大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門
(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座)
2015年度研究成果報告

本Webページは大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座、松岡研究室)の2015年度の研究成果をまとめた報告書です。ご清覧いただき、忌憚のない意見を下されば幸いです。

目次

  1. メンバー
    1. スタッフ
    2. 共同研究者
    3. 学生
  2. 研究業績
    1. データセンタの省電力化に関する研究
      1. データセンタの消費電力削減のためのエネルギー管理アーキテクチャの提案
      2. 空調機の消費電力の削減のための機械学習を用いた温度予測
      3. データセンタの温度分布予測のためのネットワークモデルの提案
      4. 機械学習に基づくサーバ電力消費モデルの構築
      5. 機械学習に基づいたデータセンタの空調機の消費電力モデルの構築
      6. 数値流体力学シミュレーションと消費電力モデルを連携したデータセンタの消費電力シミュレータの構築
    2. エネルギー管理システム (Energy Management System) に関する研究
      1. WebSocket技術を用いたクラウド型エネルギー管理システムの性能評価
      2. 機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御
    3. オーバレイネットワークアーキテクチャに関する研究
      1. オーバレイルーティングによって増加する ISP 間トランジットコストの削減に関する研究
      2. オーバレイネットワークにおけるネットワーク性能計測手法に関する研究
      3. マルチテナント型データセンタにおける仮想ネットワーク配置に関する研究
      4. ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究
      5. 無線センサネットワークにおける受信電波強度に基づいた省電力情報伝播手法に関する研究
      6. Webトラヒック制御に関する研究
      7. 化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究
    4. 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究
      1. TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減に関する研究
      2. M2M通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャに関する研究
      3. スマートフォンアプリケーションのパケット分類手法に関する研究
      4. Web パフォーマンス計測と性能向上に関する研究
      5. ネットワーク省電力化のためのルータにおけるコンテンツキャッシングに関する研究
  3. 発表論文一覧
    1. 学術論文誌
    2. 解説論文・記事
    3. 国際会議会議録
    4. 口頭発表
    5. 博士論文・修士論文・特別研究報告
      1. 博士論文
      2. 修士論文
      3. 特別研究報告

1. メンバー

1.1. スタッフ

松岡 茂登
松岡 茂登
教授
長谷川 剛
長谷川 剛
准教授
樽谷 優弥
樽谷 優弥
助教
藤井 匡江
藤井 匡江
秘書

1.2. 共同研究者

村田 正幸
村田 正幸
大阪大学
教授
萩田 紀博
萩田 紀博
ATR IRC
所長
上羽 正純
上羽 正純
室蘭工業大学
教授
浮田 宗伯
浮田 宗伯
奈良先端科大
准教授
多田 知正
多田 知正
京都教育大学
准教授
中村 泰
中村 泰
大阪大学
特任准教授
谷口 義明
谷口 義明
近畿大学
講師
松田 和浩
松田 和浩
大阪大学
招へい研究員
江崎 浩
江崎 浩
東京大学
教授
落合 秀也
落合 秀也
東京大学
講師
村田 修一郎
村田 修一郎
大阪大学
招へい研究員
丹 康雄
丹 康雄
北陸先端科学技術大学院大学
教授

1.3. 学生

通阪 航
通阪 航
博士後期課程3年
出口 孝明
出口 孝明
博士前期課程2年
北田 和将
北田 和将
博士前期課程2年
ENKHEE TEMUYLEN
ENKHEE TEMUYLEN
博士前期課程2年
北川 貴大
北川 貴大
博士前期課程1年
田代 晋也
田代 晋也
博士前期課程1年
田中 博貴
田中 博貴
博士前期課程1年
寺山 恭平
寺山 恭平
博士前期課程1年
阿部 修也<
阿部 修也
学部4年
島袋 友里
島袋 友里
学部4年
薗田 一幹
薗田 一幹
学部4年
村岡 駿
村岡 駿
学部4年

2. 研究業績

2.1 データセンタの省電力化に関する研究

近年、データセンタの消費電力削減が大きな課題となっている。本研究テーマでは、データセンタの省エネルギー技術と、広義の再生可能エネルギーである廃熱をオフィス等へ高効率に利活用する技術を両立させ、抜本的な電力削減を実現することを考えている。具体的には、データセンタの電力消費の3大要素(ICT機器、空調機器、電源)それぞれの省エネ技術について個別に取り組むと共に、高効率に回収した廃熱のオフィス等への利活用技術、およびそれらの統合連携制御を検討している。

2.1.1 データセンタの消費電力削減のためのエネルギー管理アーキテクチャの提案

データセンタエネルギー管理アーキテクチャ

クラウドコンピューティングの普及により、データセンタの数および電力消費は年々増大している。 さらに、Internet of Things (IoT) アプリケーション等のデータ処理を行うため、データセンタへの需要はさらなる増大が見込まれている。 2013 年に910 億kWh であった米国のデータセンタの消費電力は2020 年には1400 億kWh になると予測されている。 それに伴って、データセンタの省電力化に関する研究が注目を集めており、サーバ、ネットワーク機器、空調機等の個別の機器やシステムに対して電力効率を向上させる取り組みが行われている。 しかし、このような個別の機器に対する省電力化では、データセンタの総消費電力を削減できない場合がある。 これは、データセンタでは、ある機器の設定変更が別の機器の消費電力に影響を与えるという依存関係があるためである。 そのため、データセンタの消費電力を削減するためには、従来の個別の機器への対応だけではなく、データセンタ全体の機器の消費電力を考慮し、機器を統合的に制御することによりデータセンタの総消費電力が小さくなるように動作項目を決定するという統合制御が必要となる。

本研究では、データセンタ内の各機器の消費電力を機械学習によって予測する予測器を用いて、各機器の動作設定をデータセンタの総消費電力の削減を目標に決定するエネルギー管理アーキテクチャを提案する。 さらに、具体的な動作設定としてサーバへのタスク配置と空調機設定に着目し、提案するアーキテクチャに基づいてそれらを決定するデータセンタ制御システムを構築する。 データセンタ内に多数存在するサーバへのタスク配置および空調機設定の最適解を全探索によって得るのは現実的ではない。 そのため、本報告では動作設定を決定する手法として、汎用性の高い発見的手法である遺伝アルゴリズムを用いた。 具体的にはサーバへのタスク配置と空調機の設定を遺伝子とし、構築した予測器から得られるデータセンタの総消費電力を適応度とし、適応度が小さい遺伝子を生き残らせ、世代を経ることで適切な動作設定を得る。

提案アーキテクチャに基づいてデータセンタ制御システムを作成し、研究グループが所有するデータセンタテストベッドにおける実験によって性能評価を行った。 その結果、データセンタの総消費電力を、サーバの消費電力を小さくするような設定を行った場合と比較して6.6%、空調機の消費電力を小さくするように設定を行った場合と比較して5.8% 削減できることを明らかにした。

  1. Takaaki Deguchi, ``Dynamic power simulator utilizing computational fluid dynamics and power consumption model for data center'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2016.
  2. 出口孝明, 菅沼孝二, 樽谷優弥, 長谷川剛, 中村泰, 田村卓三, 松田和浩, 松岡茂登, ``データセンタの消費電力削減のための遺伝アルゴリズムに基づくタスク配置・空調機設定手法の性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告、vol. 115, no. 483, NS2015-219, pp.297-302, March 2016.

