大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門
(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座)
2010年度研究成果報告

本Webページは大阪大学サイバーメディアセンター先端ネットワーク環境研究部門(大阪大学大学院情報科学研究科ユビキタスネットワーク講座、中野研究室)の2010年度の研究成果をまとめた報告書です。ご清覧いただき、忌憚のない意見を下されば幸いです。

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目次

  1. メンバー
    1. スタッフ
    2. 共同研究者
    3. 学生
  2. 研究業績
    1. 無線メッシュネットワークに関する研究
      1. IEEE 802.16jリレーネットワーク上り通信における伝送遅延を低減するタイムスロット割り当てに関する研究
      2. IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当てに関する研究
      3. IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能改善に関する研究
      4. 障害物が電波伝搬に与える影響を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価に関する研究
      5. 無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルに関する研究
      6. 無線ネットワークにおける被覆領域の改善に関する研究
    2. オブジェクトの追跡と計数に関する研究
      1. 動画像処理に基づく歩行者計数に関する研究
      2. 複数のバイナリセンサを用いた複眼センサによる歩行者計数に関する研究
      3. 領域分割を用いたシナリオ型仮説方式に基づくオブジェクト追跡に関する研究
      4. オプティカルフローに基づく降水短時間予報に関する研究
    3. オーバレイネットワークアーキテクチャに関する研究
      1. オーバレイルーティングによって増加する ISP 間トランジットコストの削減に関する研究
      2. 大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法に関する研究
      3. オーバレイネットワークにおけるネットワーク性能計測手法に関する研究
      4. オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する研究
    4. 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究
      1. 無線LAN環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCPの性能評価
      2. TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減に関する研究
      3. 無線マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響に関する研究
      4. エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する研究
      5. TCP送信を前提としたビデオストリーミング方式に関する研究
      6. インラインネットワーク計測技術のビデオ会議アプリケーションへの応用に関する研究
  3. 発表論文一覧
    1. 学術論文誌
    2. 国際会議会議録
    3. 口頭発表
    4. 博士論文・修士論文・特別研究報告
      1. 博士論文
      2. 修士論文
      3. 特別研究報告

1. メンバー

1.1. スタッフ

中野 博隆
中野 博隆
教授
長谷川 剛
長谷川 剛
准教授
谷口 義明
谷口 義明
助教
稲鍵 多圭子
稲鍵 多圭子
秘書
(2011.2退職)
大西 麻理
大西 麻理
秘書
(2011.3着任)

1.2. 共同研究者

村田 正幸
村田 正幸
大阪大学
情報科学研究科
教授

1.3. 学生

倉掛 正治
倉掛 正治
博士後期課程3年
小桐 康博
小桐 康博
博士後期課程2年
橋本 匡史
橋本 匡史
博士後期課程1年
松田 一仁
松田 一仁
博士後期課程1年
Xun Shao
Xun Shao
博士後期課程1年
姜 京延
姜 京延
博士前期課程2年
竹森 翔一
竹森 翔一
博士前期課程2年
田中 慎平
田中 慎平
博士前期課程2年
伊勢 悠輝
伊勢 悠輝
博士前期課程1年
小林 大翼
小林 大翼
博士前期課程1年
重藤 隆文
重藤 隆文
博士前期課程1年
藤澤 志寿加
藤澤 志寿加
博士前期課程1年
今城 健太郎
今城 健太郎
学部4年
北山 智也
北山 智也
学部4年
鯉谷 和正
鯉谷 和正
学部4年
正原 竜太
正原 竜太
学部4年
通阪 航
通阪 航
学部4年

2. 研究業績

2.1. 無線メッシュネットワークに関する研究

山間部や離島など、有線ネットワークの敷設が困難な地域において無線接続環境を提供することのできる無線メッシュネットワークは、経済性、拡張性に優れることから、大きな注目を集めている。無線メッシュネットワークは、有線ネットワークへの接続機能を持つゲートウェイノードと複数のメッシュノードが無線でマルチホップ接続されることにより構成される。利用者端末は近隣のメッシュノードを介してネットワークに接続する。特に無線メッシュネットワークのうち、ゲートウェイを根とするツリー状のトポロジを構築するものをリレーネットワークという。本研究では、無線メッシュネットワーク、特にIEEE 802.16jマルチホップリレーネットワークを対象として、その性能を改善するための手法および性能評価に取り組んでいる。

IEEE 802.16jリレーネットワーク上り通信における伝送遅延を低減するタイムスロット割り当てに関する研究

IEEE 802.16j ネットワークでは電波干渉を防ぐ方法として、MACプロトコルにおけるOrthogonal Frequency Division Multiplexing Access (OFDMA) に基づいた時分割スケジューリング方式 (Time Division Multiplexing Access: TDMA) を採用している。このスケジューリング方式においては、フレームと呼ばれる一定間隔に時間を分割し、そのフレーム内でネットワーク内の各リンクに通信機会を与える。各リンクへの通信機会はフレームを一定間隔ずつに区切ったタイムスロットと呼ばれる単位で与えられ、あるリンクは与えられたタイムスロットにおいてのみ通信できる。また、互いに干渉を起こす可能性のあるリンクに異なるタイムスロットを割り当てることで電波干渉の発生を防ぐ。

このようなTDMA による無線マルチホップ通信では、あるノードから他のノードまでパケットを伝送する際に、パケットが通信経路上のあるノードに到着してから次のノードへ送信されるまでに待ち時間が発生する。目的ノードまでの各経由ノードにおいて、このような待ち時間が蓄積することによって、各ノードでパケットが発生してからゲートウェイノードに到達するまでの伝送遅延時間が増大する。特にゲートウェイノードからのホップ数が大きいノードでは、各ノードにおける待ち時間の蓄積は深刻な問題である。

タイムスロット割り当てによって伝送遅延時間を低減する研究の多くは下り通信に着目しており、上り通信に着目している研究はまだ少ない。また、それらの研究においても、対象としているネットワーク規模が小さくノード数が少ないことや、マルチホップながら3 ホップ以上のノードがないなどの問題点が残っている。 本研究では、IEEE 802.16j ネットワークの上り通信における伝送遅延時間を低減するためのタイムスロット割り当て手法を提案した。 まず、ゲートウェイノードからのホップ数に着目し、タイムスロットを割り当てるリンクの順序を決定してタイムスロットを割り当てる手法、及び、ゲートウェイノードまでの通信経路に着目し、パケットが通信されるリンクの順にタイムスロットを割り当てる手法を提案した。既存手法と比較評価し、ホップ数に着目した手法では特定の条件下で、通信経路に着目した手法では評価環境の全ての条件下で上り通信における伝送遅延時間を減少させることを確認した。

さらに、各ノードにおける待ち時間が減少するように提案手法を改良した手法を提案した。具体的には、ゲートウェイノードからのホップ数に着目した手法に対しては、より大きなホップ数をもつリンクに割り当てたタイムスロットよりも時間的に遅いタイムスロットを割り当てるように改良し、ゲートウェイノードまでの通信経路を考慮した手法に対しては、通信経路上のリンクに割り当てたタイムスロットよりも時間的に遅いタイムスロットを割り当てるように改良した。パケットレベルのシミュレーションを行うことによる改良手法の評価の結果、改良手法がネットワーク負荷に関わらず伝送遅延時間を削減できることを示した。

[関連資料]

