大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門
(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座)
2007年度研究成果報告

本Webページは大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座,中野研究室)の2007年度の研究成果をまとめた報告書です.ご清覧いただき,忌憚のない意見を下されば幸いです.

目次

  1. メンバー
    1. スタッフ
    2. 共同研究者
    3. 学生
  2. 研究業績
    1. ユビキタスネットワーク環境における通信方式の研究
      1. 大量のRFIDタグからの高速な情報読み取り手法
      2. マイクロセル無線方式を用いた電子タグの実装評価
      3. 小規模領域における人物の移動のモデル化とそれに基づく人物の追跡
      4. 連続的なベイズ推定による複数の領域を通過する人物の追跡
      5. 通信距離の最適化による無線ネットワーク容量の向上
      6. 映像情報を用いたモバイル属性情報の抽出手法の研究
      7. メッシュネット特性評価法とその応用法の研究
      8. 有線・無線統合ネットワークにおけるTCPの性能向上に関する研究
    2. 次世代情報ネットワークのためのトランスポートアーキテクチャに関する研究
      1. オーバレイルーティングに起因するネットワークただ乗り問題に関する研究
      2. 大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法関する研究
      3. 無線LAN環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCPの性能評価
      4. インラインネットワーク計測技術に関する研究
      5. インラインネットワーク計測技術を利用した新たなTCPサービスに関する研究
      6. エッジルータにおける改造TCPコネクションの検出・制御技術に関する研究
      7. 生物の増殖モデルに基づくTCPの輻輳制御方式
      8. TCPトラヒックを考慮した大規模IPネットワークの性能評価に関する研究
      9. インターネットルータのバッファサイズに関する研究
      10. トランスポートプロトコルの改良によるシンクライアントシステムの性能向上に関する研究
      11. TCPオーバレイネットワークに関する研究
    3. P2Pアーキテクチャに関する研究
      1. ファイル共有システムにおける進化ゲーム理論を用いたキャッシングアルゴリズム
      2. ノードのモビリティを考慮したモバイルP2Pネットワークの構築
  3. 発表論文一覧
    1. 学術論文誌
    2. 国際会議会議録
    3. 口頭発表
    4. 博士論文・修士論文・特別研究報告
      1. 博士論文
      2. 修士論文
      3. 特別研究報告

1. メンバー

1.1. スタッフ

中野 博隆
中野 博隆
教授
長谷川 剛
長谷川 剛
准教授
笹部 昌弘
笹部 昌弘
助教
(2007.7異動)
稲鍵 多圭子
稲鍵 多圭子
秘書

1.2. 共同研究者

村田 正幸
村田 正幸
大阪大学
情報科学研究科
教授
津川 知朗
津川 知朗
大阪大学
村田研
博士後期課程2年

1.3. 学生

相原 聖
相原 聖
博士前期課程2年
渡邉 孝文
渡邉 孝文
博士前期課程2年
竹下 恵
竹下 恵
博士前期課程2年
平岡 佑一朗
平岡 佑一朗
博士前期課程2年
時任 宏
時任 宏
博士前期課程1年
児玉 瑞穂
児玉 瑞穂
博士前期課程1年
秀熊 俊昭
秀熊 俊昭
博士前期課程1年
栗山 さやか
栗山 さやか
学部4年
橋本 匡史
橋本 匡史
学部4年
堀江 拓郎
堀江 拓郎
学部4年
渡邉 宏典
渡邉 宏典
学部4年

2. 研究業績

2.1. ユビキタスネットワーク環境における通信方式の研究

諸技術発展を受けて,あらゆるものが独自の識別子とコンピュータを持ちワイアレスリンクで接続されるユビキタスコンピューティング環境が新しいパラダイムとして想定されている.このような背景を踏まえ,「ユビキタスネットワーク環境における通信方式の研究」を継続している.この研究では,ユビキタスネットワーク環境下の様々なアプリケーションに適用する通信方式を提案し,その特性を明らかにしていく.

2.1.1. 大量のRFIDタグからの高速な情報読み取り手法

RFIDからの読み取り
図:RFIDからの読み取り

複数のRFIDタグとリーダからなるRFIDシステムは,バーコードシステムが実現できない新たなサービスを創生するものとして,その活用が期待されている.特に生産分野では,商品管理に要する時間やコストを削減するために,各商品に取り付けたRFIDタグが保持する識別情報(ID)及び属性情報(データ)を高速かつ連続的に読み取る方式が必要とされている.

RFIDタグとリーダ間の通信は無線で行なわれる.RFIDタグの情報の読み取りは一般的にリーダの要求に対してRFIDタグが応答する形で行なわれるため,複数のRFIDタグの情報を同時に読み取ろうとすると,RFIDタグが一斉に情報を送信することで衝突が発生し,情報の読み取りが失敗に終わるという問題がある.本研究では,既に衝突を回避し,大量RFIDタグの持つID及データを高速かつ連続して読み取るための手法であるResponse Probability Control Method (RPCM)を提案している.

RFIDタグが一定の速さでリーダの読出領域を通過する状況はRFID適用例として広がっていくものと考えられる.このような場合を想定したシミュレーションを行い,従来方式に比較し2倍以上の読出し高速化が可能なことを明らかにした.本成果については,国際特許の出願中である.

[関連発表論文]

  1. 中野博隆, 長手航, 平野裕介, 笹部昌弘, “応答確率制御法による大量電子タグの高速読み出し,” 電子情報通信学会論文誌, vol.J90-C, no.6, pp.491-501, June 2007.
  2. Hirotaka Nakano and Masahiro Sasabe, “High-speed collective readout of large quantities of moving electronic tags using the response probability control method,” IEEE Systems Journal, vol.1, no.2, pp.160-167, Dec. 2007.

2.1.2. マイクロセル無線方式を用いた電子タグの実装評価

現在の無線タグはハードウエアコストを抑えるためより簡単な回路で実現できる振幅変調を用いている.しかし,セキュリティやプライバシーの要求が高まると,コストアップ要因ではあるがCPU機能が備えられるようになると考えられる.このとき,より複雑な回路を必要とする位相変調の採用もコストバランス的に可能になると考えられる.このような状況を先取りし,セルサイズが10メートルオーダの無線通信方式であるZigBeeの評価キットを用いて電子タグの実装評価を行っている(ZigBeeでは無線の変調方式として位相変調を用いている).評価キットによりリーダと電子タグの基本動作の確認が可能なことを確かめた.また,読み出し衝突が起きたときの動作が振幅変調とは大幅に異なることが判明した.このため,衝突時の動作モデルを作り,実際の読み出し衝突時の特性が説明できることを確認した.

[関連発表論文]

  1. 渡邉宏典, “2.4GHz帯・位相変調方式を用いた電子タグからの電波受信モデルの検討,”大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.

2.1.3. 小規模領域における人物の移動のモデル化とそれに基づく人物の追跡

マイクロセル内のオブジェクトの移動
図:マイクロセル内のオブジェクトの移動

近年,従来の携帯電話や無線LAN などに比べて通信範囲の狭いBluetoothやZigBeeといった通信技術が普及してきている.これらの技術は携帯電話網などのように特定のキャリアだけが利用できるものではなく,誰でも自由に利用でき,かつ,比較的安価に導入することができるため,様々な施設や大学,企業などにおいて適切に利用することで新しいインフラを構築することができる.その結果,ユーザがどこでもネットワークを利用できるユビキタスな環境を実現できる.一方で,センサ技術の発展にともない,センサの小型化,低価格化も進んでいる.安価な赤外線センサをBluetooth,ZigBeeといった無線技術と組み合わせて用いることで,構築した無線インフラを利用した人物(オブジェクト)の追跡技術の実現が期待できる.