2.1.2 空調機の消費電力の削減のための機械学習を用いた温度予測

機械学習を利用した温度分布予測

ソーシャルネットワーキングサービスや動画共有サービスのようなクラウド環境に基づくネットワークサービスの普及により、データセンタの需要が増加している。 また、ICT 機器の処理能力の向上に伴う発熱量の増大と、それを冷却するための空調機の消費電力により、データセンタにおける電力コストは年々増加している。 このことから、データセンタの省電力化に関する研究が注目を集めており、データセンタを構成する個別の機器やシステムに対して、電力効率を向上させる取り組みが行われている。 しかし、データセンタ全体のエネルギー効率を改善するためには、各機器間の協調制御が必要であり、特に空調機をデータセンタ内の温度分布に基づいて制御することが効果的であると考えられる。

空調機による冷却設定の変更がデータセンタ全体の温度分布を変化させるまでには、約 10 分の時間を必要とする。 そのため、温度センサを用いて温度分布を計測し、それに基づいて空調機を制御する場合、ICT 機器の動作温度を超えないように、余裕を持たせた空調機の稼働が必要となり、電力効率の低下につながる。 それに対し、温度分布を予測することができれば、予測結果を利用して空調機を制御することが可能になるため、電力削減が可能になると考えられる。 しかしながら、データセンタ内の温度分布は、データセンタ構成、サーバ構成、機器の仕様、サーバで実行されるタスクの特性等の様々な要素に複雑な影響を受けるため、その予測は難しい。

本研究では、データセンタの電力削減を目的とした、機械学習法を利用したデータセンタ内の温度分布の予測手法を提案する。 機械学習法は、観測データが豊富に得られ、かつ多くのパラメータが複雑に影響しあうデータセンタ環境に適していると考えられる。 提案手法においては、データセンタの空調機設定やサーバの消費電力などの稼働データを基に、データセンタ内の温度分布に影響を与えると考えられる変数を特定し、線形回帰法あるいはランダムフォレスト法による温度分布の回帰モデルの学習を行う。 その際、主成分分析により抽出した少数の特徴量を用いることで、学習を高速化し、精度を向上する。その後、構築した回帰モデルを用いて、各機器の設定値からデータセンタ内の温度分布を予測する。 研究グループが運用している実験用データセンタの稼働データを用いて提案手法を評価した結果、空調機の設定値及びサーバのタスク配置を変更してから10 分後のデータセンタ内の温度分布を0.095℃ の確度、及び0.107℃ の精度で予測できることを明らかにした。 また、予測した温度を用いて空調の先回り制御を行った結果、空調の消費電力を最大で30%削減できることを明らかにした。

  1. Yuya Tarutani, Kazuyuki Hashimoto, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Takumi Tamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Temperature distribution prediction in data centers for decreasing power consumption by machine learning,'' in Proceedings of Quality of Service Assurance in the Cloud (IEEE Cloudcom 2015 Workshop), December 2015.

2.1.3 データセンタの温度分布予測のためのネットワークモデルの提案

温度分布予測のためのネットワークモデル

近年、スマートフォンの普及やSNS サービス、オンラインストレージのようなインターネットサービスの増加により、サーバサイドコンピューティングやクラウドコンピューティングに対する需要が増加している。 それに伴い、そのようなサービスを行うデータセンタの数及び規模が年々拡大しており、消費電力の増大が問題となっている。 この問題に対し、データセンタを構成する個々の機器の電力効率を向上させる取り組みが多く行われているが、さらにデータセンタの電力効率を高めるためには、機器間の連携制御が求められる。

空調機の消費電力がデータセンタ全体の消費電力に占める割合が大きいこと、かつ、空調機の制御がデータセンタ全体の温度分布に大きな影響を与えることから、空調機の適切な制御は不可欠である。 空調機の吸気温度や風量の設定変更が、データセンタ内の温度分布に十分な影響を与えるまでには、数分から数十分の時間が必要であるため、空調機の適切な制御を行うためには、データセンタ内の温度分布を実時間で予測することが求められる。

データセンタの温度分布予測に使用される従来のモデルとして、Computational Fluid Dynamics (CFD) をに基づく解析モデルやPotential Flow Model (PFM) などが挙げられるが、温度予測にかかる計算時間が大きいため、実時間制御には利用することが出来ない。 そこで本研究では、計算を単純化することによって、実時間でデータセンタ内の温度分布を予測することができるネットワークモデルを提案する。 提案するモデルでは、データセンタ内に存在する気流や浮力による空気の循環に伴う熱の移動や、ラックに設置されたサーバの位置関係などの様々な物理的な関係をネットワークとしてモデル化する。 さらに、データセンタの過去の稼働データを用いて、モデルが持つパラメータの値を機械学習によって導出し、データセンタ内の温度分布を予測する。 実稼働している約400 台のサーバから構成されるデータセンタの稼働データを用いて、提案モデルによる温度分布の予測を行った結果、データセンタ内の60 箇所の10 分後の温度予測に必要な時間は3.3 ms 程度であり、CFD やPFM と比較して非常に小さいことがわかった。 また、今回提案モデルの評価に用いたデータに関する予測結果の二乗平均平方根誤差は、0.49 ℃に抑えられることを明らかにした。

  1. Shinya Tashiro, Yuya Tarutani, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``A Network Model for Prediction of Temperature Distribution in Data Centers,'' in Proceedings of IEEE Cloudnet 2015, October 2015.

2.1.4 機械学習に基づくサーバ電力消費モデルの構築

サーバの消費電力モデル

近年、クラウドコンピューティングやビッグデータ解析などのネットワークサービスが注目を集めている。これらのサービスを提供するために多くのサーバを収容するデータセンタが建設され、その数は年々増加している。 ネットワークサービスに対する需要の増加やサーバの処理能力の向上による消費電力の増加に伴い、データセンタの電力消費量の増加が問題視されており、その省電力化が重要視されている。

データセンタで消費される電力のうち大部分を占めるのがICT 設備、冷却設備、及び無停電電源装置であり、それら個別の機器の電力効率を向上させる取り組みが行われている。 しかし、データセンタではある機器の設定変更が他の機器の消費電力に影響を与えるような相互依存関係があるため、個別の機器制御のみではデータセンタ全体の電力消費量を効率的に削減することはできない。 したがって、データセンタ内の各機器を連携させた統合制御が必要である。 統合制御を実現するためには、データセンタを構成する各機器の消費電力特性、すなわち、消費電力が何に、かつどの程度の影響を受けるのかを把握することが求められる。

本研究においては、データセンタの消費電力のうち大部分を占めるサーバに着目し、その消費電力モデルを構築することを目的とした。 具体的には、サーバ、扇風機、熱源、風速計を用いて実験設備を構築し、サーバの吸気温度、CPU 使用率、メモリへの負荷、及びハードディスクへの負荷を様々に変化させてサーバを稼動させ、各状態におけるサーバの消費電力の計測を行った。 次に、得られた実験結果を基に、ニューラルネットワークに基づいた機械学習を用いてサーバの消費電力モデルを構築した。 提案したモデルの性能評価は、実験結果と提案したモデルによる予測結果を比較することで行った。 その結果、消費電力を8.5 W以内の誤差で推定できることを明らかにした。

  1. 島袋友里, ``機械学習に基づくサーバ電力消費モデルの構築,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.