  1. IEEE 802.16jにおける上り通信伝送遅延時間低減のためのタイムスロット割り当て手法 IEEE 802.16jにおける上り通信伝送遅延時間低減のためのタイムスロット割り当て手法 (175 KB)

[関連発表論文]

  1. 田中慎平, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16j上り通信における伝送遅延時間低減のためのタイムスロット割り当て手法の提案,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-78), vol.110, no.240, pp.49-54, Oct. 2010. [paper]
  2. Shimpei Tanaka, “Time slot assignment algorithms to upstream links for decreasing transmission latency in IEEE 802.16j networks,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2011.
  3. 田中慎平, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “通信経路を考慮したIEEE 802.16j上りリンクへのタイムスロット割り当て手法の拡張,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-195), vol.110, no.448, pp.181-186, Mar. 2011. [paper]
  4. Shimpei Tanaka, Go Hasegawa, Yoshiaki Taniguchi, and Hirotaka Nakano, “Time slot assignment algorithms for reducing upstream latency in IEEE 802.16j networks,” in Proceedings of the 7th Advanced International Conference on Telecommunications (AICT 2011), pp.6-11, Mar. 2011. [paper]

2.1.2. IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当てに関する研究

IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当てに関する研究

IEEE 802.16j マルチホップリレーネットワークにおいて割り当てられたタイムスロットにおけるデータ伝送の品質は、伝送時の信号対干渉比の影響をうける。そのため、IEEE 802.16j マルチホップリレーネットワークのタイムスロット割り当てにおいては、タイムスロットが割り当てられたリンクの伝送時の信号対干渉比を考慮する必要がある。伝送品質を確保しながらデータ伝送量の改善を可能とする通信方式として、適応変調符号化方式があるが、IEEE 802.16j マルチホップリレーネットワークにおけるタイムスロット割り当てに関する既存研究においては、適応変調符号化方式を前提とした性能評価や、性能改善手法に関する検討を行っている例はない。

そこで本研究では、ネットワーク内のデータ伝送時の信号対干渉比を考慮した、IEEE 802.16jマルチホップリレーネットワークのタイムスロット割り当て手法を提案した。提案手法では、簡易的な電波干渉モデルに基づき、リンクへのタイムスロット割り当てを行った後、各リンクの伝送品質を信号対干渉比を考慮した干渉モデルに基づいて評価する。その後、ネットワーク内でボトルネックとなっているリンクに割り当てるタイムスロット数を増加させる。これにより、ボトルネックリンクの実効帯域が増加するため、ネットワーク性能の向上が期待できる。提案手法の性能評価は、外部ネットワークへのデータ転送スループット、および全てのリンクへ割り当てたタイムスロット総数を評価指標とし、数値計算手法によって行う。性能評価の結果、提案手法を用いることで既存手法に比べて、データ転送スループットが最大約50% 改善することを明らかにした。

[関連資料]

  1. IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当て手法 IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当て手法 (278 KB)

[関連発表論文]

  1. 北山智也, “IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当て手法,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  2. 北山智也, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当て手法の提案と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (情報ネットワーク研究会), May 2011. (発表予定)

2.1.3. IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能改善に関する研究

IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能改善に関する研究

IEEE 802.16マルチホップリレーネットワークにおいて効率のよい通信を行うためには、ネットワーク内の全てのリンクが通信を行うために必要となるタイムスロット数(フレーム長)を小さくすることが重要となる。フレーム長を小さくすることによって、各リンクの単位時間あたりの通信機会が増加し、ネットワークスループットが向上する。タイムスロット割り当てを行う際、通信量が大きいリンク同士が干渉関係となっている場合や、多数のリンク間で電波干渉が発生する場合には、電波干渉が発生するリンクには異なるタイムスロットを割り当てる必要があるため、ネットワーク内の全てのリンクが通信を行うために必要なタイムスロット数が増大し、フレーム長が大きくなる。このとき、リンク間の干渉により多数のタイムスロットが必要となるリンクを構成するリレーノードを移動させて位置の調整を行い、リンク間の干渉関係を解消、または軽減することにより、それらのリンクに異なるタイムスロットを割り当てる必要がなくなり、フレーム長が削減され、ネットワークスループットの向上が期待できる。

このようなノード位置の調整によるネットワーク通信性能の改善は、センサネットワークの分野では、ノードの再配置手法として検討されており、データ伝送率やセンサによる検知範囲、センサノードからベースステーションノードまでのホップ数などの指標を用いて、性能向上を目的とした様々なノード配置手法やノードの再配置手法が提案されている。しかし、IEEE 802.16jに基づく無線リレーネットワークを対象とした性能評価が行われた例は存在しない。そこで本研究では、IEEE 802.16j リレーネットワークにおいてリレーノードの位置を調整することが通信性能に与える影響を評価した。リレーノードの位置調整を行うための移動方法と移動条件を定義し、IEEE 802.16j に基づくネットワークモデルを用いて、様々なノード数、最大伝送距離、干渉比を持つリレーネットワークにおいてリレーノード1 ノードの位置調整を行ったときのフレーム長の変化を評価した。また、複数のリレーノードを1 ノードずつ最適な位置に移動させたときの性能改善の評価を行い、移動させたリレーノード数に対する性能改善効果を評価した。その結果、1ノードの位置調整を行うことにより最大約16%のフレーム長の削減が可能であること、また複数のリレーノードの順次位置調整を行うことにより最大22%のフレーム長の削減が可能であることを示した。

[関連資料]

  1. IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能の改善 IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能の改善 (380 KB)

[関連発表論文]

  1. 重藤隆文, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16jネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能の改善,” 電子情報通信学会第8回QoSワークショップ予稿集 (QW8-P-01), Nov. 2010. [paper]

2.1.4. 障害物が電波伝搬に与える影響を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価に関する研究

 障害物が電波伝搬に与える影響を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価に関する研究

IEEE 802.16マルチホップリレーネットワークにおいてネットワーク全体のスループットやサービス面積などの評価を行う際には、送信ノードが伝送可能な通信範囲や近隣ノードに電波干渉を及ぼす範囲を、送信ノードを中心とした円状の範囲内と定義したネットワークモデルが従来使用されている。このモデルを用いた既存のリレーネットワークの性能評価においては、障害物の存在は想定されておらず、通信電波が障害物によって受ける影響を考慮していない。一般的に、障害物によって電波は遮断、反射、回折など様々な影響を受ける。そのため、障害物がない場合には通信可能であったノード同士の間に障害物が存在することにより通信が不可能になり、ネットワーク性能が低下することが考えられる。一方、近隣ノードから受ける電波干渉の影響が減少することにより、リレーネットワーク全体の接続関係や干渉関係が変化する。マルチホップリレーネットワークでは時分割による無線通信方式が採用されているため、接続関係及び干渉関係の変化がネットワークスループットに影響を与える。また、障害物の影響により、どのノードとも通信できない孤立ノードが発生し、リレーネットワークがユーザ端末に対して提供するサービス面積にも影響を与える。したがってリレーネットワークの実世界における適用可能性を検討するためには、障害物の影響を考慮したリレーネットワークの性能評価を行うことが重要である。