そこで本研究では,前述の通信技術が対象とするような小規模な領域において,オブジェクトの追跡を行う手法を提案した.実装や運用のコストを考慮し,我々はまず観測によって領域内におけるオブジェクトの移動特性を知り,そのモデル化を行った.小規模な領域では,領域に対するオブジェクトの侵入および離脱のような,領域を設定する場所によって異なる様々な要因が領域内におけるオブジェクトの移動に大きく影響を与えるため,そのような要因を考慮していない従来の移動モデルは利用できない.観測結果から,小規模な領域内におけるオブジェクトの移動軌跡は直線で,移動速度は正規分布でそれぞれ近似できることがわかった.この結果より,領域に対するオブジェクトの侵入および離脱を観測し,これらの対応を推定することで,領域内のオブジェクトの移動を再現できると考えられる.そこで我々は,オブジェクトの流れに基づいた追跡手法を提案した.オブジェクトの侵入および離脱は,領域の境界のみを観測すればよいため,比較的容易に得られる.侵入と離脱の対応の推定手法としては,ベイズ推定法を時系列情報を扱えるように拡張した手法を提案した.さらに,対応の推定誤りを軽減することで推定精度を向上させる手法を提案した.

提案手法による追跡精度の評価には,実環境における観測データおよびトラヒックジェネレータによって生成した擬似データを用いた.観測データを用いた評価の結果,提案手法は推定誤りの軽減手法を利用しなくとも全ての侵入・離脱の対応が正確に推定できた.また,擬似データを用いた評価の結果,提案手法は領域に対するオブジェクトの侵入・離脱位置に偏りがあるほど高い推定精度を達成することがわかった.領域へのオブジェクト到着率が3 [objects/s]のとき,オブジェクトの侵入・離脱位置に偏りのない場合と比較して58%もの精度向上が見られ,提案手法は最大90%の追跡精度を達成した.

[関連発表論文]

  1. 相原聖, 笹部昌弘, 中野博隆, “セルに対するノードの出入りを考慮した移動モデル,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-4), pp.19-24, Apr. 2007.
  2. Satoshi Aihara, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Mobility model based on incoming and outgoing nodes to an area,” in Proceedings of the 5th International Symposium on Mobile Mapping Technology (MMT’07), May 2007.
  3. Satoshi Aihara, “Observation-based modeling of object mobility in a micro-cell and its application to object tracking,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.

2.1.4. 連続的なベイズ推定による複数の領域を通過する人物の追跡

オブジェクトの追跡
図:オブジェクトの追跡

安価な2値センサを利用して人物(オブジェクト)の移動を追跡できれば様々な応用が期待できる.従来の研究ではオブジェクトの移動速度が急な変化を示さないこと(慣性特性)を利用してオブジェクトの追跡を行っているが,建物(領域)内にはエレベータや扉など,オブジェクトの移動速度が一時的に通常とは異なるような地点(ゲート)が存在する.ただし,ゲートの通過前と通過後ではオブジェクトの速度には大きな変化がないと考えられる.

そこで本研究では,同一オブジェクトのゲートに対する通過イベントを追跡する方法を検討する.まず,ゲートを出入り口に持ついくつかのサブ領域に領域を分割する.各サブ領域内では,各ゲートに設置されたセンサで計測されたオブジェクトの通過情報を基に,当研究グループで提案しているベイズ推定を利用した追跡方式を用いてオブジェクトの追跡を行う.サブ領域単位では慣性特性が保たれると考えられるため,オブジェクトがサブ領域間を横断する時に,移動元のサブ領域において推定時に得られる速度情報を移動先のサブ領域でのオブジェクトの追跡に利用することで追跡精度の向上を図る.

しかしながら,移動元のサブ領域において推定時に得られる速度情報が誤っていれば,移動先のサブ領域でのオブジェクトの追跡に失敗する可能性が高くなる.そこで,推定した速度情報の信頼性を考慮して速度情報の引き継ぎを行うことを検討する.シミュレーション評価により,想定した条件の下で速度情報の引き継ぎを行うことで,追跡の成功率が最大で約34%向上することを示した.

[関連発表論文]

  1. Takafumi Watanabe, “Tracking moving objects across multiple regions by successive bayesian estimation,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.
  2. 渡邉孝文, 笹部昌弘, 中野博隆, “連続的なベイズ推定による複数の領域を通過する人物の追跡,” 電子情報通信学会 (NS2007-195), pp.353-358, Mar. 2008.

2.1.5. 通信距離の最適化による無線ネットワーク容量の向上

通信距離の最適化
図:通信距離の最適化

無線アドホックネットワークでは,領域内におけるノード数の増加にともない,電波の衝突による通信容量の低下が問題となる.特に,送受信ノードが互いの送信電力範囲内に存在しない場合には,他のノードを中継するマルチホップ通信により情報を交換する必要があり,その場合にはホップ数の増加にともないスループットが低下してしまう.

限られた電波資源を有効に活用するための方法として,ノードが送信電力を調整することにより,領域をノード間で空間的に分割することが考えられる.次ホップのノードまでの距離を通信距離とすることができれば,通信容量の大幅な改善が期待できるが,他ノードとの距離を得るためには,計測のオーバヘッド,計測精度などの観点で困難であると考えられる.

そこで本研究では,すべてのノードが均一な通信距離を用いた場合に,領域全体の通信容量を最大化するような最適な通信距離について検討した.まず,既存の電波干渉のモデルに基づき,通信時に電波の影響が及ぶ範囲内に自分と最も近くに位置するノード(最近接ノード)しか存在しない場合に限り,最近接ノードとの通信が成立すると仮定する.その上で通信容量を最大にする通信距離を解析とシミュレーション評価することによって最適な通信距離を明らかにした.その結果,通信容量を最大にする通信距離は,ノード密度に依存し,通信容量の最大値はノード密度に依らない値をとることが明らかになった.さらに従来方式と比べて2.1倍の通信容量を実現できることを示した.

[関連発表論文]

  1. Hiroshi Tokito, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Improvement of the capacity of wireless networks by optimizing communication distance,” in Proceedings of The 9th International Conference on Mobile and Wireless Communications Networks (IFIP/IEEE MWCN 2007), pp.6-15, Sep. 2007.
  2. 時任宏, “無線ネットワーク容量を最大化する通信距離の導出,” 第22回インターネット技術第163委員会研究会 (ITRC meet22), Nov. 2007.

2.1.6. 映像情報を用いたモバイル属性情報の抽出手法の研究

ユビキタス環境中における各種通信制御や新サービスの開発においては,環境の状況を正しく認識することが重要である.このような認識はヒューマンナビゲーション,アドホック通信制御,セルラの設備設計など多岐にわたる応用が期待できる.この研究の第一段階として,多くのオブジェクトが存在する状況において,環境中に置いたカメラから特定のオブジェクト(人,車など)存在数をリアルタイムに予測する方式を検討している.今後,オブジェクトの位置情報や存在密度の統計的な予測,得られた統計データ間の定量的な関係や応用法の検討に進む予定である.

[関連発表論文]

  1. 栗山さやか, “ノードの属性情報及びその統計的性質の自動収集のための動画像中のノード数の実時間推定手法,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.

2.1.7. メッシュネット特性評価法とその応用法の研究

近年,メッシュネットの研究が盛んとなっている.メッシュネットは,ノードからのトラヒックを集める相互に無線接続された無線アクセスポイント網と,その一部であり固定網に足を持つ限られた数のゲートウエーからなるシステムである.アクセスポイントやゲートウエーのモビリティが小さいことが特徴である.モビリティが大きいアドホックネットにおいては各ノードにおけるルーティングテーブルの管理が主課題になるのに対して,メッシュネットでは,ゲートウエーやアクセスポイントの配置手法,タイムスロットなどの通信リソースの配分法が主課題となっている.

メッシュネットの研究においては,グラフ理論を用いて性能限界(上下限)が示されている.また,発見的に構成された特定の制御アルゴリズム(主にタイムスロットなどの通信資源の配分法)についてはNS2シミュレータを用いた評価が行われている.メッシュネットは環境情報の収集や大規模インシデント発生時の代替手段として有望なアーキテクチャであるが,特性の期待値に関する検討は進んでいない.このため,本研究では実用的な性能評価指標の導出,特性期待値の解析・シミュレーション確認を第一段階とし,その応用法まで研究を進める予定である.