2.1.5 機械学習に基づいたデータセンタの空調機の消費電力モデルの構築

空調の消費電力モデル

データセンタでは、ICT 機器の数の増加やその処理能力の増大、またICT 機器の冷却等による消費電力の増加が問題となっており、電力コストが年々増加している。 そのため、その省電力化に関する研究に注目が集まっている。 データセンタの消費電力を削減するためには、データセンタを構成する機器に対して電力効率のよい運用が求められるため、データセンタの個別機器の消費電力特性を把握し、その消費電力を把握することが重要となる。

本研究では、データセンタ内の機器の中でも消費電力の大部分を占める、空調機の消費電力に注目した。 空調機の消費電力は、温度やファン回転数等の設定値だけでなく、外気温度や冷却対象となるサーバからの発熱量等の外的要因にも影響を受ける。 そのため、設定値のみに基づく単純な消費電力予測では、精度の高い消費電力予測を行うことができない。

そこで本研究では、機械学習に基づく手法を用いて、データセンタの空調機の消費電力モデルを構築する。 上述のように、空調機の消費電力は温度、及びファン回転数といった設定値に加え、外気温度、サーバ総消費電力等の外的要因の影響を受けると考え、それらを学習データとして実際に運用しているデータセンタテストベッドから収集した。 さらに、空調機の設定投入後の定常状態における消費電力を高い精度で予測するために、収集したデータは過渡現象部分の排除や正規化等の加工を行った。 収集及び加工したデータをニューラルネットワークに基づいた機械学習法の入力として用いることで、空調機の消費電力モデルを構築した。 ニューラルネットワークの予測精度はそのパラメータ設定に大きく依存するため、パラメータ調整を行うことで予測精度を高めた。

提案モデルの予測精度は、実測値と予測値の平方平均二乗誤差を用いて評価した。 その結果、データセンタテストベッドの空調機の消費電力の予測精度が1.16kW であることがわかった。 さらに提案したモデルと線形回帰モデルの予測精度を比較し、提案モデルによって平方平均二乗誤差が約0.06 kW 改善することを明らかにした。

  1. 薗田一幹, ``機械学習に基づいたデータセンタの空調機の消費電力モデルの構築 ,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.

2.1.6 数値流体力学シミュレーションと消費電力モデルを連携したデータセンタの消費電力シミュレータの構築

構築する消費電力シミュレータ

オンラインストレージなどのネットワークサービスやクラウドコンピューティングの普及により、多くのデータセンタが建設され、その消費電力が増加しており、データセンタの省電力化に関する研究が注目を集めている。 データセンタの総消費電力の大部分はサーバ等のIT 機器と空調が占めているため、サーバや空調のハードウェア電力効率を向上させる研究開発が行われている。 しかし、ある機器の消費電力の削減を達成したとしても、それによって他の機器の消費電力が増大し、データセンタの総消費電力の削減には繋がらない可能性がある。 したがって、データセンタ全体の消費電力を削減するためには、個別の機器の省電力化だけではなく、データセンタ内の機器を連携制御させることが求められる。 連携制御を実現するための一つの方策として、データセンタ内のIT 機器や空調、電源機器などの消費電力の総和を削減するように、機器を設定する方法があげられる。 例えば、データセンタに割り当てられるワークロードが決定された際に、データセンタの総消費電力が削減されるようにサーバに適切にタスクを割当て、空調の制御を行う方法がある。このような制御を実現するためには、サーバへのタスクの割当状況と空調の設定等からデータセンタの総消費電力を把握するようなモデルを用いることが有効であると考えられる。しかし、データセンタは多数のサーバや空調など多数の機器で構成されており、その稼働パターンは多岐にわたる。 そのため、データセンタの総消費電力を直接得るような消費電力モデルを構築するためには、多数かつ長期間にわたる稼働データを用意する必要がある。

データセンタ内の温度分布を予測する技術にComputational Fluid Dynamics (CFD) シミュレーションがある。 CFD シミュレーションは流体の動作を局所的な解析を繰り返して解析領域全体について計算するため、データセンタのような多数の障害物が存在し、気流が均一でない環境の解析に適している。 データセンタのCFD シミュレーションでは、パラメータとしてサーバの消費電力、空調機の吹出し温度、風量を設定することでデータセンタ内の温度分布を得ることができる。 したがって、CFD シミュレーションで予測したデータセンタ内の温度を用いることで、各機器の消費電力を推定することが可能である。 しかし、データセンタでは、新たなタスクの割当て等によってサーバの消費電力が変化した際に、その変化に伴って、データセンタ内の温度分布が変化する。 また、そのデータセンタの温度分布の変化に伴いサーバの消費電力もまた、変化する。 このように、サーバの消費電力とデータセンタ内の温度分布には相互依存の関係が存在するので、単純にCFD シミュレーションの温度情報を消費電力モデルの入力に使用するだけではデータセンタの正確な総消費電力を把握することは出来ない。

そこで本研究では、データセンタを構成する機器の消費電力モデルとCFD シミュレータを連携させることにより、データセンタ消費電力シミュレータを構築する。 そのために、まず、データセンタ内で用いられるサーバ及び空調に着目し、我々の研究グループで運用しているテストベッドデータセンタの稼働データを用いて、機械学習法の一つであるニューラルネットワークによってその消費電力モデルを構築する。 次に、CFD シミュレーションと消費電力モデルを組み合わせた消費電力シミュレータを構築する。 構築するシミュレータは、まず、CFD シミュレーションの結果より得られたデータセンタ各所の温度と、サーバに割り当てられたタスク、空調設定から消費電力モデルを用いて各サーバ、空調の消費電力を推定する。 その後、データセンタ内の温度分布をより正確に導出するために、新しく推定したサーバの消費電力と空調設定を用いて、再度CFD シミュレーションを実行する。 このように、消費電力の推定値や、CFD シミュレーションによって得られる温度分布に大きな変化が見られなくなるまで、CFD シミュレーションと各機器の消費電力の推定を繰り返す。 最後に、推定した各サーバの消費電力と空調の消費電力を合計することでデータセンタの総消費電力を得る。 実際に運用しているデータセンタを対象として構築したシミュレータの評価を行い、その有効性を明らかにした。

  1. Kazumasa Kitada, ``Energy management architecture for data centers based on machine learning'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2016.
  2. 北田和将, 中村泰, 松田和浩, 松岡茂登, ``数値流体解析と消費電力モデルを連携させたデータセンタの消費電力シミュレータの構築,'' 電子情報通信学会技術研究報告、vol. 115, no. 483, NS2015-218, pp.291-296, March 2016.
  3. Kazumasa Kitada, Yutaka Nakamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Dynamic power simulator utilizing computational fluid dynamics and machine learning for ideal virtual machine allocation in data center,'' in Proceedings of CLOUD COMPUTING 2016, March 2016.

2.2 エネルギー管理システム (Energy Management System) に関する研究

2.2.1 WebSocket技術を用いたクラウド型エネルギー管理システムの性能評価

クラウド型HEMS の概要図

家庭、ビル、 工場などのエネルギー効率を最適化するための技術として、エネルギー管理システム(Energy ManagementSystem (EMS)) が注目を集めている。EMS においては、ネットワークに接続するセンサや端末から得た情報を用いて、機器の消費電力を監視及び制御することで、エネルギー効率の最適化を行う。日本においては、工場などの産業用のエネルギー消費は減少しているが、家庭用のエネルギー消費は継続的に増加しており、問題視されている。その要因として、家電機器の普及、大型化、多様化が挙げられる。

そういった、一般家庭の家電機器を管理対象とする、一般家庭を対象にしたエネルギー管理システムであるHome EnergyManagement System (HEMS) が省エネのための重要な要素技術として注目されている。HEMS では、家電機器の使用電力を可視化し、機器制御を可能とするこによって、消費電力の低減を促進することが考えられており、既に導入例が存在する。HEMS を実現するネットワークアーキテクチャの1 つとして、家電機器にWeb プロトコル等によってHEMS サーバと直接通信を行う機能を持たせることによって、HAN 内に情報収集装置を不要とするクラウド型 HEMS がある。このアーキテクチャは、家庭内にHEMS サーバやゲートウェイを導入する他のアーキテクチャに比べて、導入コストを大きく削減できることが考えられる。また、多数の家庭の機器管理を少数のHEMS サーバで行うことができるため、システム管理コストの低減も期待される。しかし、クラウド型HEMS の導入が進み、多くの家電機器がHEMS サーバに接続されることにより、HEMS サーバに負荷が集中し、システム性能が悪化することが考えられる。家電機器のWeb of Things (WoT) 化は急激に進んでおり、2020 年には500 億台の端末がインターネットに接続するという調査がある。このような状況を鑑みると、HEMS をクラウド型ASPサービスとして提供する際のサーバ負荷を軽減することは重要である。