そこで本研究では、障害物が電波伝搬に与える影響を考慮したIEEE 802.16リレーネットワークの性能評価を行った。具体的には、従来、性能評価に用いられているネットワークモデルに障害物を導入し、通信電波が障害物によって遮断される影響を考慮した性能評価モデルを構築した。さらに、そのモデルを用いてシミュレーションを行うことにより、リレーネットワークのサービス面積、フレーム長、及び経路長に関する評価を行った。評価の結果、障害物数が比較的少ない場合では、サービス面積の減少幅は小さいが、ゲートウェイノードからリレーノードまでの経路長が増加すること、また、その際、リレーノードを追加することによって障害物の影響を打ち消し、少ないフレーム長の増加でサービス面積を改善できることを示した。また、大阪大学豊中キャンパスにおける建物配置を想定した環境における性能評価を行い、ランダムに障害物を配置したモデルとの比較を行うことによって、ネットワークパラメータの関連性を明らかにした。

[関連資料]

  1. 障害物による通信電波の遮断を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価 障害物による通信電波の遮断を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価 (1,510 KB)

[関連発表論文]

  1. 伊勢悠輝, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “障害物による通信電波の遮断を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-54), vol.110, no.191, pp.61-66, Sep. 2010. [paper]

2.1.5. 無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルに関する研究

無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルに関する研究

無線ネットワークにおいては、近隣の複数のリンクが同一チャネルにおいて同時に使用されると、無線信号が衝突し、各リンクで無線信号を正常に受信できなくなる電波干渉の問題がある。電波干渉を回避するために、TDMA 方式では、あらかじめ干渉関係にあるリンクに異なるタイムスロットを割り当てる。無線メッシュネットワークでは、ノードはモビリティを持たずネットワーク構成は安定するため、TDMA 方式を利用することが主に想定されている。また、無線メッシュネットワーク中のリンクの干渉関係をグラフとして表した場合、電波干渉を避けてタイムスロットを割り当てる問題はグラフ彩色問題と等価である。そのため、グラフ理論に基づくタイムスロット割り当て手法が多く提案されている。

グラフ理論に基づくタイムスロット割り当て手法では、リンクの干渉関係の情報を取得するため、簡易電波干渉モデル(Protocol modelとも呼ばれる)がよく用いられる。簡易電波干渉モデルは、ノードの位置や干渉比と呼ばれる干渉範囲を決定するパラメータなどに基づき、一意にリンク間の干渉関係を決定可能であるが、実際の電波干渉特性と比べて干渉判断の精度が低いという問題がある。一方、実際の電波干渉特性と近い干渉判断が可能であるとされる電波干渉モデルとして、信号対干渉比モデル(SINR model: signal-to-interference-plus-noise ratio model)が知られている。しかしながら、信号対干渉比モデルにおいては、タイムスロット割り当て前にリンク間の干渉関係が一意に決まらないため、タイムスロット割り当て手法に適用することは難しい。

我々の研究グループでは、無線メッシュネットワークにおけるタイムスロット割り当て手法へ適用するための、高い精度で干渉判断のできる電波干渉モデルに関する研究を行っている。本研究では、簡易電波干渉モデルのパラメータ設定が、信号対干渉比モデル上の干渉判断に与える影響の詳細な評価を行う。まず、さまざまな信号対干渉比の分布を考慮し簡易電波干渉モデルのパラメータを調整する手法を提案する。さらに提案手法を用いて簡易電波干渉モデルのパラメータを調整し、タイムスロットを割り当てることにより、簡易電波干渉モデル上の干渉判断と信号対干渉比モデル上の干渉判断がどのような関係にあるかを定量的に明らかにする。シミュレーション評価の結果、ノード毎に異なる干渉比を割り当てることにより、干渉判断の精度が最大15%向上することを確認した。

[関連資料]

  1. TDMA型メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデル TDMA型メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデル (222 KB)

[関連発表論文]

  1. 姜京延, 谷口義明, 長谷川剛, 中野博隆, “無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルに関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-79), vol.110, no.240, pp.55-60, Oct. 2010. [paper]
  2. Gyeongyeon Kang, “A study on parameter tuning of protocol interference model considering SINR for TDMA-based wireless mesh networks,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2011.
  3. 姜京延, 谷口義明, 長谷川剛, 中野博隆, “無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルの評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-189), vol.110, no.448, pp.145-150, Mar. 2011. [paper]
  4. Gyeongyeon Kang, Yoshiaki Taniguchi, Go Hasegawa, and Hirotaka Nakano, “Extending the protocol interference model considering SINR for wireless mesh networks,” in Proceedings of the 7th Advanced International Conference on Telecommunications (AICT 2011), pp.26-31, Mar. 2011. (Best Paper Award) [paper]

2.1.6. 無線ネットワークにおける被覆領域の改善に関する研究

無線ネットワークにおける被覆領域の改善に関する研究

無線メッシュネットワークでは、メッシュノードはその被覆領域内に存在するユーザ端末にインターネットアクセス環境を提供する。いくつかの無線センサネットワークでは、センサノードは被覆領域を監視し、得られたデータを収集する。これらのネットワークにおける被覆領域の大きさや重複度は、通信性能やセンシング性能、消費電力といったネットワーク性能に大幅な影響を与える。各ノードの被覆領域の大きさを適切に決定するためには、隣接ノードの位置情報を利用することが重要である。しかしながらネットワークを構築する環境によっては、その情報の一部または全てを利用できない可能性がある。

本研究では、隣接ノードに関する利用可能な情報の種類に応じた、被覆領域の大きさを決定するためのいくつかの手法を検討した。まず、無線メッシュネットワークにおいて、隣接ノードに関する利用可能な情報を3 種類仮定し、それぞれの場合に対して被覆領域の制御手法を提案した。最初の手法は、各ノードが情報を一切利用できない場合に対するものである。二つ目の手法は、各ノードが隣接ノードの個数のみを利用可能な場合を想定している。最後の手法は、隣接ノードの正確な位置情報を利用するものである。シミュレーションによって、被覆率、重複度、消費電力、電波資源利用効率に関する性能評価を行った。この中で、利用する情報の粒度と性能のトレードオフを明らかにするほか、正確な位置情報から導いたボロノイ図を用いる手法が、最も高い性能を発揮することを示した。

さらに、隣接ノードへの距離情報のみが利用可能な場合に対する、ボロノイ図を用いたもう一つの手法を提案した。この手法では、各ノードは推定された距離情報に基づいて、隣接ノードの相対位置を推定する。そしてその位置からボロノイ図を計算し、その形に対して被覆領域の大きさを決定する。被覆率、重複度、消費電力に関する性能評価をシミュレーションによって行い、この手法がノード密度にかかわらず99% 以上の被覆率を得ることを示す。また、最初の手法に比べて、消費電力を50% 以上削減することも示す。さらに距離測定誤差に対しても、この手法が優れた性能を発揮することを確認した。

[関連資料]

  1. 無線ネットワークにおける幾何学的アルゴリズムに基づく被覆領域の性能改善手法 無線ネットワークにおける幾何学的アルゴリズムに基づく被覆領域の性能改善手法 (426 KB)

[関連発表論文]

  1. 竹森翔一, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるサービス領域展開手法の性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-7), vol.110, no.18, pp.37-42, Apr. 2010. [paper]
  2. Shoichi Takemori, Go Hasegawa, Yoshiaki Taniguchi, and Hirotaka Nakano, “Service area deployment of IEEE 802.16j wireless relay networks: service area coverage, energy consumption, and resource utilization efficiency,” International Journal on Advances in Internet Technology, vol.3, no.1-2, pp.43-52, Sep. 2010. [paper]
  3. Shoichi Takemori, “Improving coverage performance for wireless networks based on geometric algorithms,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2011.
  4. 竹森翔一, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “無線ネットワークにおける局所トポロジ情報を用いた被覆領域の自律制御手法,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-196), vol.110, no.448, pp.187-192, Mar. 2011. [paper]
  5. Shoichi Takemori, Go Hasegawa, Yoshiaki Taniguchi, and Hirotaka Nakano, “Determining coverage area using Voronoi diagram based on local information for wireless networks,” submitted for publication, Feb. 2011.