[関連発表論文]

(該当なし)

2.1.8. 有線・無線統合ネットワークにおけるTCPの性能向上に関する研究

現在利用可能である無線アクセス技術には,携帯電話の2.5Gや3G,PHS,無線LAN,衛星通信のように様々な種類・規格が存在し,そのいずれもがTCP/IPやUDPといったインターネットで用いられるプロトコルをシームレスに用いることができる.それにより,無線ネットワークをアクセスネットワークとして端末をインターネットに接続する,いわゆる有線・無線統合ネットワークが普及し,多くのインターネット上のサービスが,クライアント端末が無線接続されているホストであることを考慮せずに提供されることが多くなった.しかし,有線・無線統合ネットワークにおいては,インターネットでもっとも広く使用されているトランスポート層プロトコルであるTCP (Transmission Control Protocol) データ転送の性能が低下するという問題が指摘されている.特に,無線ネットワークで発生するリンクエラーによって引き起こされるパケット廃棄(以下,無線リンクロス)と,ネットワークの輻輳によって発生するパケット廃棄(以下,輻輳ロス)を判別できないことが性能低下の大きな原因となっている.

この問題に対しては以前より議論がなされており,解決手法が数多く提案されている.しかしこれら既存の解決手法の多くは,送信側TCP を修正する,あるいは途中経路のルータに機能を付加するなど,有線ネットワーク側の修正が必要となる.しかし,上述のように有線・無線統合ネットワークが浸透するにつれ,サービス提供者はクライアント端末のネットワークアクセス環境を考慮せずにサービス提供を行うようになったため,コスト面から有線ネットワーク内の機器所有者が無線ネットワークに特化した修正を積極的に行うことは期待できないと考えられる.すなわち,無線ネットワークを経由したネットワークアクセス性能の向上に意欲を持つのは,無線ネットワーク事業者および無線端末のユーザであると考えられるため,既存の手法を適用することは難しい.一方,有線ネットワーク側の修正を必要とせず,有線ネットワークと無線ネットワークの境界となるベースステーションを修正することにより性能向上を図る手法も存在するが,ベースステーションでTCPコネクションを分割するためにTCPのEnd-to-endの原則を崩す,あるいはベースステーションでTCPヘッダにアクセスするためにIPSecなどによりIPパケットのペイロード部分が暗号化されたトラヒックに対応できないといった問題がある.

そこで我々は,TCPスループットを改善する手法として,無線接続された受信端末のみに修正を限定することにより,容易に導入が可能であり,TCPのend-to-end の原則を保ち,暗号化されたトラヒックにも適用できる動的ACK分割手法を提案した.提案手法では受信端末においてパケット廃棄の種類を判別し,無線リンクロスが発生したと判別された場合にTCPのACK (ACKnowledgement) パケットを分割送信するACK分割技術を用いて,送信側TCPの輻輳ウィンドウサイズをすばやく増加させる.その際,輻輳ウィンドウサイズが無線リンクロス発生直前の値にまで回復するとACK分割を終了する機能,およびACKパケットの送信レートを動的に制御する機能を導入することにより,有線ネットワークの輻輳や無線アクセスネットワークの上り帯域の圧迫を回避する.提案方式の有効性は,まずシミュレーションによる評価を行い,提案手法を用いることでTCPのスループットが改善されることを示した.また本研究では,提案手法を用いた場合のTCPスループットの数学的な解析を行い,本提案手法の有効性に関する検討を行った.

[関連発表論文]

  1. Go Hasegawa, Masashi Nakata, and Hirotaka Nakano, “Receiver-based ACK splitting mechanism for TCP over wired/wireless heterogeneous networks,” IEICE Transactions on Communications, vol.E90-B, no.5, pp.1132-1141, May 2007. (Best Paper Award)
  2. Go Hasegawa, Masashi Nakata, and Hirotaka Nakano, “Modeling TCP throughput over wired/wireless heterogeneous networks for receiver-based ACK splitting mechanism,” IEICE Transactions on Communications, vol.E90-B, no.7, pp.1682-1691, July 2007.

2.2. 次世代情報ネットワークのためのトランスポートアーキテクチャに関する研究

エンドホスト間でデータを高速に,かつ効率よく転送するための中心技術がトランスポートプロトコルである.特にインターネットで用いられているTCPでは,エンドホストがネットワークの輻輳状態を自律的に検知して転送率を決定している.これは,インターネットの基本思想であるEnd-to-end principleの核になっているものであるが,エンドホストの高速化により,その適応性をより高度なものにできる可能性が十分にある.また,ネットワーク内ルータでは,エンドホストの適応性を前提とした制御を考えていく必要があるが,それが実現されれば,自律性,適応性に富んだ高機能ネットワークの可能性も見えてくる.本研究テーマでは,そのようなトランスポートプロトコルに関する研究に取り組んでいる.また,CDN (Contents Distribution Network) やデータグリッドなど,IPネットワーク上において特定のサービスを提供するためのオーバレイネットワークにおけるトランスポートアーキテクチャや,オーバレイネットワークの浸透にともなって発生すると考えられる諸問題に関する研究にも取り組んでいる.

2.2.1. オーバレイルーティングに起因するネットワークただ乗り問題に関する研究

ネットワークただ乗り問題
図:ネットワークただ乗り問題

オーバレイネットワークには,エンドホスト間のTCPスループットや遅延時間,IPネットワークレベルあるいはオーバレイネットワークレベルのホップ数などのネットワーク性能を指標として,トラヒック制御を行うものが存在する.また,特定のアプリケーションを前提とせず,トラヒックのルーティングそのものを目的(アプリケーション)とするオーバレイネットワークも登場しつつある.オーバレイルーティングを行うことによって,通常のIPルーティングに比べて,利用するユーザにとってのネットワーク性能(スループットや転送遅延時間など)が改善することが明らかとなっている.これは,オーバレイルーティングとIPルーティングではルーティングに用いるポリシーが大きく異なることに起因している.しかし,逆にオーバレイルーティングが,IPルーティングを司るISPに悪影響を及ぼすことが考えられる.これは,主にISPが持つ他ISPとの接続リンクの課金構造が原因で発生する.ISPが上位ISPに対して持つトランジットリンクは,通過するトラヒック量の最大値に応じて通常課金される.一方,ピアリングリンクに関しては,コストは回線そのものの維持コスト(通常ピアリングするISPで折半される)を除いてほとんど発生しない.ISPが行うIPルーティングはこのコスト構造の違いを考慮して行われており,ピアリングリンクにはピアリング関係にある両ISPを起点・終点とするトラヒックのみが通過する.一方,アプリケーションレベルで行われるオーバレイルーティングはこのようなISPの都合を考慮せず,ネットワーク性能やアプリケーションの要求のみに基いて行われるため,ISPが前提としているコスト構造を無視したトラヒックが発生することが考えられる.

本研究ではこの問題をオーバレイルーティングによるネットワークただ乗り問題と呼び,それがISPにとって無視できない問題であることを指摘した.まず,本研究において対象とするただ乗り問題の定義を行い,ISPにとって深刻な問題となり得ることを指摘した.また,オーバレイルーティングがルート選択の際に用いるパスの性能指標として空き帯域(利用可能帯域)およびノード間ラウンドトリップ時間を考え,それぞれを用いた場合に,他のノードを中継してトラヒックが運ばれる条件およびそのトラヒック量に関する定式化を行った.また,研究用大規模オーバレイネットワークであるPlanetLabで得られている参加ノード間の計測データを用いて,ネットワーク全体でどの程度のトラヒックがただ乗り経路によって運ばれる可能性があるかを試算し,それが無視できない量であることを指摘した.