我々の研究グループでは、この問題に対し、通信プロトコルとして WebSocket を用いてクラウド型HEMS サービスを実現することを検討してきた。通信プロトコルとして、WoT 端末において通常用いられる Hypertext Transfer Protocol (HTTP) ではなく、WebSocket を用いることで、オーバーヘッドの削減や双方向性の向上が期待できる。我々の研究グループでは、数学的解析手法や小規模な実験により、WebSocket を用いたクラウド型HEMS システムの性能評価を行い、ネットワークトラヒックやサーバ負荷の観点で, 既存手法と比べて有用であることを明らかにした。しかし、大規模なクラウド型HEMS の実現のために必要となる、多数の端末を収容する状況を想定した性能評価は行われていない。

そこで本研究では、WebSocket を用いたクラウド型HEMSを対象に、多数の端末をHEMS サーバに収容する際のサーバ性能や通信性能を実験により評価することで、システム全体のスケーラビリティの検証を行う。具体的には、HEMS において収容対象となるスマートメータ、家電機器などの通信を模擬するエミュレーションプログラムを用いて、数十万台の機器が1 台のHEMS サーバに接続する状況を想定した実験を行い、HEMSサーバのCPU 使用率やメモリ使用量及び機器とHEMS サーバ間の通信に発生する遅延時間などを評価する。また、HEMSサーバのハードウェア性能がHEMS システム全体の性能に与える影響についても検証する。実験結果より、HEMS サーバに接続される端末数の増加に対し、CPU 使用率が複雑な傾向を持って増加すること、及び、HEMS サーバのメモリ使用量と1 秒間に処理するメッセージ数が線形的に増加することがわかった。また、CPU 物理コア数の増加に対し、HEMS サーバの収容可能端末数の増加割合は僅かに劣化することがわかった。

  1. Temuulen Enkhee, Go Hasegawa, Yuya Tarutani, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Large-scale ASP-based HEMS Utilizing Interactive Web Technologies,'' in Proceedings of IEEE SmartGridComm 2015, November 2015

2.2.2 機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御

気象データを用いた太陽光発電量の予測

近年、再生可能エネルギー発電設備の導入が進んでおり、とりわけ太陽光発電設備の導入が急速に拡大している。 一方で、再生可能エネルギーによる発電電力の買取制度や電力自由化などの要因から、スマートホーム市場の拡大が期待されている。 太陽光発電や燃料電池などの各種発電設備、家庭用蓄電池といった蓄電設備を備えたスマートホームの運用を考えた際、数日先の太陽光発電量が予測できれば、将来の発電量を考慮した電力の使用や売却といった、より効率的な電力制御が可能であると考えられる。 しかし、太陽光発電は気象変動、特に日射量に依存して大きく変動するため正確な予測が難しい。

そこで本研究では、機械学習を用いて太陽光発電量を予測し、その予測値をもとにスマートホームにおける電力制御を行う手法を提案した。 具体的には、石川県小松市に設置された実験用スマートホームでの観測データと過去の天気データを機械学習の学習データとして使用し、太陽光発電量の予測モデルを作成した。 作成した予測モデルを用いて、一般に公開されている気象予報から数日先の太陽光発電量を予測することができる。 次に、得られた予測値をもとに、スマートホーム内の電力の運用を決定する手法を提案した。 具体的には、電力の運用は、電力買取制度による電力の売却を考慮する場合としない場合を想定し、それぞれに対して電力料金を抑える制御を構築した。

太陽光発電量の予測精度の評価は、実験用スマートホームで得られた観測値と予測モデルから得られた予測値を比較することによって行った。 その結果、観測値と予測値の一日の総発電量の絶対誤差が、晴れの日では1116 W、雨の日では217 Wとなること、及び一月の総発電量の平方平均二乗誤差が1462 W、標準偏差が913 Wになることを示した。 また、太陽光発電量の予測値に基づいた電力制御手法の評価をシミュレーションによって行った。 その結果、電力制御を行わない場合に比べて、電力買取制度を考慮しない場合には約23%の電力料金を削減できることを示した。 また、電力買取制度を考慮した場合にも提案手法が有効であることを明らかにした。

  1. 村岡駿, ``機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.

2.3 オーバレイネットワークアーキテクチャに関する研究

2.3.1 オーバレイルーティングによって増加する ISP 間トランジットコストの削減に関する研究

ピアリングリンクとトランジットリンク

近年提案されているContent-Centric Networking (CCN)は、コンテンツのキャッシュをルータに保持するため、宛先ホストまでの経路上において、トラヒックの削減に効果がある。 このトラヒック削減は、ISP にとってはトランジットリンクを通過するトラヒックの削減に繋がるため、トランジットコストを削減できる。 一方で、CCN ルータがキャッシュのために搭載できるメモリ容量はエンドユーザが要求するコンテンツの量に対して十分とはいえない。 また、通常の CCN では経路上のキャッシュのみが利用され、経路外にキャッシュが存在しても利用できない。

そこで本稿では、ISP のトランジットコスト削減を目的とした、複数ISP 間におけるCCN ルータのキャッシュ共有手法を提案する。 提案手法では、CCN ルータ間で互いにキャッシュを利用し、お互いにキャッシュするコンテンツの重複を排除する。 これにより限られたメモリ容量を有効利用してキャッシュヒット率を高め、トランジットコストを大きく削減する。 実際の商用ISP のネットワークトポロジを利用したシミュレーション評価により、提案手法が通常のCCN と比べ、トランジットトラヒック量を最大で28%削減できることを示した。

  1. Kazuhito Matsuda, Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Multi-ISP cooperative cache sharing for saving inter-ISP transit cost in content centric networking,'' IEICE Transactions on Communications, vol.E98-B, pp.621-629, April 2015.

2.3.2 オーバレイネットワークにおけるネットワーク性能計測手法に関する研究

オーバーレイネットワークの計測

オーバレイネットワークはIP ネットワーク上に論理的に構築されたネットワークであるため、性能の維持、向上のためには定期的にオーバレイパスの資源情報を計測によって得る必要がある。 オーバレイネットワークの構築に必要な情報を得る手法は数多く提案されているが、その多くは小規模なオーバレイネットワークを対象としており、全てのオーバレイノード間の経路を計測する手法である。 このような手法ではオーバレイノード数の2乗の計測コストが必要であり、オーバレイノード数が増加した場合には計測に必要なコストの増加が問題となる。

この問題に対して本研究では、オーバレイパスの重複した部分の計測を行わず、重複部分の計測結果を合成することにより、オーバレイネットワーク全体の性能を推定する、計測結果の空間的合成手法を提案した。 この手法は、オーバレイネットワーク全体のパスの情報を得る完全性を維持しつつ、パスの計測数を削減することができるが、計測結果の空間的合成によって得られた推定結果と実際の計測結果との間の誤差、つまり推定精度が問題となる。 そのため、本研究では、PlanetLab上における計測結果を用いた、パケット廃棄率の計測結果の空間的合成手法の精度評価を行った。 また、推定精度を向上させるための計測結果のデータ処理手法を提案した。

精度評価の結果、PlanetLab環境における、実際のパケット廃棄率の計測結果と、空間的合成手法によって得られた推定値との平均対数誤差は約0.4であることがわかった。 また、パケット廃棄率の計測においては、オーバレイノード処理負荷が原因となり、計測開始後の数秒間にパケットが全く届かないことがあり、そのような計測結果を削除した上で統合手法を適用することによって、推定精度が向上することがわかった。 さらに、パケット廃棄率の計測結果に対し、統計的検定を適用し、外れ値を除去することにより、平均対数誤差を最大で36%改善できることを示した。

  1. Go Hasegawa, Yusuke Iijima and Masayuki Murata, ``Accuracy improvement for spatial compotis-ion-based end-to-end network measurement,'' in Proceedings of 12th The International Conference on In-formation Technology (ITNG 2015), April 2015.