2.2. オブジェクトの追跡と計数に関する研究

近年、道路の通行量や建物、催し物会場等の入退場者数を把握するための人流計測の自動化に対する需要が高まっている。本研究では、カメラで取得した動画像あるいは単純なセンサを組み合わせることにより、人流を実時間、高精度に計測、追跡できる手法を検討している。また、動画像処理に基づく人流計測手法を、降雨予報等他の対象に応用した研究も行っている。

2.2.1. 動画像処理に基づく歩行者計数に関する研究

動画像処理に基づく歩行者計数に関する研究

本研究では1台のカメラで取得した動画像を用いて、人物が重なり合うような状況でも、人流を実時間、高精度に計測できる人流計測手法を検討している。提案手法では、まず、カメラを用いて斜め上空から対象領域を撮影し、取得した動画像中の所望の位置に直線状の仮想ゲートを設置する。次に、仮想ゲート上の各画素における背景差分をフレーム毎に計算し、差分が大きな画素を始点とするオプティカルフローを抽出する。抽出したオプティカルフローを始点が隣接する同じ向き、大きさのフロー群に分離し、事前学習により得た統計情報を用いて、分離したフロー群の大きさから、通過人数を推定する。提案手法の有効性を確認するために、実動画像を用いた検証を行っている。

[関連資料]

  1. ベイズ推定を用いた動画像中の仮想ゲート通過人数推定手法の提案 ベイズ推定を用いた動画像中の仮想ゲート通過人数推定手法の提案 (148 KB)

2.2.2. 複数のバイナリセンサを用いた複眼センサによる歩行者計数に関する研究

複数のバイナリセンサを用いた複眼センサによる歩行者計数に関する研究

近年、無線通信機能を持つセンサを多数配置することでセンサネットワークを構築し、人や自動車などのオブジェクトの追跡、計数を行う技術が注目を集めている。特に、赤外線センサなどのようにセンシング範囲内のオブジェクトの有無のみを検出できるバイナリセンサは安価で消費電力も少なく、また、発生するデータ量も少ないことから、バイナリセンサを使ったセンサネットワークによるオブジェクト追跡、計数技術が注目を集めている。

本研究では、複数のバイナリセンサを少しずつずらして配置することにより構成する複眼センサを対象として、複眼センサのセンシング範囲内に進入したオブジェクトの方向別の計数を行う手法を提案している。提案手法の有効性を確認するためにシミュレーションおよび実機実験を用いた評価に取り組んでいる。

2.2.3. 領域分割を用いたシナリオ型仮説方式に基づくオブジェクト追跡に関する研究

領域分割を用いたシナリオ型仮説方式に基づくオブジェクト追跡に関する研究

センサネットワークの主要な利用例の1つである人物などのオブジェクト追跡は、例えば、介護施設における事故防止や商業施設等での行動分析、避難訓練のシミュレーションなど、様々な分野での利用が期待されている。オブジェクト追跡手法には様々なものが提案されている。例えば、オブジェクトに固有の識別子を持つ専用デバイスを装着することを前提とすれば、高精度なオブジェクト追跡を実現できるが、デバイスの導入コストが発生する、利用用途が限られる、などの欠点がある。一方、専用デバイスを持たないオブジェクトの追跡手法も数多く提案されている。例えば、Multi Hypothesis Tracking(MHT)ではセンサから得られる観測結果に基づき起こりうるすべての移動を仮説として推測し、事前に推測された仮説の発生確率に基づき、実際のオブジェクトの移動を推測する。しかしながら、MHTでは仮説がオブジェクトの増加と共に指数的に増大し、NP 困難問題となることが分かっている。NP困難問題に対する発見的手法として、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いた手法があるが、センサがオブジェクトの色、形、数、速度等を判断できることが前提となっており、カメラなどの高機能なセンサを必要とする。

本研究では、赤外線センサのようにセンシング範囲内のオブジェクトの有無のみを検出できる単純なセンサ(バイナリセンサ)を観測領域中の一部にのみ配置した環境におけるオブジェクト追跡手法を検討した。提案手法では、建物全体などの観測領域を、小規模な領域(以下、マイクロセル)に分割し、マイクロセルの境界にバイナリセンサを2つ設置し、マイクロセル境界を通過するオブジェクトおよびその移動方向を検出する。検出したオブジェクトのゲート通過情報は無線ネットワークを経由してサーバに収集される。サーバは内部に仮想マイクロセルおよび仮想オブジェクト(以下、分身)を管理しており、取得したオブジェクトのゲート通過情報および内部で管理する仮想マイクロセル、分身の情報に基づき、オブジェクト追跡を行う。分身は、オブジェクト移動の可能性の数だけ生成され、仮想マイクロセル上を移動し、必要がなくなれば削除される。センサによりオブジェクトの観測領域外への退出が検出されると、オブジェクト移動として尤もらしい分身の移動軌跡をオブジェクトの移動軌跡として選ぶ。

MHTと異なり、提案手法では、オブジェクトの変則的な挙動を考慮し、分身同士から新たに分身を生成するなど柔軟なオブジェクト追跡が可能である。また、無線通信環境の悪化、センシングの失敗などによりオブジェクトのゲート通過情報の取得に失敗する場合でも、追跡精度を低下させないために、新たに分身を生成する。さらに、不要と推測される分身を削除することにより、分身の爆発的な増大を抑えている。本研究では、シミュレーションによる評価により、提案手法の有効性を評価した。その結果、オブジェクトの変則的な挙動を考慮することにより、オブジェクト追跡成功率が29 %向上すること、センサ情報損失推定時に分身を生成することにより、オブジェクト追跡成功率が6%向上することを示した。

[関連発表論文]

  1. Masakazu Murata, Yoshiaki Taniguchi, Go Hasegawa, and Hirotaka Nakano, “SHOT: Scenario-type hypothesis object tracking with indoor sensor networks,” IEICE Transactions on Information and Systems, vol.E94-D, no.5, May 2011. (to appear)

2.2.4. オプティカルフローに基づく降水短時間予報に関する研究

オプティカルフローに基づく降水短時間予報に関する研究

現在、気象庁では降水量の短時間予報として降水短時間予報および降水ナウキャストを公開している。これらの予報は、観測間隔や最小観測メッシュサイズが粗いレーダーの情報を基にしている。そのため、近年多く発生している、10km四方程度の局所的な範囲に1時間あたり100mmを超える降水をもたらすような集中豪雨を高い精度で予測することができない。それに対し、より時間的かつ空間的解像度の高いレーダーの配備・運用が進んでいるが、これらを用いた恒常的な降水予報は行われていない。