さらに本研究では,ネットワークただ乗り問題を評価するための定量的な指標を導入し,オーバレイルーティングを行った際に発生する,ただ乗り問題の大きさに関する評価を行った.その結果,ユーザ性能が向上するようにオーバレイルーティングを行うと,その時用いられるオーバレイパスの65−90%はただ乗りを発生させることが明らかとなった.また,特に利用可能帯域をメトリックとする場合には,ユーザ性能が向上し,かつ,ただ乗り量が減少するようなオーバレイパスを選択できる確率が高くなることを示した.

[関連発表論文]

  1. 平岡佑一朗, 長谷川剛, 村田正幸, “遅延および帯域情報を用いたオーバレイルーティングの有効性評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-18), pp.19-24, July 2007.
  2. Go Hasegawa, Masayoshi Kobayashi, Masayuki Murata, and Tutomu Murase, “Free riding traffic problem in routing overlay networks,” in Proceedings of the 15th IEEE International Conference on Networks (ICON 2007), Nov. 2007.
  3. Yuichiro Hiraoka, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Effectiveness of overlay routing based on delay and bandwidth information,” in Proceedings of Australasian Telecommunication Networks and Applications Conference 2007 (ATNAC 2007), Nov.-Dec. 2007.
  4. Yuichiro Hiraoka, “A study on free-riding traffic problem in overlay routing,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.
  5. 平岡佑一朗, 長谷川剛, 村田正幸, “オーバレイルーティングによるネットワークただ乗り問題の評価とその緩和手法に関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2007-204), pp.271-276 Mar. 2008.

2.2.2. 大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法関する研究

オーバレイルーティングによる代替経路
図:オーバレイルーティングによる代替経路

地震,風水害,テロなどの大規模災害に対するコンピュータネットワークの対策に関しては未だ体系的に議論されておらず,災害発生時においてもネットワークの十分な信頼性を確保することは難しい.通常,高信頼なネットワークは冗長性に優れた構成を組むことにより実現されるが,インターネットにおけるIPルーティングプロトコルでの転送経路切替方法では短時間での切替は困難である.また,IP層の機能強化を行う場合にも,共通基盤に新しい機能を付加することにより,それに付随する制御が種々派生し,その複雑さによってアーキテクチャの破綻を招く恐れがある.

また,これまでのネットワーク制御に関する研究の多くはコストと性能のトレードオフを論じるものであり,非常時などにおける障害は確率的には非常に小さい発生事象にも関わらずコストが大幅に増大するため,これまであまり検討されていない.また,それらの中でもネットワークの高信頼化を実現する研究はあったが,それらのほとんどは単一障害を仮定しており,大規模なネットワーク障害に関する研究はほとんど行われていない.

そこで本研究では,オーバレイネットワークを用いたトラヒックルーティング技術を用いることで,大規模災害等によってIPネットワークに大きな障害が発生した際に,従来のBGPによるAS間ルーティングでは到達不可能となるAS間通信の大部分を短時間で復旧することが可能となる,オーバレイルーティング手法を提案した.具体的には,オーバレイノードの設置場所,情報交換手法,ASの参加・離脱手法等の検討を行い,小さい通信オーバヘッドでより多くのASが参加可能となるオーバレイネットワーク構築手法を提案した.提案手法の有効性は,CAIDAがBGPトラヒックの計測を行い公開しているASネットワークトポロジを用いて検証し,提案手法がオーバレイノード間の情報交換量を従来手法に比べて1/10−1/1000程度に削減できること,および大規模ネットワーク障害に対して,高いネットワーク接続性を維持し,BGPに比べて短時間で代替経路を発見することができることを示した.

また本研究では,ネットワーク障害からの回復手法のもうひとつのアプローチである,プロアクティブ型の障害回復手法を,オーバレイネットワークを用いたオーバレイルーティングに適用する手法について検討を行った.検証の結果,提案手法が単一の障害のみに留まらず,複数の障害発生時においてもBGPによるルーティングに比べて高い到達性を実現し,かつ障害発生後の平均経路長が理想的な場合に比べてほとんど増加しないことを明らかにした.

本研究ではさらに,オーバレイルーティングを行う際に用いるリンクメトリックに関する情報が不確実な場合に,それが経路制御手法に与える影響を,シミュレーションを用いて調査した.具体的には,3種類のネットワークトポロジを用いたシミュレーションにより,リンクメトリックが変化したときに最短経路を選ぶことができなくなる制御ミス率を評価し,ネットワークトポロジやネットワーク規模が与える影響について考察した.また,真のリンクメトリック集合を用いることができない場合においても効率的に経路を選択するために,経路制御に必要となる条件を考察した.その結果,リンクメトリックの変化により最良の経路を選ぶことができない割合が,品質変化発生率およびネットワークの平均ホップ数に影響を受けるということがわかった.また,品質変化発生率が低い場合には,ノード単位でリンクメトリックとして推定値を用いるリンクを選択する方が,制御ミス率が低くなることがわかった.

[関連発表論文]

  1. 長谷川剛, 亀井聡, 村田正幸, “オーバレイネットワーク技術の非常時通信への適用に関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2007-23), pp.73-78, June 2007.
  2. 児玉瑞穂, 亀井聡, 長谷川剛, 川原亮一, 村田正幸, 吉野秀明, “リンクメトリックの不確実性が経路制御に与える影響の評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-76), pp.25-30, Nov. 2007.
  3. 堀江拓郎, “大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.
  4. Go Hasegawa, Satoshi Kamei, and Masayuki Murata, “Emergency communication services based on overlay networking technologies,” in Proceedings of the 4th International Conference on Networking and Services (ICNS2008), Mar. 2008.

2.2.3. 無線LAN環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCPの性能評価

無線LAN環境におけるTCPの性能評価
図:無線LAN環境におけるTCPの性能評価

近年,インターネットが様々なネットワーク技術により大規模化・高速化するとともに,無線LAN によるインターネットアクセスが一般化している.無線LAN規格には,無線伝送速度が最大11 [Mbps]であるIEEE 802.11bや無線伝送速度が最大54 [Mbps]であるIEEE 802.11aなどが標準化され一般に利用されている.さらに,無線伝送速度が最大300 [Mbps]を越えるIEEE 802.11nも標準化が進み,無線ネットワーク環境は今後も高速化される傾向にある.

一方,高速・高遅延ネットワークを対象に従来のTCP Renoに替わるTCP改良手法が数多く提案されている.それらの提案手法の中には,TCPコネクションのラウンドトリップ時間(RTT)をネットワークの輻輳の指標として用いる手法(delay-based手法)がある.Delay-based手法はパケット廃棄の発生を指標として用いる手法に比べ,早期に輻輳を検出することにより高いスループットを得ることができる.しかし,そのような手法は,無線ネットワークのようなRTTがネットワークの輻輳とは関係なく変動する環境では正しく動作しないことが予想される.しかし,無線端末においてネットワーク環境に応じてトランスポート層プロトコルを切り替えるのは現実的ではなく,無線ネットワーク環境が今後も高速化される傾向にあるため,delay-based手法がそのまま利用される可能性が十分ある.また,無線LANは上りと下りでネットワーク帯域を共有するため,特に無線端末がTCP送信側になる場合には,アクセスポイントが輻輳を起こすことが考えられる.しかし,この問題がTCPの性能に与える影響はこれまでほとんど検証されていない.

そこで本研究では,無線LAN環境において,RTTをネットワークの輻輳の指標として用いるdelay-based手法の性能評価をシミュレーションによって行う.その結果,無線端末が送信側である場合において,無線端末のバッファにデータパケットが蓄積することやTCP改良手法が実装レベルでRTT情報をフィルタリング処理することによって,RTTの変動の影響を抑えることができることを示した.また,無線アクセスポイントにACKパケットが蓄積することが原因となりTCPコネクション間に深刻な不公平性が発生することを明らかにした.

[関連発表論文]

  1. 橋本匡史, “無線LAN 環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCP の性能評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.

2.2.4. インラインネットワーク計測技術に関する研究

インラインネットワーク計測
図:インラインネットワーク計測

近年のネットワークサービスの多様化に伴い,サービスオリエンテッドなネットワーク(サービスオーバレイネットワーク)が拡がりつつある.これらのネットワークにおいてサービス品質を向上させるためには,下位層ネットワークであるIPネットワークを与条件として,サービス提供のためのコネクション設定要求が発生した時に,利用可能な下位層ネットワーク資源量を適切に把握することが重要である.