2.3.3 マルチテナント型データセンタにおける仮想ネットワーク配置に関する研究

マルチテナント型データセンタにおける仮想ネットワーク配置

マルチテナント型データセンタでは、基盤となる物理ネットワークが備える性能を余すことなくテナントに配分し、かつ、物理ネットワークの障害がテナントに与える影響を抑えるため、テナントを構成する仮想ネットワークを物理ネットワーク上に適切に配置することが必要になる。 本報告では、仮想ネットワークの性能と可用性の向上を目的に、まず、仮想ネットワークが得る利用可能帯域と障害により失う帯域の差分を有効帯域と定義し、仮想ネットワークの配置問題を定式化する。 次に、障害復旧手続きを規定した上で、仮想ネットワークの集約状態に応じて、物理ネットワークの障害時における仮想ネットワークの障害復旧時間が変化するモデルを提案する。 最後に、計算機シミュレーションを行い、有効帯域を最大化する仮想ネットワークの配置は、物理ネットワークの帯域を使い切り、かつ、障害による停止時間を、利用可能帯域を最大化する配置に比べ1/3 程度に低減できることを示した。

  1. Yukio Ogawa, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, ``Virtual network allocation for fault tolerance balanced with physical resources consumption in a multi-tenant data center,'' IEICE Transactions on Communications, vol.E98-B, pp.2121-2131, November 2015.

2.3.4 ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究

ハイブリッドクラウドシステム

広域ネットワークの広帯域化を背景に、オンプレミス型プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせてアプリケーションシステムを構成するハイブリッドクラウドが普及しつつある。 特に、計算リソースを定常的にプライベートデータセンタに配備し、リソース不足時にパブリックデータセンタへスケールアウトを行う方式をクラウドバースティングと呼ぶ。 このクラウドバースティングにおいては、プライベートとパブリックの各データセンタ間の負荷分散を適切に行うことで、サービスレベルを守りつつ全体コストを最小化することが求められる。

そこで本研究では、アプリケーションへのリクエストトラヒック量を予測し、応答制約を満たす最小の計算リソースを、逐次、各データセンタに配備することにより、応答性能を保ちつつ全体コストを低減させることが可能になると考え、ハイブリッドクラウドの全体コストモデルを提案し、実観測データを利用してARIMA モデルによるリクエストトラヒック予測を行い評価を行った。 その結果、プライベートデータセンタのみの処理に比較してハイブリッドクラウドでは全体コストが約1/2 に低減できることを示す。 さらに、応答制約を満たさないタイムスロットの割合と全体コストはトレードオフの関係にあることを示した。

  1. 小川 祐紀雄, 長谷川 剛, 村田 正幸, ``トラヒック予測に基づくハイブリッドクラウドシステムのコストと性能の評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告(IN2015-50), vol.115, pp.57-62, September 2015.

2.3.5 無線センサネットワークにおける受信電波強度に基づいた省電力情報伝播手法に関する研究

消費電力を考慮した情報散布手法

センサネットワークの主な課題の一つに、消費電力の抑制がある。 センサネットワークの省電力化において、無線通信による電力消費を抑えることが重要である。 定期的なメンテナンスを期待できない環境でバッテリーによって駆動するセンサノードにとって、限られた電力資源を有効に活用しネットワークの稼働時間を延ばすためには、無線通信による電力消費を抑える事が重要となる。

本研究では、無線センサネットワークにおける、消費電力を考慮した情報散布手法を提案した。 提案手法は、フラッディング手法を基にした情報散布を行う。 フラッディング手法は、新しい情報を受信したノードは、その情報を全ての隣接ノードへブロードキャスする一方、既に取得済みの情報を受信したノードは何も行わない。 提案手法では、無線によりメッセージを受信したときの受信電力を用いて、メッセージのブロードキャスト時刻を制御する。 一般的に、受信ノードから遠くのノードが送信された無線の電波ほど、伝搬損失のために、受信電力は小さくなる。 このことを利用して、提案手法では、新しいメッセージを受信してブロードキャストするまでに、再度同じメッセージを受信した場合、ブロードキャストを取りやめる。 これによって、提案手法は、送信ノードからより遠くにある受信ノードが、先にメッセージをブロードキャストする機会を持つことで、少ないブロードキャスト回数で情報を散布させることができる。

シミュレーションによる評価の結果、提案手法は、送信の際に、より大きな電力を用いて無線の送信距離を増加させることで、情報散布率が高い領域を広くすることができること、また、このときのネットワーク全体の消費電力量の増加が小さいことを示した。 さらに、ノードをランダム配置したシミュレーションを行い、提案手法は、正方格子上に配置した場合と同様の性質を示すことを明らかにした。

  1. Hiroyuki Hisamatsu, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, ``Energy-efficient information dissemination based on received signal strength in wireless sensor networks,'' in Proceedings of 2015 Annual IEEE Communications Quality and Reliability Workshop (IEEE CQR 2015), May 2015.

2.3.6 Webトラヒック制御に関する研究

Webトラヒック制御

クライアントPC からのリクエスト受信時に、サーブレットやJava Server Pages (JSP)のプログラムをサーバ側で実行するか、JavaScript で書かれたAjax やDOM によるプログラムをHTML に埋め込みクライアントPC 側で実行することで生成される動的オブジェクトの割合が増加している。 その結果、Webサイト閲覧時に発生する通信パタンが複雑化している。 一方で、67%のユーザは毎週のようにWeb 閲覧時の待ち時間の長さを感じており、17%のユーザはWeb 閲覧時に最大でも5 秒しか待てないという報告がなされており、複雑性を増すWeb トラヒックをいかにして効率的に配信するかが重要な課題となっている。

そこで、過去の研究において、測定用PC から多数のサイトにアクセスした際に発生するトラヒックの通信特性値をHAR(HTTPArchive) ファイルとして取得し、HAR ファイルから各種特性値を抽出することで、URL カテゴリやオブジェクト種別ごとの各種通信特性の傾向について分析したが、単一地点(東京) からの測定分析に限定されており、通信構造の地理的な傾向の差異は分析されていない。

そこで本研究では、PlanetLab を用いて世界の12 の拠点から、アクセス頻度の高い約1,000 のWeb サイトにアクセスしたときに発生する通信パタンを測定し、サーバ距離、遅延時間、オブジェクト数といった各種特性値の地域的な傾向について分析した。 その結果、Business, Regional, Shopping, Sportsなどの地域性の高いオブジェクトは各々のアクセス地点の近隣に存在するサーバから取得される傾向があり、一方、Reference, Health, Adult, Gamesなどの地域性の低いサイトのオブジェクトは北米に存在するサーバから取得される傾向があることが明らかとなった。 また各Web サイトを各測定地点における各特性値の傾向に基づきクラスタ分析し、オブジェクト種別やURLカテゴリによる通信特性の違いを明らかにし、効率的なキャッシュ制御法として、地域性の低いサイトのオブジェクトを様々な地域で優先的にキャッシュすることで、限られたキャッシュ資源を有効に活用した効果的なWebレスポンス時間の改善が期待できることを示した。

  1. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, ``Investigating structure of modern Web traffic,'' in Proceedings of 2015 IEEE 17th Interna-tional Conference on High Performance Switching and Routing (IEEE HPSR 2015), July 2015.
  2. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, ``Priority control based on website categories in edge computing,'' to be presented at IEEE Global Internet Symposium (GI 2016), April 2016.
  3. 上山 憲昭, 中野 雄介, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, 宮原 秀夫, “Web コンテンツの CDN 利用状況とオリジナル配置傾向に関する分析,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2015-18), vol.115, pp.21-26, May 2015.
  4. 上山 憲昭, 中野 雄介, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, 宮原 秀夫, “エッジ配信によるWeb応答時間削減効果の分析,” 電子情報通信学会技術研究報告 (ICM2015-41), vol.115, no.507, pp.1-6, March 2016.

