奈, ``仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの消費電力の削減効果に関する解析的性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.

発表論文一覧

学術論文誌掲載論文

  1. 中野雄介, 上山憲昭, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, 宮原秀夫, ''Webパフォーマンス測定プラットフォームの提案と評価,'' 電子情報通信学会和文論文誌, Vol. J99-B, No.4, pp.313-322, Apr. 2016.

解説論文・記事等

該当なし

国際会議発表

  1. Nagao Ogino, Takeshi Kitahara, Shin'ichi Arakawa, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, ``Decentralized Boolean Network Tomography Based on Network Partitioning,'' in Proceedings of IEEE NOMS 2016, April 2016.
  2. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomotoy, Go Hasegawaz, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, ``Priority Control Based on Website Categories in Edge Computing,'' in Proceedings of 9th IEEE Global Internet Symposium (GI 2016), April 2016.
  3. Yuya Tarutani, Kazuyuki Hashimoto, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Takumi Tamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Reducing Power Consumption in Data Center by Predicting Temperature Distribution and Air Conditioner Efficiency with Machine Learning,'' in Proceedings of IEEE International Conference on Cloud Engineering 2016 (IC2E2016), April 2016.[paper]
  4. Yuya Tarutani, Shuuichirou Murata, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``IEEE1888 over WebSocket for communicating across a network boundary,'' in Proceedings of BIoT 2016(IEEE COMPSAC 2016 workshop), June 2016.[paper]
  5. Shinya Tashiro, Yutaka Nakamura, Kazuhiro Matsuda and Morito Matsuoka, ``Application of Convolutional Neural Network to Prediction of Temperature Distribution in Data Centers,'' in Proceedings of IEEE Cloud 2016, July 2016.[paper]
  6. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata and Hideo Miyahara, ``Analyzing Effect of Edge Computing on Reduction of Web Response Time,'' in Proceedings of GLOBECOM 2016, December 2016.
  7. Yukio Ogawa, Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Cloud Bursting Approach Based on Predicting Requests for Business-Critical Web Systems,'' in Proceedings of IEEE ICNC 2017, January 2017.

口頭発表(国内研究会など)

  1. 長谷川剛, 村田正幸, ``ノード仮想化とプレーン分離を適用した広域モバイルコアネットワークの性能評価,'' 電子情報通信学会ネットワークシステム研究会, 2016年4月.
  2. 樽谷優弥, 村田修一郎, 松田和浩, 松岡茂登, ``ネットワーク境界越が可能なIEEE1888 over Websocket の提案と実装,'' システム制御情報学会研究発表講演会講演論文集 60, 6p, 2016-5-25,2016年5月.
  3. 村岡駿, 長谷川剛, 松田和浩, 松岡茂登, 牧野義樹, 丹康雄, ``機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御,'' 電子情報通信学会技術研究報告(NS2016-86), vol. 116, no.230, pp. 67-72, 2016年9月.
  4. 小川祐紀雄, 長谷川剛, 村田正幸, ``モデル予測制御によるハイブリッドクラウド環境でのビジネスクリティカルシステムの計算資源配置の一検討,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 116, no. 322, NS2016-101, pp. 1-6, 2016年11月.
  5. 阿部修也, 長谷川剛, 村田正幸, ``C/U分離を適用したモバイルコアネットワークにおける通信集約方式の性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 116, no. 382, NS2016-122, pp. 25-30, 2016年12月.
  6. 小川祐紀雄, 長谷川剛, 村田正幸, ``電力供給ネットワークへの依存性を考 慮した構内情報通信ネットワークの脆弱性に関する一検討,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 116, no. 485, IN2016-104, pp. 43-48, 2017年3月.
  7. 樽谷優弥, 長谷川剛, 松田和浩, 松岡茂登, ``ユーザとの対話に基づいた Chatbot EMS の構築,'' 電子情報通信学会総合大会論文集 SS-118-119, 2017年3月.
  8. 田代晋也, 中村泰, 松田和浩, 松岡茂登, ``データセンタのAIクラウドによる予測制御のための消費電力予測モデルの構築,'' 電子情報通信学会総合大会論文集 SS-120-121 ,2017年3月.

3.5. 博士論文・修士論文・特別研究報告

3.5.1. 博士論文

該当なし

3.5.2. 修士論文

  1. Enkhee Temuulen, ``Proposal of system architecture of cold data?geo-replication for cloud storage'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  2. Takahiro Kitagawa, ``Application of IoT communication protocol to DCIM (Data center Infrastructure Management) System'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  3. Shinya Tasiro, ``Power Consumption Prediction of Data Center by Deep Neural Network'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  4. Hiroki Tanaka, ``Design and implementation of cloud-based enegy manegement system based on human-machine interaction'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.
  5. Kyohei Terayama, ``Optimization of workload allocation to servers using data center power consumption simulator based on CFD'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2017.

3.5.3. 特別研究報告

  1. 入江諒, ``コールドストレージGeo-Replicationシステムにおけるプロキシサーバの構築および性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.
  2. 上野真生, ``仮想化モバイルコアネットワークの機能配置のためのシグナリングプロトコル処理遅延の実験的評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.
  3. 黒川稜太, ``生化学反応モデルに基づいた仮想ネットワーク機能の動的資源配分手法の実験評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.
  4. 山崎里奈, ``仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの消費電力の削減効果に関する解析的性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.
  5. 大エキ健太郎, ``自然対流を用いた液体浸潤方式によるサーバ冷却技術の性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2017.