我々の研究グループでは,IPネットワークのエンドホスト間で利用可能な帯域幅および物理帯域を同時にかつ少ないオーバヘッドで計測する,インラインネットワーク計測手法を提案している.提案方式は,アクティブなTCPコネクションのデータ送受信時に得られる情報に基づいて計測を行なう,インラインネットワーク計測と呼ばれる方式であり,新たな計測用のトラヒックをネットワークに導入する必要がなく,かつ計測結果を素早く導出することが可能となる.物理帯域の計測手法に関しては,同時に計測を行う利用可能帯域値を利用することで,従来手法とはまったく異なるアルゴリズムを用いて物理帯域の推測を行っている.

本年度の研究においては,これまでに我々が提案したパケットの送信・受信間隔に基づいた計測手法,および高速ネットワークにおける計測のために提案した,パケットバーストの送信・受信間隔に基づいた計測手法をLinuxおよびFreeBSDへ実装し,その有効性を確認した.その結果,低速および高速インターネット環境において,両手法が期待される性能を発揮することができることを確認した.特に,従来数多く提案のあるパケットの送信・受信間隔に基づいた計測手法が,100Mbpsを越える高い帯域を計測できないことを確認し,我々が新たに提案したパケットバーストの送信・受信間隔に基づく手法が,1Gbpsに達するような広帯域環境においても利用可能帯域を高い精度で計測できることを確認した.

さらに本研究では,オーバレイネットワークがトラヒックの経路選択を行うために必要となる,経路の帯域情報を知るための,各オーバレイノードで分散的に動作する帯域情報収集システムImSystemを提案した.ImSystemは上述のインラインネットワーク計測を利用することにより,帯域計測用のトラヒックを減少させることができる.そのため,帯域情報収集のためにネットワークへ与える負荷が小さいという特長を持つ.さらに,ImSystemをベースに,計測用のトラヒックが互いに重ならないように計測タイミングを調整するImSystemPlusを提案した.シミュレーション評価結果により,提案システムが常に最新の帯域情報を高い精度で把握することが可能であり,かつ,ネットワークへ与える影響が少ないことを示した.また,オーバレイネットワーク上のトラヒック量が少ない場合においても,提案システムがそれを有効に利用し,計測用トラヒックを大幅に減らすことができることが明らかとなった.

[関連発表論文]

  1. Tomoaki Tsugawa, Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Inline bandwidth measurements: Implementation difficulties and their solutions,” in Proceedings of the 5th IEEE Workshop on End-to-End Monitoring Techniques and Services (E2EMON 2007), May 2007.
  2. Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Inferring available bandwidth of overlay network paths based on inline network measurement,” in Proceedings of the 2nd International Conference on Internet Monitoring and Protection (ICIMP 2007), May 2007. (Best Paper Award)
  3. Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Inline bandwidth measurement techniques for gigabit networks,” to appear in International Journal of Internet Protocol Technology, 2008.

2.2.5. インラインネットワーク計測技術を利用した新たなTCPサービスに関する研究

スループット確保を可能とするTCP改良手法
図:スループット確保を可能とするTCP改良手法

前項のインラインネットワーク計測技術を用いることにより,TCPコネクションが転送中のデータ・ACKパケットを利用して,ネットワークパスの帯域に関する情報を獲得することができる.この情報を用いることで,従来実現できなかった,あるいは,従来アプリケーション層で実現する必要のあったさまざまなネットワークサービスを,トランスポート層,つまりTCPの制御によって実現することができると考えられる.本年度における研究では,一定のスループットを確保したデータ転送を実現するTCPの輻輳制御手法に関する検討を行った.

インターネットの発展によりサービスが多様化し,リアルタイム配信型アプリケーションなど,通信品質の確保を必要とするアプリケーションが注目されている.これまで,IP層やアプリケーション層において高い通信品質を提供する手法が提案されているが,ネットワーク規模に対するスケーラビリティや導入コストなどの問題から実現が困難とされている.そこで本研究では,トランスポート層において高い通信品質を実現する一方式として,TCPコネクションを用いてある一定のスループットを上位アプリケーションに提供する,TCPの輻輳制御方式を提案した.提案手法は,送信側TCPの輻輳ウィンドウサイズの増加方法を変更することで,データ送信レートを制御する.

提案手法の評価はシミュレーションおよび実装実験によって行い,その結果,背景トラヒック量が多く,利用可能帯域がほとんど存在しない環境においても,物理帯域の約10−20%のスループットを高い確率で獲得できることを示した.さらに,提案方式をLinux上へ実装し,研究室内の小規模実験ネットワーク,および大阪-東京間の公衆インターネット環境において実験を行った.その結果,提案方式がコンピュータシミュレーションとほぼ同程度の性能を発揮できることを確認した.

[関連発表論文]

  1. Kana Yamanegi, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “A transport-layer approach for achieving pre-dictable throughput,” to be presented at the 7th International Conference on Networking (ICN 2008), Apr. 2008.

2.2.6. エッジルータにおける改造TCPコネクションの検出・制御技術に関する研究

改造TCPの検出・制御
図:改造TCPの検出・制御

現在のインターネットには,悪意あるユーザによって改造されたTCPが存在する.これは,カーネル内のソースコードやパラメータを少し変えるだけでTCPを改造できることに起因する.例えば,輻輳ウィンドウサイズの増減のレートを変更するには,カーネル内のソースコードのうち,輻輳ウィンドウサイズの増加幅と減少幅を決定しているパラメータを変更するだけでよく,わずか数行の改変で改造が可能である.この様にして改造されたTCPを,ここではtampered-TCPと呼ぶ.

本研究では,tampered-TCPがネットワークに与える影響を評価した.具体的には,tampered-TCPの中でもウィンドウサイズの上げ幅と下げ幅を変更したものを対象とし,数学的解析手法を用いて,TCP Renoコネクションとtampered-TCPコネクションが共存する環境における,tampered-TCPコネクションの平均スループットを導出した.さらに,シミュレーション評価によって数学的解析手法の妥当性を検証し,(1)上げ幅が3以上の場合,再送タイムアウトが増加することによってスループットが低下すること,(2)下げ幅を小さくすることでスループットが増大すること,(3)下げ幅を小さくすることの効果より,上げ幅の増加によるスループットの低下の影響の方が強いこと,などを明らかにした.また,これらの結果を通じて,tampered-TCPの有効範囲がごく狭い領域に限られることを示した.

さらに,エッジルータにおいてtampered-TCPコネクションを検出・制御することによって,通常のTCPコネクションを保護し,TCPコネクション間の公平性を実現する手法を提案した.提案手法は,エッジルータにおいてTCPパケットを観測することにより,TCPコネクションのウィンドウサイズ,あるいはスループットを推測する.さらに,その値をもとにTCPコネクションのタンパリング性を判断し,必要に応じてパケットを意図的に廃棄する.シミュレーション評価により検証した結果,提案手法によってtampered-TCPコネクションを高い確率で検出し,TCP Renoコネクションとのスループット比をほぼ1に保つことができることを明らかにした.

[関連発表論文]

  1. Junichi Maruyama, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Protection mechanisms for well-behaved TCP flows from tampered-TCP at edge routers,” in Proceedings of the 16th International Conference on Computer Communications and Networks (ICCCN 2007), Aug. 2007.
  2. Junichi Maruyama, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “New methods for maintaining fairness between well-behaved TCP flows and tampered-TCP flows at edge routers,” IEICE Transactions on Communications, vol.E91-B, no.1, pp.197-206, Jan. 2008.