2.3.7 化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究

化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法

Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。

そこで本研究では、化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて、上記のようなネットワークサービスにおいて、提供するサービスや機能を適切な場所で実行し、サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案する。提案手法では、サービスや機能を実行するサーバを個々のタプル空間とみなし、ユーザからのリクエスト量やサービスの需要量等を化学物質として考え、サーバ内の局所的な状況を化学物質の濃度変化や拡散によって表現する。そして、その空間で、各サービスに対するリクエストをサーバ資源を用いて処理する反応式を定義し、それを実行することにより、サービスの需要に応じたサーバ資源の共有をシステム内の各デバイスの自律的な動作によって実現する。シミュレーション評価により、提案システムが仮想化ネットワークシステムに求められる様々な機能を実現できることを確認した。

また、提案システムをNetwork Function Virtualization (NFV)を実現するために適用することを考え、NFVにおけるサービチェイニング、Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置、フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し、その有効性を確認した。 また、単純なVNF配置方式と比較し、フローの処理にかかる遅延時間を77%削減できることを確認した。

  1. Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Biochemically-inspired method for constructing service space in virtualized network system,'' in Proceedings of International Conference on Innovations in Clouds, In-ternet and Networks (ICIN 2016), March 2016.
  2. 長谷川 剛, 村田 正幸, ``化学反応式モデルに基づく仮想サービス配置手法の安定性評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2015-75), vol.115, pp.23-28, September 2015.
  3. 坂田 航樹, 長谷川 剛, 村田 正幸, ``生化学反応モデルに着想を得た仮想ネットワーク機能の配置手法の提案と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2016-46), vol.115, pp.25-30, March 2016.

2.4 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究

エンドホスト間でデータを高速に、かつ効率よく転送するための中心技術がトランスポートプロトコルである。特にインターネットで用いられているTCPでは、エンドホストがネットワークの輻輳状態を自律的に検知して転送率を決定している。これは、インターネットの基本思想であるEnd-to-end principleの核になっているものであるが、エンドホストの高速化により、その適応性をより高度なものにできる可能性が十分にある。本研究テーマでは、そのようなトランスポートプロトコルそのものに関する研究、および、そのようなトランスポートプロトコルを用いるアプリケーションシステムの性能向上に関する研究に取り組んでいる。

2.4.1 TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減に関する研究

無線LANの消費電力低減

IEEE 802.11無線LANにおいては、無線通信が消費する電力が全体の10%から50%を占めることが報告されており、無線通信の消費電力を削減することが機器全体の消費電力を削減するうえで重要である。 無線LANにおける省電力化に関する検討は、主にハードウェアレベルおよびMACプロトコルレベルの双方から行われている。 一般に、ネットワーク機器の省電力に関して議論を行う場合においては、省電力効果とネットワーク性能間のトレードオフを考慮する必要がある。 すなわち、消費電力の削減に効果のある要因を明らかにし、その要因がどの程度ネットワーク性能を低下させるかを知ることが重要である。 しかし、TCPなどのトランスポート層プロトコルの挙動が省電力性能に与える影響を考慮したデータ転送手法に関する研究はほとんど行われていない。

そこで本研究では、無線LAN 環境におけるTCPデータ転送の省電力化を行うためにSCTPトンネリングを提案した。 SCTPトンネリングは、複数のTCPフローを無線端末とアクセスポイント間に確立した1本のSCTPアソシエーションに集約する。 そして、SCTPトンネリングは集約されたTCPフローのパケットをバースト的に転送することによって状態遷移回数を削減し、スリープによる省電力効果を高める。 また、提案方式の省電力効果を評価するために、SCTPトンネリングの消費電力モデルを構築する。 その消費電力モデルに基づいた消費電力解析により、提案方式が消費電力を最大70%程度削減できることを示した。 また、実機実験によってもその有効性を検証し、標準化されている省電力手法を単独で用いた場合と同程度の省電力効果を保ちながら、ファイル転送時間を短く抑えることができることを示した。

  1. 長谷川 剛, 村田 正幸, ``トランスポート層プロトコルと無線機器の省電力機構の連携,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (SR2015-9), vol.115, pp.53-58, May 2015. (招待講演)

2.4.2 M2M通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャに関する研究

M2M 通信収容のための仮想モバイルコアネットワークアーキテクチャ

携帯電話加入者数の増加や高機能なスマートフォン等の普及により、3G やLTE などのモバイルネットワークにおいて、ユーザプレーンとコントロールプレーンの双方において発生する輻輳への対応が課題となっている。 特にコントロールプレーンの輻輳については、新たな需要拡大を伴う通信形態であるMachine-to-Machine (M2M) 通信による影響が大きいと指摘されている。 M2M通信は、通信するデータ量そのものは多くはないが、端末数が膨大になるとされており、その通信特性は大きく異なる。 そのため、M2M 通信を行う端末(以下ではM2M 端末と呼ぶ) を従来の携帯電話端末と同じ方式でモバイルネットワークに接続すると、特にコントロールプレーンの輻輳が悪化すると考えられる。 スマートフォンのようなユーザ端末のトラヒックはユーザの端末操作に応じて発生し、遅延時間に対する要求条件も厳しいため、輻輳解消のための制御は不向きである。 一方、M2M 端末が発生させる通信は一般的に機械に組み込まれることが多く、端末数が非常に多く、間欠的であり、遅延時間に対する制約はユーザ端末に比べると緩い。 このような特性を持ったトラヒックに関して、制御の効果を生み出しやすいことが期待される。

そこで本研究では、モバイルコアネットワークの負荷を軽減するための通信集約手法に着目し、通信集約の際のパラメータを決定するために、通信集約がモバイルネットワークの負荷やM2M 通信の特性に与える影響を明らかにした。 具体的には、端末側のシステムインテグレータで集約を行う場合やネットワークにおいて集約を行う場合等の集約箇所の違いや、集約の度合が性能に与える影響を数学的に解析し、集約によって軽減されるモバイルネットワークの処理負荷や、M2M 通信に新たに発生する遅延時間の特性を評価する。 評価の結果、S-GWで集約を行うことで、集約による遅延時間の発生を抑えながら、M2M端末の収容効率を約30%改善できることを明らかにした。

さらに、モバイルコアネットワークのデータプレーンとコントロールプレーンを分離し、一方、あるいは双方をクラウド環境へ設置するネットワークアーキテクチャに着目し、その効果を数学的解析手法によって明らかにした。 その結果、仮想化によって容易となるコアノードへの柔軟な資源割当により、M2M 端末の収容可能台数が約30%増加することを明らかにする。 さらに、通信集約手法を組み合わせることで、その効果が最大で124%に拡大することを示した。 また、シグナリング処理の負荷量を、ソフトウェアのソースコード量から推定することによって、ノード負荷をより正確に導出した場合においても、同様の効果が得られることを確認した。

  1. Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Joint bearer aggregation and control data plane separation in LTE EPC for increasing M2M communication capacity,'' in Proceedings of 2015 IEEE Global Communi-cations Conference (GLOBECOM 2015), December 2015.
  2. 阿部 修也, 長谷川 剛, 村田 正幸, ``シグナリング処理負荷を考慮したノード仮想化及びプレーン分離を徒用したモバイルコアネットワークの性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (ICM2015-49), vol.115, no.507, pp. 41-46, March 2016.
  3. 長谷川 剛, 村田 正幸, ``ノード仮想化とプレーン分離を適用した広域モバイルコアネットワークの性能評価,'' 電子情報通信学会 ネットワークシステム研究会, April 2016. (発表予定)
  4. 阿部 修也, ``シグナリング処理負荷を考慮したノード仮想化及びプレーン分離を適用したモバイルコアネットワークの性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.