そこで本研究では、高性能レーダーの観測結果を用いて分単位の降雨予報を行う手法を提案する。提案手法は現在および過去の降水データのみから、ブロックマッチングアルゴリズムの1つであるダイヤモンドサーチを基にしたオプティカルフローアルゴリズムを用い、雨域の移動の様子を推定する。また、検出するオプティカルフローの密度を疎から密へと徐々に切り替えることにより、複雑な雨域の動きを推定する。そして、推定した雨域の動きから補外法を用いて未来の雨域を予測し、予報を行う。

提案手法のパラメータについて評価を行った結果、より短い期間のより多い枚数のレーダー画像を用いた時に、予報の精度が向上することがわかった。また、オプティカルフローの検出密度をより高くした時にも、同様に予報の精度が向上した。これは、性能レーダーから得られる降水データを用いることにより、予報の精度の向上が見込めることを意味する。また、評価の結果、気象庁が提供している予報情報であるナウキャストと予報性能を比較した結果、5分後から1時間後までの予報において、25%以上高い精度が得られることを確認した。

[関連資料]

  1. オプティカルフローを用いた降水の短時間予報 オプティカルフローを用いた降水の短時間予報 (703 KB)

[関連発表論文]

  1. 今城健太郎, “降水量の短時間予報のためのオプティカルフローアルゴリズム,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  2. 今城健太郎, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “降水短時間予報のためのオプティカルフローアルゴリズム,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2010-83), vol.110, no.455, pp.93-98, Mar. 2011. [paper]

2.3. オーバレイネットワークアーキテクチャに関する研究

2.3.1. オーバレイルーティングによって増加する ISP 間トランジットコストの削減に関する研究(NTTサービスインテグレーション基盤研究所との共同研究)

オーバレイルーティングによって増加する ISP 間トランジットコストの削減に関する研究

オーバレイルーティングはオーバレイネットワークを用いたアプリケーション層で動作する経路制御技術であり、遅延時間や利用可能帯域などの指標を用いて経路を選択することで、ユーザが体感できる性能が向上することが知られている。一方で、IP 層で行なわれる経路制御とのポリシの違いにより、ISP のコスト構造に悪影響を与えることが考えられる。ISP によって提供される IP ルーティングは、一般に隣接 ISP とのリンクの使用にかかる金銭的コストを考慮して制御されている。対してオーバレイルーティングではエンド間の性能向上を目的として経路が選択されるため、オーバレイルーティングの利用によって通過するトランジットリンク数が増加し、ISP のトランジットコストが増大することが考えられる。

この問題に対する解決策としては、オーバレイルーティングが ISP 間のトランジットコストが増加する経路を選択することを制限する手法が考えられる。本研究では、オーバレイルーティングによって増加する ISP 間のトランジットコストを削減する手法を提案した。提案手法では、経路上のトランジットリンク数をトランジットコストの指標とし、オーバレイルーティングによる性能向上を維持しつつ、トランジットコストを抑える経路を選択する。しかし、経路上のトランジットリンク数は一般には公開されておらず、また、エンド間で容易に計測する手法が存在しないため、本論文では経路上のトランジットリンク数をオーバレイノードが容易に計測できるエンド間ネットワーク性能から重回帰分析を用いて推定する手法を確立した。

提案手法の有効性を評価するため、重回帰分析により導出した推定式の精度を評価したのち、提案手法によって経路上のトランジットリンク数を制限したオーバレイルーティングの性能を評価した。実ネットワークの計測データを用いた評価により、推定式によるトランジットリンク数の過小推定が 80% のノードで 1 以下であり、また、提案手法を用いたオーバレイルーティングが、通過するトランジットリンクの数を削減しつつ、トランジットリンクの制限を行わない場合のオーバレイルーティングと同等の性能向上を得られていることを示した。

[関連資料]

  1. ISPのコスト削減とユーザ性能の向上を両立するオーバレイルーティング手法の確立 ISPのコスト削減とユーザ性能の向上を両立するオーバレイルーティング手法の確立 (330 KB)

[関連発表論文]

  1. 松田一仁, 長谷川剛, 亀井聡, 村田正幸, “オーバレイルーティングに起因するISP間トランジットコスト削減手法の提案および評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-17), vol.110, no.39, pp.7-12, May 2010. [paper]
  2. Kazuhito Matsuda, Go Hasegawa, Satoshi Kamei, and Masayuki Murata, “Performance evaluation of a method to reduce inter-ISP transit cost caused by overlay routing,” in Proceedings of the 14th International Telecommunications Network Strategy and Planning Symposium (NETWORKS 2010), pp.250-255, Sep. 2010. [paper]
  3. Kazuhito Matsuda, Go Hasegawa, Satoshi Kamei, and Masayuki Murata, “A method to reduce inter-ISP transit cost caused by overlay routing based on end-to-end measurement,” submitted for publication, Nov. 2010.

2.3.2. 大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法に関する研究(日本電気株式会社との共同研究)

大規模ネットワーク障害に対応可能なオーバレイルーティング手法に関する研究

地震、風水害、テロなどの大規模災害に対するコンピュータネットワークの対策に関しては未だ体系的に議論されておらず、災害発生時においてもネットワークの十分な信頼性を確保することは難しい。通常、高信頼なネットワークは冗長性に優れた構成を組むことにより実現されるが、インターネットにおけるIPルーティングプロトコルでの転送経路切替方法では短時間での切替は困難である。また、IP層の機能強化を行う場合にも、共通基盤に新しい機能を付加することにより、それに付随する制御が種々派生し、その複雑さによってアーキテクチャの破綻を招く恐れがある。オーバレイネットワーク技術を用いてそのような新機能を実現する手法が多数提案されているが、そのような仮想ネットワークにおける障害回復手法には、これまでには想定されなかったような同時発生する複数障害への対応が求められる。

そこで本研究では、オーバレイネットワークの経路重複が原因となり、アンダーレイネットワークの少数リンクの障害が、オーバレイネットワークにおける大規模同時障害を引き起こす問題に着目し、上記手法をそのような同時発生障害に対応させるための障害用トポロジ構築手法を提案した。提案手法は、それぞれのオーバレイノードが、自身を含む障害に対応するトポロジを作成し、それらを適宜集約することによって、1つのトポロジ群を構築する。数値計算による性能評価の結果、アンダーレイネットワーク全体の25%のリンク障害発生時に、経路長をほとんど増加させることなく、到達性を51%から97%に回復できることがわかった。

[関連発表論文]

  1. Takuro Horie, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Proactive recovery method against multiple network failures with overlay networking technique,” in Proceedings of the 14th International Telecommunications Network Strategy and Planning Symposium (NETWORKS 2010), pp.89-94, Sep. 2010. [paper]

2.3.3. オーバレイネットワークにおけるネットワーク性能計測手法に関する研究

オーバレイネットワークにおけるネットワーク性能計測手法に関する研究

オーバレイネットワークはIP ネットワーク上に論理的に構築されたネットワークであるため、性能の維持、向上のためには定期的にオーバレイパスの資源情報を計測によって得る必要がある。オーバレイネットワークの構築に必要な情報を得る手法は数多く提案されているが、その多くは小規模なオーバレイネットワークを対象としており、全てのオーバレイノード間の経路を計測する手法である。このような手法ではオーバレイノード数の2乗の計測コストが必要であり、オーバレイノード数が増加した場合には計測に必要なコストの増加が問題となる。この問題に対し、オーバレイパスの重複した部分の計測を行わず、重複部分の計測結果を合成することにより、オーバレイネットワーク全体の性能を推定する、計測結果の空間的合成手法を提案した。この手法は、オーバレイネットワーク全体のパスの情報を得る完全性を維持しつつ、パスの計測数を削減することができるが、計測結果の空間的合成によって得られた推定結果と実際の計測結果との間の誤差、つまり推定精度が問題となる。