2.2.7. 生物の増殖モデルに基づくTCPの輻輳制御方式

TCP Symbiosisの動作原理
図:TCP Symbiosisの動作原理

われわれは,インライン計測技術を用いて帯域に関する情報を取得し,その情報を用いてウィンドウサイズ制御を行うことによって,従来のTCP Renoにおける問題を本質的に改善するための新たなTCPの輻輳制御方式を提案している.ウィンドウサイズ制御のアルゴリズムは,帯域に関する情報を用いることによってウィンドウサイズを適切な値にすばやく調節すること,および他のコネクションが競合する際に公平に帯域を分配できることを目的として設計する必要がある.そのために,数理生態学において生物の個体数の変化を表すモデルとして有名なロジスティック増殖モデル,およびロトカ・ヴォルテラ競争モデルを適用した.これらのモデルをTCPのウィンドウサイズ制御へ適用するために,生物の個体数をデータ転送速度に,個体数の収束値である環境容量を物理帯域に,および種間の競争を同一リンク上の複数コネクションの競合にそれぞれ変換する.本研究では,提案方式の特性を数学的解析によって明らかにし,提案方式が持つパラメータ設定方法に関する議論を行った.また,前述の高速ネットワークにおけるインラインネットワーク計測手法を用いて,ネットワークパスの物理帯域および利用可能帯域を取得することによって,提案している輻輳制御方式が,将来の超高速ネットワーク環境においても十分な性能を発揮することができることを明らかにした.

さらに,提案手法をLinuxへ実装し,研究室内の小規模実験ネットワーク,また,大阪-東京間および大阪-米国カリフォルニア間の公衆インターネット環境を用いて,データ転送実験を行った.その結果,インライン計測によって正確な利用可能帯域の値が得られる場合には,低速・低遅延環境においても十分な性能を発揮できること,また,高速・高遅延ネットワーク環境においては,計測精度が低下したとしても,従来手法に比べて最大で100%のスループット向上を達成できることがわかった.

[関連発表論文]

  1. 児玉瑞穂, 山根木果奈, 長谷川剛, 村田正幸, “インライン計測に基づくTCP輻輳制御方式の実ネットワークにおける性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-3), pp.13-18, Apr. 2007.
  2. Mizuho Kodama, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Implementation experiments of TCP symbiosis: bio-inspired mechanisms for internet congestion control,” to be presented at IEEE 2008 International Communication Quality and Reliability Workshop (IEEE CQR 2008), Apr. 2008.
  3. Go Hasegawa and Masayuki Murata, “Self-adaptive and scalable TCP congestion control based on inline network measurement,” submitted for publication.

2.2.8. TCPトラヒックを考慮した大規模IPネットワークの性能評価に関する研究

大規模TCP/IPネットワーク解析手法
図:大規模TCP/IPネットワーク解析手法

インターネットユーザの増大,アプリケーションの多様化にともない,インターネットは加速度的に大規模・複雑化している.それにともない,そのような大規模ネットワークの設計手法や,性能解析手法に対する要求が高まっている.しかし,インターネットトラヒックの大部分を占めるTCPの挙動を考慮した大規模ネットワークの性能解析・評価手法は,十分に整備されていないのが現状である.

そこで本研究においては,TCPの輻輳制御を考慮した,大規模ネットワークの解析手法を提案した.本解析では,エンドホストで動作するTCPおよびネットワークリンクを,それぞれ独立のシステムとしてモデル化し,これらを相互接続することで,大規模ネットワークをモデル化している.各リンクにおけるリンク利用率およびパケット棄却率,そしてTCPコネクションのスループットを導出し,ネットワークの輻輳個所およびその輻輳の度合を求める.我々の解析手法を用いることによって,例えば,100/1,000/100,000を越えるルータ/エンドホスト/リンク,そして,100,000本を越えるTCPコネクションが存在するネットワークのエンド間のスループット,リンク利用率等を短時間で評価できる.また,評価に必要な計算時間は,ns-2とは異なり,ネットワークの帯域および伝播遅延に依存しない.本研究では,解析結果をシミュレーション結果と比較することにより,解析の妥当性を示した.さらに,我々の解析手法が,大規模ネットワークにおけるTCP コネクションの振舞いを適切に捉えていることを明らかにした.

さらに,提案した解析手法を用いて,コアネットワークおよびエッジネットワークを含んだ大規模なネットワークにおいて,コアルータのバッファサイズを小さくすることの妥当性を検証した.具体的には,解析手法をAbilene-inspiredネットワークに適用することにより,コアルータのバッファサイズを小さくすることが,ネットワークおよびTCPコネクションの性能にあたえる影響を調査した.その結果,エッジネットワークのリンク帯域が大きくなったとき,コアルータのバッファサイズを小さくすることは,コアルータを通過するTCPコネクションと通過しないTCPコネクション間に,大きな不公平性を引き起こすことが明らかとなった.

[関連発表論文]

  1. Hiroyuki Hisamatsu, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Sizing router buffers for large-scale TCP/IP networks,” in Proceedings of the 2007 International Symposium on Frontiers in Networking with Applications (FINA 2007), May 2007.
  2. Hiroyuki Hisamatsu, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Performance analysis of large-scale IP networks considering TCP traffic,” IEICE Transactions on Communications, vol.E90-B, no.10, pp.2845-2853, Oct. 2007.

2.2.9. インターネットルータのバッファサイズに関する研究

ルータバッファサイズ決定問題
図:ルータバッファサイズ決定問題

現在,インターネットルータのバッファサイズの決定には帯域遅延積を指標とする方法(以下normal指標と称する)が広く利用されている.これに対し,TCPを用いた通信が多数存在するという条件の下であれば,ネットワークリンクの利用率を維持するためには帯域遅延積をフロー数の平方根で除算しただけのサイズで十分であるという方法(以下sqrtN指標と称する)が提唱されている.また,TCPコネクションのデータパケット転送におけるバースト性を緩和する手法であるpaced TCPを用いることによって,さらに小さい数十パケットのバッファサイズで十分であるという主張も提起されている.しかし,これら主張はボトルネックリンクの利用率以外の視点からの十分な評価が行われていない.

そこで本研究では,ns-2を用いたシミュレーションにより,paced TCPがルータのバッファサイズの設定に与える影響を,さまざまな視点から考察した.その結果,paced TCPの導入により,ほとんどの場合でパケット廃棄率が小さくなるものの,パケット廃棄率がnon-paced TCPとほとんど差がない場合は,データ転送遅延時間に悪影響を及ぼし,リンク利用率も高く維持できないことが明らかとなった.また,paced TCPとnon-paced TCPが混在した環境においては,normal指標ではpaced TCPフローが増加するにつれ,paced TCPのスループットが大きくなるが,sqrtN指標の場合はpaced TCPのフロー数に関係なくnon-paced TCPのスループットのほうが高く,paced TCPを普及させるにはsqrtN指標では不適当であり,バッファサイズを大きくする必要があることが明らかとなった.

[関連発表論文]

  1. Takeshi Tomioka, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Router buffer re-sizing for short-lived TCP flows,” in Proceedings of the 2007 International Symposium on Performance Evaluation of Computer and Telecommunication Systems (SPECTS 2007), July 2007.

2.2.10. トランスポートプロトコルの改良によるシンクライアントシステムの性能向上に関する研究

シンクライアントシステム
図:シンクライアントシステム

シンクライアントシステムとは,クライアントからキーボード・マウスイベントを送信し,サーバから処理結果の画面情報を受信するシステムを指し,そのトラヒックは,文字情報に相当するインタラクティブな特性のトラヒックと,ウィンドウなどの画面情報に相当するバルク転送的な特性のトラヒックに大別できる.本研究においては,前者に対してパケットロスへの耐性向上を課題として,データパケットの複製同時送信を提案し,後者に対しては,スループットの向上を課題として,TCPのスロースタート再スタート(SSR)の影響を評価するとともに,データセグメントの再構成手法に関する検討を行った.

実トラヒックを利用したシミュレーションにより評価を行った結果,インタラクティブなトラヒックにおいて,ランダムなパケットロスに対しては効果を得られることがわかった.また,バルク転送的なトラヒックのバースト性が,SSR設定オフにより増大し,セグメント再構成により緩和されることを明らかにした.