2.4.3 スマートフォンアプリケーションのパケット分類手法に関する研究

パケット分類手法

スマートフォンのアプリケーションの動作はアプリケーション開発者に委ねられているため、各アプリケーションが生成するトラヒックは、従来のフィーチャフォンの音声やキャリアが提供するi-mode 等のサービスが生成するトラヒックとは異なり、アプリケーションはサービスプロバイダのサーバとつながって様々なトラヒックを発生させ、事前に見積もるのは困難である。 これら個々のトラヒックがネットワーク内で多重化された場合には、ランダムなトラヒックではなく、固有なトラヒックパターンを発生させ、場合によって急激なトラヒックの変動が発生する。 また、アプリケーションとサーバとの通信が頻発すると、ネットワーク内の制御サーバとスマートフォンとの制御信号のやりとりが増大し、制御サーバに過大な負荷を与える。 この様なスマートフォンアプリケーションによるネットワークへのインパクトを、アプリケーションが普及する前に算出できれば、アプリケーション普及前に対策を講じることが可能となる。

そこで本研究では、スマートフォン上の多様なアプリケーションと通信パターンについての調査を行うため、多くのスマートフォンを収容するネットワークでのキャプチャ結果をアプリケーションごとのパケットに分類する手法の検討を行った。 検討した手法は、まず、スマートフォンアプリケーションのプログラムを解析し、通信するサーバのホスト名に対応する文字列を抽出する。 一方、スマートフォンを収容するネットワークにおいて、スマートフォンのパケットをキャプチャし、スマートフォン毎にキャプチャデータを分類する。 これには、スマートフォン毎のIP アドレスを用いる。その後、予め生成しておいたアプリケーションごとの宛先ホスト名に一致するパケットを抽出することで、アプリケーションごとのパケットに分類する。 複数の実アプリケーションを用いて検証を行った結果、多くのアプリケーションについて高い適合率と再現率が得られることがわかった。

  1. 中野 雄介, 上山 憲昭, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, ``Android アプリケーションからの通信特徴抽出手法,'' 情報処理学会研究報告 (DPS), vol.15, pp.1-6, December 2015.

2.4.4 Web パフォーマンス計測と性能向上に関する研究

Webパフォーマンス測定プラットフォーム

近年、Webパフォーマンスの重要性が注目を集めている。 Webパフォーマンスとは、Webページ上のリンクがクリックされてから、次のWebページを構成するオブジェクトがダウンロードされ、表示が完了するまでの時間である。 ユーザはWebパフォーマンスが低いWebページから離れる傾向にあり、Webパフォーマンスの低下はサービス提供者の収入の低下に直結する。 このため、サービス提供者は自身が提供するWebページのパフォーマンスを測定し、パフォーマンス低下の原因を究明、改善する必要がある。 しかし、このようなWebパフォーマンスの低下原因は、ネットワーク環境やクライアントの性能等、Webブラウザの動作環境によって変わると考えられる。

本研究では、Webブラウザの動作環境を変化させ、且つ、Webパフォーマンスに加えてサーバ・ネットワーク・クライアントそれぞれのパフォーマンスについて測定可能とする、Webパフォーマンス測定プラットフォームを提案する。 提案手法を評価した結果、提案手法は959個のWebページの88のホストでの測定において、測定にかかる稼働は30分程度でWebブラウザの動作環境の多様性によらず一定であり、PlanetLabを用いることで多様なWebブラウザの動作環境での測定ができることを確認した。 これにより、測定結果から、Webページのパフォーマンス改善の方針を検討できるデータを収集することができた。

さらに、Webブラウザ内での待ち時間を削減するためのレンダリング結果のキャッシュによるWebパフォーマンスの向上手法を提案した。 提案手法は、これまで端末内のブラウザで行われてきたレンダリングの処理を肩代わりする機能をネットワーク内に配置し、本機能によって生成されるレンダリング結果をキャッシュしておくことで、キャッシュヒット時に、レンダリングにかかる時間を削減する。 提案手法の有効性の評価の結果、RTTが長い地域やWebページにおいて、提案手法は有効であることがわかった。 また、この様な地域やWebページにおいては、動的なオブジェクトの割合が8割程度までのWebページで効果が期待できることがわかった。

  1. 中野 雄介, 上山 憲昭, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, 宮原 秀夫, ``Webパフォーマンス測定プラットフォームの提案と評価,'' 電子情報通信学会和文論文誌, vol. J99-B, April 2016.
  2. Yuusuke Nakano, Noriaki Kamiyama, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, ``Web performance acceleration by caching rendering results,'' in Proceedings of The 17th Asia-Pacific Network Operations and Management Symposium (APNOMS 2015), August 2015.
  3. 中野 雄介, 上山 憲昭, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, 宮原 秀夫, ``レンダリング結果のキャッシュによるWebパフォーマンス向上手法,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2015-31), vol. 115, pp. 9-14, June 2015.
  4. 中野 雄介, 上山 憲昭, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, 宮原 秀夫, ``Webパフォーマンス測定プラットフォーム,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2015-69), vol. 115, pp. 187-192, July 2015.
  5. 中野 雄介, 上山 憲昭, 塩本 公平, 長谷川 剛, 村田 正幸, ``Webパフォーマンスの因果分析,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2015-131), vol. 115, pp. 87-92, January 2016.

2.4.5 ネットワーク省電力化のためのルータにおけるコンテンツキャッシングに関する研究

コンテンツキャッシング

コンテンツキャッシングによるコンテンツ配信の効率化手法の1つとして、ネットワーク上のルータがコンテンツを保持することでトラヒックの削減や応答時間を改善するCCNのような手法が提案されているが、この手法はネットワークの消費電力の削減にもつながる可能性がある。 従来のキャッシングに関する研究では、ルータのストレージ容量はあらかじめ与えられており、それを有効に利用するための置き換え手法の検討が中心であった。 キャッシュの効果は容量が大きいほど向上するため、キャッシュのためのストレージ容量は可能な限り大きいことが望ましく、その適切な大きさが議論の対象となることはなかった。 しかし、消費電力の削減に着目すると、適切なストレージ容量については議論の余地がある。 また、ルータがコンテンツを保持することが消費電力の削減にどの程度有効であるかについても明らかではない。 例えば、ネットワークの消費電力の削減を目的とする場合、ストレージ装置自体が電力を消費するため、各ルータに大容量のストレージを備えることが必ずしも全体として消費電力の削減につながるとは限らない。

そこで本研究では、消費電力の削減を目的として、ルータの適切なストレージ容量に関する議論を行うとともに、ルータがコンテンツを保持することの有効性について評価した。 具体的には、大学におけるYoutubeのアクセス履歴を元に生成したワークロードを用いてシミュレーションを行った。 その結果、消費電力の削減率はアクセスの地理的局所性によって変化し、最大で35%程度の消費電力が削減された。 また、階層の最下位のルータよりも上位のルータに多くのストレージ容量を配分することで消費電力がより削減されることがわかった。 また、キャッシュを2 つに分割し、コンテンツの先頭部分のデータを優先的にキャッシュすることにより、消費電力の削減量を維持したままで動画再生の遅延開始の削減が可能であることを示した。

  1. 多田 知正, 村田 正幸, 松岡 茂登, 長谷川 剛, 山下 暢彦, ``ネットワークの消費電力削減のためのルータにおける動画コンテンツのキャッシングの評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2015-15), vol. 115, pp. 1-6, June 2015.

3. 発表論文一覧

3.1 学術論文誌掲載論文

  1. Kazuhito Matsuda, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, ``Multi-ISP cooperative cache sharing for saving inter-ISP transit cost in content centric networking'', IEICE Transactions on Communications, Vol. E98-B, No. 4, pp. 621-629, 2015. [paper]
  2. Yoshiaki Taniguchi, Koji Suganuma, Takaaki Deguchi, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Norimichi Ukita, Naoki Aizawa, Katsuhiko Shibata, Kazuhiro Matsuda, Morito Matsuoka, ''Tandem equipment arranged architecture with exhaust heat reuse system for software-defined data center infrastructure,'' IEEE Transactions on Cloud Computing, Vol. PP, No. 99, pp.1-13, June 2015. [paper]
  3. Yukio Ogawa, Go Hasegawa, Masayuki Murata, ''Virtual Network Allocation for Fault Tolerance Balanced with Physical Resources Consumption in a Multi-tenant Data Center,'' IEICE Transactions on Communications, Vol.E98-B, No.11, pp.2121-2131, November 2015.[paper]
  4. Yoshiaki Taniguchi, Miki Mizushima, Go Hasegawa, Hirotaka Nakano, Morito Matsuoka, ``Counting pedestrians passing through a line in crowded scenes by extracting optical flows,'' Information, vol.19, no.1, pp.303-316, January 2016.