そこで本研究では、PlanetLab 上における計測結果を用いた、計測結果の空間的合成手法の精度評価を行った。また、推定精度を向上させるための、計測結果の統計処理手法を提案した。本手法は、統計的検定により計測結果の信頼度を向上し、さらに計測される遅延時間の最大値に閾値を設定することで、計測結果の信頼度を判定する。性能評価の結果、提案手法を用いることで、遅延時間の再計測をほとんど必要とせず、十分な回数の計測を行った場合における遅延時間の推定誤差が88%から0.6%に改善すること、8 回程度の遅延時間の計測回数で、4%の計測精度が得られることがわかった。また、遅延時間の計測結果を用いるアプリケーションとして、オーバレイルーティングにおけるパス選択の精度を評価した結果、遅延時間の短いパスを選択できない確率が、遅延時間の実際の計測値の差が100msec 以内の場合に5%、100msec 以上の場合においては1%以下に抑えられることを示した。

また、上述のような状況を含めたオーバレイネットワークにおける計測に関する研究では、計測経路数を削減する、あるいは、スーパーノードを設置してオーバレイネットワークの全ての経路情報を収集し、完全スケジューリングによって計測の衝突を回避する手法が提案されている。これに対し本研究では、スーパーノードを使用せず、かつ、IP ネットワークの完全なトポロジ情報を必要としない、オーバレイネットワーク計測手法を提案した。具体的には、個々のオーバレイノードが自身を始点とするオーバレイパスの計測タイミングを決定し、計測衝突を回避する。提案手法は、個々のオーバレイノードが他のオーバレイノードまでのアンダーレイ経路情報を取得し、他のオーバレイノードと経路情報を交換することにより、自身を始点とする経路と、他のオーバレイノードを始点とするパスの経路重複の状態を推定する。1 つのオーバレイノードを始点とする複数のパスは、逐次的に計測を行うことで、計測衝突を回避する。一方、始点が異なる経路は、始点オーバレイノードがランダムに計測タイミングを決定することで、衝突を確率的に回避する。性能評価の結果、従来の完全スケジューリング型の計測手法に比べて高い計測頻度を達成し、かつ、計測重複を効率的に回避できることを明らかにした。

[関連資料]

  1. オーバーレイネットワーク上の計測負荷削減のための空間的合成手法の性能評価 オーバーレイネットワーク上の計測負荷削減のための空間的合成手法の性能評価 (148 KB)

[関連発表論文]

  1. 長谷川剛, 村田正幸, “オーバレイネットワークにおける計測結果統合手法の精度評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-16), vol.110, no.39, pp.1-6, May 2010. [paper]
  2. Dinh Tien Hoang, 長谷川剛, 村田正幸, “計測衝突を軽減するための分散型オーバレイネットワーク計測手法,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2010-57), vol.110, no.287, pp.49-54, Nov. 2010. [paper]
  3. 正原竜太, “オーバレイネットワーク上の計測負荷削減のための空間的合成手法の性能評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  4. 正原竜太, 長谷川剛, 村田正幸, “オーバレイ網における計測数削減手法の性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-180), vol.110, no.449, pp.217-222, Mar. 2011. [paper]

2.3.4. オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する研究

オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する研究

インターネットを構成するISP間にはトランジットとピアリングの2種類の接続がある。これらISP間の接続戦略はISP間のルーティングポリシー、それに基づく経済的視点によって決定される。一方、近年のオーバレイネットワーク技術の発展に伴い、オーバレイルーティングによるトラヒックが増加しつつある。オーバレイルーティングでは、エンド間の性能向上を目的として経路が選択されるため、通過するトランジットリンク数が増えるなどの影響が考えられる。本研究では、オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する研究を行う。ISPのモデル化を行い解析を行うことにより、さまざまなトラヒックパターンに対して、ISPがどのような接続戦略をとればよいのかについて調査する。

[関連資料]

  1. オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する一検討 オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する一検討 (90 KB)

[関連発表論文]

  1. Xun Shao, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “オーバレイルーティングがISPの接続戦略に与える影響に関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (ネットワークシステム研究会), May 2011. (発表予定)
  2. Xun Shao, Go Hasegawa, Yoshiaki Taniguchi, and Hirotaka Nakano, “The implication of overlay routing on ISPs' connecting strategies,” submitted for publications, Feb. 2011.

2.4. 次世代高速トランスポートプロトコルに関する研究

エンドホスト間でデータを高速に、かつ効率よく転送するための中心技術がトランスポートプロトコルである。特にインターネットで用いられているTCPでは、エンドホストがネットワークの輻輳状態を自律的に検知して転送率を決定している。これは、インターネットの基本思想であるEnd-to-end principleの核になっているものであるが、エンドホストの高速化により、その適応性をより高度なものにできる可能性が十分にある。本研究テーマでは、そのようなトランスポートプロトコルそのものに関する研究、および、そのようなトランスポートプロトコルを用いるアプリケーションシステムの性能向上に関する研究に取り組んでいる。

2.4.1. 無線LAN環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCPの性能評価

無線LAN環境における遅延に基づく輻輳制御を用いたTCPの性能評価

IEEE802.11に基づく無線LANにおいては、CSMA/CA により無線LAN 内の各端末が無線媒体にアクセスする機会は等しいため、端末間のMAC レベルにおける公平性は確保される。しかし、アクセスポイントから無線端末への通信は1 台のアクセスポイントによる通信であるのに対し、その逆向きの通信は複数台の無線端末による通信であるため、アクセスポイントから無線端末への通信とその逆向きの通信ではアクセス機会に不均等が生じる。これは、CSMA/CA によって実現されるMAC レベルにおける端末間の公平性が上位レイヤにおける公平性に直接つながらないことを意味している。このことは、トランスポート層としてTCPを用いた場合には大きな問題となり、上りフロー間、および上りフローと下りフロー間に深刻な不公平が発生することが指摘されている。

そこで本研究では、不公平性を改善するための手法として、ACKパケットの損失に対して輻輳制御を行う手法を提案し、その有効性をシミュレーションおよび実装実験によって検証した。その結果、提案手法が上りフロー間の不公平に対して有効であるだけではなく、上下フロー間の不公平に関しても一定の改善を行うことができることがわかった。

上記のようなフロー間の公平性に関する検討においては、公平性の定義が重要となる。従来の公平性の定義では、無線LAN内の競合するフローが獲得する無線帯域を等しく獲得することを公平であるとしていた。しかし、無線LAN 環境における公平性を改善する手法は、公平性を改善する一方でネットワークスループットが低下することがある。そのため、ネットワークスループットが高ければ公平性が損なわれても許容できるのか、あるいは逆に、公平性が高ければスループットは損なわれても許容できるか、といった、スループットと公平性との間のトレードオフの議論が必要である。しかし、従来指標ではこのトレードオフ関係を評価することができない。このため、無線LAN 環境における公平性の評価の際には無線帯域の利用効率を含めた新しい指標が必要である。