[関連発表論文]

  1. Yukio Ogawa, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Transport-layer optimization for thin-client systems,” in Proceedings of IEEE International Communications Quality and Reliability Workshop (IEEE CQR 2007), May 2007.

2.2.11. TCPオーバレイネットワークに関する研究

TCPオーバレイネットワーク
図:TCPオーバレイネットワーク

我々の研究グループでは,IP層やアプリケーション層において品質制御を行うのではなく,IP層においては従来のルーティングなど必要最低限の機能のみを提供し,品質制御をトランスポート層において行うTCPオーバレイネットワークに関する研究を行っている.TCPオーバレイネットワークにおいては,通常エンドホスト間に設定されるTCPコネクションをネットワーク内のノード(TCPプロキシ)で終端し,分割されたコネクションごとにパケットを中継しながら転送を行う.これにより,TCPコネクションのフィードバックループを小さくすることが可能になるため,スループットの向上を期待することができる.また,TCPオーバレイネットワークを構築することによって,ネットワーク環境の違いを吸収することが可能になるため,要求されるサービス品質に応じた制御を行うことが可能になる.

そこで本研究では,TCPオーバレイネットワークにおける基本技術であるコネクション分割に着目し,コネクション分割を行うことによりエンドホスト間のデータ転送速度が向上すること,および,プロキシノードにおけるパケット処理のオーバヘッドが原因になり,期待するほどのスループットが得られないことを明らかにした.また,これらの影響を考慮したエンドホスト間のスループット解析を示し,その妥当性をシミュレーションとの比較により検証した.その結果,スループット劣化はTCPプロキシの前後のコネクションが通過するネットワーク環境に差が少ない場合に大きくなり,最大で約60%性能が低下することがわかった.また,そのスループット劣化を防止するためには,従来TCPコネクションに必要とされる量の3倍から10倍の送信バッファが必要であることが明らかとなった.

また,NECとの共同研究により,東京―大阪間の公衆インターネット回線を用いた,TCPプロキシ機構の実証実験を行った.その結果,TCPプロキシ機構が実ネットワークにおいても有効であり,エンド端末のプロトコルやパラメータ設定を変更することなく従来手法に比べて高いデータ転送スループットを獲得できることを明らかにした.また,TCPプロキシ間のTCPコネクションに高速TCPを用いることで,さらに高いスループットが得られることがわかった.

[関連発表論文]

  1. Go Hasegawa, Yasuhiro Yamasaki, Masayuki Murata, and Tutomu Murase, “TCP proxy mechanism in TCP overlay networks: performance analysis and evaluation,” submitted for publication.

2.3. P2Pアーキテクチャに関する研究

近年,コンピュータの高性能化により従来のクライアント−サーバ型アーキテクチャのようにファイルサーバやWWWサーバといったコンテンツを所有,管理するサーバを介するのではなく,ユーザ同士が直接,情報およびデータを交換するP2P型通信技術が注目されている.このような分散システムの一つであるP2P型システムにおいては,利用するユーザに対するQoS(検索・取得効率など)向上やシステム負荷(ネットワーク利用率,ピア使用率など)軽減が重要となる.本研究では,ファイル共有システムに着目し,ファイルの検索,キャッシング,P2P論理網の構築といった要素技術を提案することで,これらの問題に取り組んでいる.

2.3.1. ファイル共有システムにおける進化ゲーム理論を用いたキャッシングアルゴリズム

進化ゲーム理論を用いたキャッシング
図:進化ゲーム理論を用いたキャッシング

P2P ファイル共有システムでは,ノード同士が論理的なリンクを確立することによって,論理的なネットワークが構築され,その上でノードは自分の必要とするファイルを検索,取得する.複数のノードが同一ファイルをキャッシュし,他のノードに提供することによって,低遅延でファイル可用性の高いファイル共有が期待できる.しかしながら,ファイルのキャッシングには処理負荷,ストレージ資源などのコストが発生する.ファイル共有システムを構成するノードはユーザ端末であり,それぞれが利己的に振る舞うと,十分にファイルがキャッシュされず,特に人気の低いファイルがシステムから消失するなどの問題が発生する可能性がある.適切なキャッシュ状態を保つためにすべてのノードの状態を監視,制御するのは困難であるため,ノードの自律的,利己的な振る舞いによってシステム全体で適切なキャッシングが行えるのが望ましい.

進化ゲーム理論は,生物社会において様々な個体が相互に影響を与え合う環境の下,生物の進化の過程で最適な行動が受け継がれるという考え方を,ゲーム理論を用いて説明しようと試みたものである.近年,進化ゲーム理論により,利己的・非協力的に思われる個人の振る舞いが社会全体としての協力行動の表れにどのような影響を与えるかを解明しようとする研究が行われている.そこで本研究では,進化ゲーム理論を用いることで,ファイル共有システムにおいて,局所的なノードの振る舞いがシステム全体のキャッシング状態に与える影響について検証した.その結果,キャッシングに対するコストと需要のモデルによっては,ノードが利己的に振る舞ったとしてもファイルがシステムから消失することのない,ファイル共有が実現可能であることを示した.さらに,検索遅延の観点からも高いQoSを実現可能であることを示した.

[関連発表論文]

  1. Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, and Masayuki Murata, “A caching algorithm using evolutionary game theory in a file-sharing system,” in Proceedings of IEEE Symposium on Computers and Communications (ISCC'07), pp.631-636, July 2007.

2.3.2. ノードのモビリティを考慮したモバイルP2Pネットワークの構築

モバイルP2Pネットワーク
図:モバイルP2Pネットワーク

モバイルアドホックネットワーク(MANET)は固定的なインフラを必要としない,移動無線端末から構成される一時的な無線ネットワークであり,災害発生時など緊急時の対策用ネットワークとして,また,会議,講演会やイベント会場などにおける参加者間での情報交換・共有用ネットワークとしての利用が期待されている.そのような環境では中央サーバが存在しないので,各ノードが自律分散的にネットワーク上の所望する情報(オブジェクト)を発見する方法が必要である.MANETのネットワーク層ルーチングプロトコルは,与えられたIPアドレスへの接続性をマルチホップにより提供しているが,オブジェクトの発見を行うことは出来ない.

そこで,P2PネットワークをMANET上に構築するモバイルP2Pネットワークの構築が考えられている.これまでに,インターネット上でファイル共有,ビデオ・音声通信等の目的で使用されてきたDitributedHashTable (DHT) を,MANET用に修正したEkta,MADPastry等のモバイルP2Pネットワーク構築手法が提案されている.これらの手法は,ネットワーク層とアプリケーション層でルーチング情報を共有することで,通信オーバヘッドの削減,通信経路の短縮化などを実現している.また,MADPastryではノードの物理的な位置に基づきクラスタリングを行うことにより更なる性能の向上を実現している.しかしながら一方で,ノードの移動速度に対する適応性の低さが指摘されている.

本研究ではその原因となるネットワーク層でのルート消失について詳細を説明し,ルート消失がMADPastryに与える影響について定量的に評価した.この問題はネットワーク層で対処することが難しく,アプリケーション層で対処する必要がある.そこで本研究ではクラスタ内でオブジェクト情報を共有することで,環境変動に追従可能な方式を提案した.シミュレーション評価により,MADPastryと比べて高速な移動環境において検索効率を40%近く改善できることを示した.さらに,ネットワークの負荷を変動させた場合やオブジェクトの人気に偏りがある場合においても提案手法はMADPastry と比べて高い検索成功率を実現できることを示した.

[関連発表論文]

  1. 竹下恵, 笹部昌弘, 中野博隆, “高変動なモバイルP2Pネットワークにおけるオブジェクト検索成功率の向上,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-81), pp.1-6, Jan. 2008.
  2. Kei Takeshita, “Improving success ratio of object search in highly-dynamic mobile P2P networks,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.
  3. Kei Takeshita, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Mobile P2P networks for highly dynamic environments,” in Proceedings of the 5th IEEE International Workshop on Mobile Peer-to-Peer Computing (MP2P 2008), Mar. 2008.