3.2 解説論文・記事等

該当なし

3.3 国際会議発表

  1. Go Hasegawa, Yusuke Iijima, and Masayuki Murata, ''Accuracy improvement for spatial compotision-based end-to-end network measurement,'' in Proceedings of ITNG 2015, April 2015.[paper]
  2. Go Hasegawa, Takanori Iwai, and Naoki Wakamiya, ''Temporal Load Balancing of Time-driven Machine Type Communications in Mobile Core Networks,'' in Proceedings of IFIP/IEEE IM 2015, May 2015.[paper]
  3. Hiroyuki Hisamatsu, Go Hasegawa and Masayuki Murata, ''Energy-efficient Information Dissemination Based on Received Signal Strength in Wireless Sensor Networks,'' in Proceedings of IEEE CQR 2015, May 2015.[paper]
  4. Hideki Kawaguchi, Masazumi Ueba, and Morito Matsuoka ''FDTD Analysis of Millimeter Wave Data Communication between Data-servers in Server-rack,'' in Proceedings of Compumag 2015, June 2015[paper]
  5. Noriaki Kamiyama, Yuusuke Nakano, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, ''Investigating Structure of Modern Web Traffic,'' in Proceedings of IEEE HPSR 2015, July 2015.
  6. Yuusuke Nakano, Noriaki Kamiyama, Kohei Shiomoto, Go Hasegawa, Masayuki Murata, and Hideo Miyahara, ''Web Performance Acceleration by Caching Rendering Results,'' in Proceedings of APNOMS 2015, August 2015.[paper]
  7. Shinya Tashiro, Yuya Tarutani, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``A Network Model for Prediction of Temperature Distribution in Data Centers,'' in Proceedings of IEEE Cloudnet 2015, October 2015.[paper]
  8. Temuulen Enkhee, Go Hasegawa, Yuya Tarutani, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Large-scale ASP-based HEMS Utilizing Interactive Web Technologies,'' in Proceedings of IEEE SmartGridComm 2015, November 2015.
  9. Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Joint bearer aggregation and control-data plane separation in LTE EPC for increasing M2M communication capacity,'' inProceedings of IEEE GLOBECOM 2015, December 2015.
  10. Yuya Tarutani, Kazuyuki Hashimoto, Go Hasegawa, Yutaka Nakamura, Takumi Tamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Temperature distribution prediction in data centers for decreasing power consumption by machine learning,'' in Proceedings of Quality of Service Assurance in the Cloud (IEEE Cloudcom 2015 Workshop), December 2015.[paper]
  11. Kazumasa Kitada, Yutaka Nakamura, Kazuhiro Matsuda, and Morito Matsuoka, ``Dynamic power simulator utilizing computational fluid dynamics and machine learning for ideal virtual machine allocation in data center,'' in Proceedings of CLOUD COMPUTING 2016, March 2016.[paper]
  12. Go Hasegawa and Masayuki Murata, ``Biochemically-inspired method for constructing service space in virtualized network system,'' in Proceedings of ICIN 2016, March 2016.

3.4 口頭発表(国内研究会など)

  1. 上山憲昭, 中野雄介, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, 宮原秀夫, ``Webコンテ ンツのCDN利用状況とオリジナル配置傾向に関する分析,'' 電子情報通信学会技 術研究報告, vol. 115, no. 41, NS2015-18, pp. 21-26, May 2015.
  2. 長谷川剛, 村田正幸, ``トランスポート層プロトコルと無線機器の省電力機構の 連携 (招待講演),'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 115, no. 62, SR2015-9, pp. 53-58, May 2015.
  3. 多田知正, 村田正幸, 松岡茂登, 長谷川剛, 山下暢彦, ``ネットワークの消費 電力削減のためのルータにおける動画コンテンツのキャッシングの評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 115, no. 95, IN2015-15, pp. 1-6, , June 2015.
  4. 上山憲昭, 中野雄介, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, 宮原秀夫, ``レンダリ ング結果のキャッシュによるWebパフォーマンス向上手法,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 115, no. 92, NS2015-31, pp. 9-14, June 2015.
  5. 上山憲昭, 中野雄介, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, 宮原秀夫, ``Webパフォー マンス測定プラットフォーム,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 115, no. 159, NS2015-69, pp. 187-192, July 2015.
  6. 長谷川剛, 村田正幸, ``化学反応式モデルに基づく仮想サービス配置手法の安定性評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 115, no. 209, NS2015-75, pp. 23-28, September 2015.
  7. 小川祐紀雄, 長谷川剛, 村田正幸, ``トラヒック予測に基づくハイブリッドクラウドシステムのコストと性能の評価,'' vol. 115, no. 210, IN2015-50, pp. 57-62, September 2015.
  8. 中野雄介, 上山憲昭, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, ``Androidアプリケーションからの通信特徴抽出手法,'' 情報処理学会研究報告, vol. 15, no. 2015-DPS-165, pp. 1-6, December 2015.
  9. 中野雄介, 上山憲昭, 塩本公平, 長谷川剛, 村田正幸, ``Webパフォーマンスの因果分析,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 115, no. 404, NS2015-131, pp. 87-92, January 2016
  10. 出口孝明, 菅沼孝二, 樽谷優弥, 長谷川剛, 中村泰, 田村卓三, 松田和浩, 松岡茂登, ``データセンタの消費電力削減のための遺伝アルゴリズムに基づくタスク配置・空調機設定手法の性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告、vol. 115, no. 483, NS2015-219, pp.297-302, March 2016.
  11. 北田和将, 中村泰, 松田和浩, 松岡茂登, ``数値流体解析と消費電力モデルを連携させたデータセンタの消費電力シミュレータの構築,'' 電子情報通信学会技術研究報告、vol. 115, no. 483, NS2015-218, pp.291-296, March 2016.
  12. 坂田航樹, 長谷川剛, 村田正幸, ``生化学反応モデルに着想を得た仮想ネットワーク機能の配置手法,'' 電子情報通信学会技術研究報告(NS2016-46), vol.115, pp.25-30, March 2016.
  13. 阿部修也, 長谷川剛, 村田正幸, ``シグナリング処理負荷を考慮したノード仮想化及びプレーン分離を適用したモバイルコアネットワークの性能評価,'' 電子情報通信学会技術研究報告(ICM2015-49), vol.115, no.507, pp. 41-46, March 2016.

3.5. 博士論文・修士論文・特別研究報告

3.5.1. 博士論文

該当なし

3.5.2. 修士論文

  1. Kazumasa Kitada, ``Energy management architecture for data centers based on machine learning'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2016.
  2. Takaaki Deguchi, ``Dynamic power simulator utilizing computational fluid dynamics and power consumption model for data center'' Master's Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, February 2016.

3.5.3. 特別研究報告

  1. 阿部修也, ``シグナリング処理負荷を考慮したノード仮想化及びプレーン分離を適用したモバイルコアネットワークの性能評価,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.
  2. 島袋友里, ``機械学習に基づくサーバ電力消費モデルの構築,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.
  3. 薗田一幹, ``機械学習に基づいたデータセンタの空調機の消費電力モデルの構築 ,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.
  4. 村岡駿, ``機械学習を用いた太陽光発電量の予測に基づくスマートホームの電力制御,'' 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, February 2016.