そこで本研究では、ネットワーク帯域の利用効率を考慮した新しい公平性指標を提案した。提案指標はJainのFairness Indexを基とし、ネットワーク帯域の利用効率が指標に反映されるように改良行った。さらに、上述の公平性改善手法を、提案した指標を用いて評価を行った結果、提案手法が公平性とネットワーク帯域間のトレードオフ関係を大幅に改善できることを明らかにした。

[関連発表論文]

  1. Masafumi Hashimoto, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Trade-off evaluation between fairness and throughput for TCP congestion control mechanisms in a wireless LAN environment,” in Proceedings of the 2010 International Symposium on Performance Evaluation of Computer and Telecommunication Systems (SPECTS 2010), pp.22-29, July 2010. [paper]
  2. Masafumi Hashimoto, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “A transport-layer solution for alleviating TCP unfairness in a wireless LAN environment,” IEICE Transactions on Communications, vol.E94-B, no.3, pp.765-776, Mar. 2011. [paper]
  3. 長谷川剛, 村田正幸, “TCP の輻輳制御機構に関する研究動向,” 電子情報通信学会和文論文誌, vol. J94-B, May 2011. (招待論文)

2.4.2. TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減に関する研究

TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減に関する研究

IEEE 802.11無線LANにおいては、無線通信が消費する電力が全体の10%から50%を占めることが報告されており、無線通信の消費電力を削減することが機器全体の消費電力を削減するうえで重要である。無線LANにおける省電力化に関する検討は、主にハードウェアレベルおよびMACプロトコルレベルの双方から行われている。一般に、ネットワーク機器の省電力に関して議論を行う場合においては、省電力効果とネットワーク性能間のトレードオフを考慮する必要がある。すなわち、消費電力の削減に効果のある要因を明らかにし、その要因がどの程度ネットワーク性能を低下させるかを知ることが重要である。しかし、TCPなどのトランスポート層プロトコルの挙動が省電力性能に与える影響に関してはこれまで検討が行われていない。

そこで本研究では、無線LAN においてTCPデータ転送を行う、単一の無線端末が消費する電力のモデル化手法を提案し、消費電力を低減する転送手法について検討した。提案モデルはMACレベルのモデルとTCPレベルのモデルの組合せによって実現した。MACレベルのモデルにおいては、CSMA/CAのフレーム交換に基づく消費電力モデルを構築した。TCPレベルにおいては、TCPの動作解析に基づいて消費電力モデルを構築した。構築した消費電力モデルに基づいた数値解析によって、無線端末から有線ネットワーク上にあるホストに対してTCP データ転送を行った場合の消費電力を解析的に導出可能となる。数値解析の結果から、パケットの送受信がない区間において理想的にスリープした場合とそうでない場合を比較することで、消費電力を削減するうえで効果的な要因を明らかにした。すなわち、長いスリープ時間を維持したままスリープ状態への遷移回数を削減することが省電力効果を高めるのに効果的である。また、省電力と転送時間との間にはトレードオフの関係があることを示した。

[関連資料]

  1. 無線LAN環境におけるTCPの動作を考慮した消費電力モデル 無線LAN環境におけるTCPの動作を考慮した消費電力モデル (527 KB)

[関連発表論文]

  1. 橋本匡史, 長谷川剛, 村田正幸, “無線LAN環境におけるTCPの動作を考慮した消費電力モデルの提案,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-105), vol.110, no.339, pp.1-6, Dec. 2010. [paper]
  2. 橋本匡史, 長谷川剛, 村田正幸, “無線LAN環境におけるバースト転送を利用したTCPフローの消費電力解析,” BS-5-7, 2011年電子情報通信学会総合大会講演論文集, Mar. 2011.

2.4.3. 無線マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響に関する研究

無線マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響に関する研究

無線LAN規格であるIEEE 802.11は複数のデータレートを持ち、それぞれについて、符号化方法、消費電力、通信可能距離なども異なる。また、IEEE 802.11に存在する複数の規格は異なる特性を持つ。さらに、同じ規格であっても、ハードウェア構成が異なると、消費電力や通信可能距離は大きく異なる。そのため、IEEE 802.11無線LANにおける消費電力に関する議論を行う際には、実ハードウェアの仕様を考慮する必要がある。一方、無線技術の一般的な特性として、送信電力、通信可能距離及び、ビットエラー率などは複雑に関連している。すなわち、IEEE 802.11無線LANを用いた無線マルチホップネットワークにおいては、消費電力を決定する要素が多く存在し、かつ、それらの要素が複雑な関係を持つ。そのため、消費電力を抑えたデータ転送を行うためには、これらの要素の関係を明らかにし、データ伝送時の消費電力を解析的に評価する必要がある。

そこで本研究においては、まずIEEE 802.11無線LAN技術に基づく無線マルチホップネットワークにおけるデータ伝送を対象とし、その消費電力量解析を行った。具体的には、IEEE 802.11で用いられるMACプロトコルであるCSMA/CAの詳細な挙動に基づき、1ホップのデータ伝送における消費電力量を導出した。その後、送受信端末間でマルチホップによってデータを伝送した際の総電力量を明らかにした。さらに、実在するIEEE 802.11無線LANのネットワークインターフェースデバイスの消費電力データを利用し、解析結果を用いた消費電力量の評価を行った。評価の結果、ネットワークにおけるフレーム損失率が等しい場合には、より高いデータレートを使うことで、より小さい消費電力量が得られるが、低いデータレートを使うほうが消費電力量を抑えることが出来る場合があることを明らかにした。

[関連資料]

  1. IEEE 802.11マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響 IEEE 802.11マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響 (211 KB)

[関連発表論文]

  1. 通阪航, “IEEE 802.11マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.

2.4.4. エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する研究

エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する研究

エンド端末間におけるデータ転送の際に、パスの利用可能帯域を指標として用いることで、輻輳の検知、通信レートの制御、オーバレイネットワークにおけるトポロジ制御、経路制御やマルチパス転送などの様々なネットワーク制御が可能となる。そのため、エンド端末間パスの利用可能帯域を計測することは重要である。従来の端末間パスの利用可能帯域の計測技術は、ボトルネック区間の利用可能帯域の値のみを把握することができるが、一方、ボトルネック区間そのものの特定やエンド端末間パスの複数箇所の利用可能帯域の計測を行うことはできない。しかし、たとえば無線ネットワークと有線ネットワークなどネットワーク特性が異なる区間がエンド端末間パス上に混在している場合に、それぞれのネットワークの利用可能帯域の計測が可能となれば、無線ネットワークなどパケット誤りの多い環境に応じて通信レートを低く設定するなどの、ネットワーク環境に応じた制御を行うことができる。

そこで本研究では、エンド端末間のパス上における複数かつ任意の区間における利用可能帯域を同時に計測する手法について検討した。従来の利用可能帯域の計測手法は送信端末が受信端末に向けて計測用パケットを送る際に、パケットの送信間隔を様々に変化させ、受信端末における受信間隔を観察することで利用可能帯域を計測する。そこで、提案手法においては、パケットの送信間隔の制御方法を改善し、かつ、エンド端末間パス上のルータにおいて記録されるパケットの送受信時刻を利用することによって、端末間のパス上における任意の区間の利用可能帯域を計測する。提案方式の性能評価は、簡易的なシミュレーションによって行った。その結果、送信端末に近いネットワーク区間より、受信端末に近いネットワーク区間の利用可能帯域が大きい場合においても、それぞれの区間の利用可能帯域を計測することが可能であることを確認した。

[関連資料]

  1. エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する一検討 エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する一検討 (213 KB)

[関連発表論文]

  1. 鯉谷和正, “エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する一検討,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.