3. 発表論文一覧

3.1. 学術論文誌

  1. Go Hasegawa, Masashi Nakata, and Hirotaka Nakano, “Receiver-based ACK splitting mechanism for TCP over wired/wireless heterogeneous networks,” IEICE Transactions on Communications, vol.E90-B, no.5, pp.1132-1141, May 2007. (Best Paper Award)
  2. 中野博隆, 長手航, 平野裕介, 笹部昌弘, “応答確率制御法による大量電子タグの高速読み出し,” 電子情報通信学会論文誌, vol.J90-C, no.6, pp.491-501, June 2007.
  3. Go Hasegawa, Masashi Nakata, and Hirotaka Nakano, “Modeling TCP throughput over wired/wireless heterogeneous networks for receiver-based ACK splitting mechanism,” IEICE Transactions on Communications, vol.E90-B, no.7, pp.1682-1691, July 2007.
  4. Hiroyuki Hisamatsu, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Performance analysis of large-scale IP networks considering TCP traffic,” IEICE Transactions on Communications, vol.E90-B, no.10, pp.2845-2853, Oct. 2007.
  5. Hirotaka Nakano and Masahiro Sasabe, “High-speed collective readout of large quantities of moving electronic tags using the response probability control method,” IEEE Systems Journal, vol.1, no.2, pp.160-167, Dec. 2007.
  6. Junichi Maruyama, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “New methods for maintaining fairness between well-behaved TCP flows and tampered-TCP flows at edge routers,” IEICE Transactions on Communications, vol.E91-B, no.1, pp.197-206, Jan. 2008.

3.2. 国際会議会議録

  1. Akiko Miyagawa, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Perfect cell partitioning in micro-cellular networks,” in Proceedings of Information and Communication Technologies International Symposium (ICTIS 2007), Apr. 2007.
  2. Tomoaki Tsugawa, Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Inline bandwidth measurements: Implementation difficulties and their solutions,” in Proceedings of the 5th IEEE Workshop on End-to-End Monitoring Techniques and Services (E2EMON 2007), May 2007.
  3. Cao Le Thanh Man, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Inferring available bandwidth of overlay network paths based on inline network measurement,” in Proceedings of the 2nd International Conference on Internet Monitoring and Protection (ICIMP 2007), May 2007. (Best Paper Award)
  4. Satoshi Aihara, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Mobility model based on incoming and outgoing nodes to an area,” in Proceedings of the 5th International Symposium on Mobile Mapping Technology (MMT’07), May 2007.
  5. Yukio Ogawa, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Transport-layer optimization for thin-client systems,” in Proceedings of IEEE International Communications Quality and Reliability Workshop (IEEE CQR 2007), May 2007.
  6. Hiroyuki Hisamatsu, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Sizing router buffers for large-scale TCP/IP networks,” in Proceedings of the 2007 International Symposium on Frontiers in Networking with Applications (FINA 2007), May 2007.
  7. Takeshi Tomioka, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Router buffer re-sizing for short-lived TCP flows,” in Proceedings of the 2007 International Symposium on Performance Evaluation of Computer and Telecommunication Systems (SPECTS 2007), July 2007.
  8. Masahiro Sasabe, Naoki Wakamiya, and Masayuki Murata, “A caching algorithm using evolutionary game theory in a file-sharing system,” in Proceedings of IEEE Symposium on Computers and Communications (ISCC'07), pp.631-636, July 2007.
  9. Akiko Miyagawa, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Transmission power control for avoiding cell overlapping in micro-cellular networks,” in Proceedings of International Conference on Wireless Information Networks and Systems (WINSYS 2007), pp.45-50, July 2007.
  10. Junichi Maruyama, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Protection mechanisms for well-behaved TCP flows from tampered-TCP at edge routers,” in Proceedings of the 16th International Conference on Computer Communications and Networks (ICCCN 2007), Aug. 2007.
  11. Hiroshi Tokito, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Improvement of the capacity of wireless networks by optimizing communication distance,” in Proceedings of The 9th International Conference on Mobile and Wireless Communications Networks (IFIP/IEEE MWCN 2007), pp.6-15, Sep. 2007.
  12. Go Hasegawa, Masayoshi Kobayashi, Masayuki Murata, and Tutomu Murase, “Free riding traffic problem in routing overlay networks,” in Proceedings of the 15th IEEE International Conference on Networks (ICON 2007), Nov. 2007.
  13. Yuichiro Hiraoka, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Effectiveness of overlay routing based on delay and bandwidth information,” in Proceedings of Australasian Telecommunication Networks and Applications Conference 2007 (ATNAC 2007), Nov.-Dec. 2007.
  14. Go Hasegawa, Satoshi Kamei, and Masayuki Murata, “Emergency communication services based on overlay networking technologies,” in Proceedings of the 4th International Conference on Networking and Services (ICNS2008), Mar. 2008.
  15. Kei Takeshita, Masahiro Sasabe, and Hirotaka Nakano, “Mobile P2P networks for highly dynamic environments,” in Proceedings of the 5th IEEE International Workshop on Mobile Peer-to-Peer Computing (MP2P 2008), Mar. 2008.

3.3. 口頭発表(国内研究会など)

  1. 相原聖, 笹部昌弘, 中野博隆, “セルに対するノードの出入りを考慮した移動モデル,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-4), pp.19-24, Apr. 2007.
  2. 児玉瑞穂, 山根木果奈, 長谷川剛, 村田正幸, “インライン計測に基づくTCP輻輳制御方式の実ネットワークにおける性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-3), pp.13-18, Apr. 2007.
  3. 長谷川剛, 亀井聡, 村田正幸, “オーバレイネットワーク技術の非常時通信への適用に関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2007-23), pp.73-78, June 2007.
  4. 平岡佑一朗, 長谷川剛, 村田正幸, “遅延および帯域情報を用いたオーバレイルーティングの有効性評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-18), pp.19-24, July 2007.
  5. 時任宏, “無線ネットワーク容量を最大化する通信距離の導出,” 第22回インターネット技術第163委員会研究会 (ITRC meet22), Nov. 2007.
  6. 児玉瑞穂, 亀井聡, 長谷川剛, 川原亮一, 村田正幸, 吉野秀明, “リンクメトリックの不確実性が経路制御に与える影響の評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-76), pp.25-30, Nov. 2007.
  7. 竹下恵, 笹部昌弘, 中野博隆, “高変動なモバイルP2Pネットワークにおけるオブジェクト検索成功率の向上,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2007-81), pp.1-6, Jan. 2008.
  8. 渡邉孝文, 笹部昌弘, 中野博隆, “連続的なベイズ推定による複数の領域を通過する人物の追跡,” 電子情報通信学会 (NS2007-195), pp.353-358, Mar. 2008.
  9. 平岡佑一朗, 長谷川剛, 村田正幸, “オーバレイルーティングによるネットワークただ乗り問題の評価とその緩和手法に関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2007-204), pp.271-276 Mar. 2008.

3.4. 博士論文・修士論文・特別研究報告

3.4.1. 博士論文

(該当なし)

3.4.2. 修士論文

  1. Satoshi Aihara, “Observation-based modeling of object mobility in a micro-cell and its application to object tracking,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.
  2. Kei Takeshita, “Improving success ratio of object search in highly-dynamic mobile P2P networks,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.
  3. Yuichiro Hiraoka, “A study on free-riding traffic problem in overlay routing,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.
  4. Takafumi Watanabe, “Tracking moving objects across multiple regions by successive bayesian estimation,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2008.

3.4.3. 特別研究報告

  1. 栗山さやか, “ノードの属性情報及びその統計的性質の自動収集のための動画像中のノード数の実時間推定手法,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.
  2. 橋本匡史, “無線LAN 環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCP の性能評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.
  3. 堀江拓郎, “大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.
  4. 渡邉宏典, “2.4GHz帯・位相変調方式を用いた電子タグからの電波受信モデルの検討,”大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2008.