2.4.5. TCP送信を前提としたビデオストリーミング方式に関する研究

TCP送信を前提としたビデオストリーミング方式に関する研究

近年、ネットワークの広帯域化により、 YouTubeに代表されるTCPを用いた動画像ストリーミングサービスが普及している。しかしながら、TCPはその輻輳制御のため、動画像ストリーミングに適していないという指摘がある[5]。現在の標準的なTCPであるTCP NewReno の輻輳制御アルゴリズムは、輻輳ウィンドウサイズと呼ばれるパラメータを用いて、確認応答無しに一度に送信できるデータパケット数を調節することによって、パケット転送速度を調節している。この輻輳制御アルゴリズムは、パケット棄却を検知したとき、大きく輻輳ウィンドウサイズを減少させるため、転送レートが大きく変化する。動画の再生のためには、一定レートのデータ転送が望ましく、転送レートを大きく変化させるTCPは適していない。また、TCPの輻輳制御は貪欲な制御であり、パケット棄却を検知するまで、輻輳ウィンドウを増加させる。そのため、動画の再生レートに関係なくその転送レートを増加させ、他のトラヒックから帯域を不要に奪う問題がある。

そこで本研究では、まず、既存のTCPを用いた動画像ストリーミングサービスのデータ転送方式を調査し、既存の動画像ストリーミングサービスが、動画の再生レートより非常に大きなレートでデータ転送していることを示した。さらに、アプリケーション層においてデータ転送を制御することで、トランスポート層プロトコルにTCPを用いるにもかかわらず、必要以上のネットワーク帯域を奪わない、動画像ストリーミングのデータ転送方式を提案した。提案方式は、送信側ホストのTCPからTCPの状態変数を取得し、ネットワークの輻輳状況を推測する。また、受信側ホストから動画のバッファリング量を取得し、ネットワークの輻輳状況と受信側ホストの動画のバッファリング量に基づいて、1ラウンドトリップ時間に送信側ホストのTCPに渡すデータ量を調節することで、転送レートを制御する。シミュレーションによる評価の結果、提案方式は既存の方式と異なり、受信側ホストにおけるバッファアンダーフローの発生を抑え、かつ、バックグラウンドトラヒックの帯域を奪わないことを示した。

[関連発表論文]

  1. 久松潤之, 長谷川剛, 村田正幸, “TCPのパケット送出のバースト性を抑制した動画像ストリーミングの提案と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2010-39), vol.110, no.198, pp.31-36, Sep. 2010. [paper]

2.4.6. インラインネットワーク計測技術のビデオ会議アプリケーションへの応用に関する研究 (ブラザー工業株式会社との共同研究)

インラインネットワーク計測技術のビデオ会議アプリケーションへの応用に関する研究

近年のネットワーク帯域の増加にともない、オンデマンドビデオ配信や実時間音声会話・ビデオ会議アプリケーションなどの、動画像通信を伴うアプリケーションの利用が急速に進んでいる。ネットワーク帯域の増加にともない、これらのアプリケーションは音声・動画像品質の向上や多地点対応などの高機能化が進められ、用いる帯域は増加する傾向にある。従来このようなアプリケーションにおいては、ユーザが事前に動画像や音声品質を指定するものがほとんどであった。その場合、ネットワークの利用可能帯域が小さくなった場合に音声や画質の途切れなどが発生し、アプリケーション品質が大きく劣化する。また逆に、ネットワーク帯域に余裕がある場合においても、それが認識できないと、ネットワーク帯域を効率的に使うことができない。ネットワーク帯域の使用効率を高め、アプリケーション品質を向上させるためには、ネットワーク特性や輻輳状況などを把握し、その様子に応じて動画像品質などを調整し、アプリケーションが使うネットワーク帯域を制御することが重要となる。ネットワークの輻輳状態などに応じた動画像品質の調整機構は、これまでにも多数の提案および製品が存在するが、それらのほとんどは、パケット廃棄や遅延時間を計測し、計測値の変化を契機にビットレート等の調整を行うため、ネットワーク特性や輻輳状態の変化に対する反応が本質的に遅れる。

そこで本研究においては、インラインネットワーク計測手法を用いて利用可能帯域を計測し、計測結果に応じて動画像のビットレートを変更することができるビデオ会議アプリケーションの設計を行った。また、計測手法の実装実験結果を示すことにより、その有効性を評価した。特に、TCP コネクション内で用いることを想定していたImTCPを、アプリケーション層プログラムによって実現する際に発生する様々な問題に着目し、ImTCPが用いている計測アルゴリムを実現することができるような計測用パケット群の構成方法などについて検討した。また、CPU へのオーバヘッドと計測精度のトレードオフに着目し、計測に必要となるパケット送信間隔の実現方法として2種類の実装方法を提案し、その性能を比較評価した。性能評価に際しては、提案手法を実装し、実験ネットワーク環境における計測精度の評価を行い、提案方式の有効性を確認した。評価の結果、busy/waitを用いた手法は、計測精度は高いものの、高いCPU 負荷が問題になり得ること、また、sleep を用いた手法は、計測精度は若干低下するものの、CPU 負荷をほとんど増加させないことがわかった。

[関連発表論文]

  1. 長谷川剛, 尾池健二, 天野勝博, 村田正幸, “インラインネットワーク計測技術のビデオ会議アプリケーションへの応用,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-25), vol.110, no.116, pp.13-18, July 2010. [paper]

3. 発表論文一覧

3.1. 学術論文誌

  1. Shoichi Takemori, Go Hasegawa, Yoshiaki Taniguchi, and Hirotaka Nakano, “Service area deployment of IEEE 802.16j wireless relay networks: service area coverage, energy consumption, and resource utilization efficiency,” International Journal on Advances in Internet Technology, vol.3, no.1-2, pp.43-52, Sep. 2010. [paper]
  2. Masafumi Hashimoto, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “A transport-layer solution for alleviating TCP unfairness in a wireless LAN environment,” IEICE Transactions on Communications, vol.E94-B, no.3, pp.765-776, Mar. 2011. [paper]

3.2. 国際会議会議録

  1. Masafumi Hashimoto, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Trade-off evaluation between fairness and throughput for TCP congestion control mechanisms in a wireless LAN environment,” in Proceedings of the 2010 International Symposium on Performance Evaluation of Computer and Telecommunication Systems (SPECTS 2010), pp.22-29, July 2010. [paper]
  2. Takuro Horie, Go Hasegawa, and Masayuki Murata, “Proactive recovery method against multiple network failures with overlay networking technique,” in Proceedings of the 14th International Telecommunications Network Strategy and Planning Symposium (NETWORKS 2010), pp.89-94, Sep. 2010. [paper]
  3. Kazuhito Matsuda, Go Hasegawa, Satoshi Kamei, and Masayuki Murata, “Performance evaluation of a method to reduce inter-ISP transit cost caused by overlay routing,” in Proceedings of the 14th International Telecommunications Network Strategy and Planning Symposium (NETWORKS 2010), pp.250-255, Sep. 2010. [paper]
  4. Yoshiaki Taniguchi, Akimitsu Kanzaki, Naoki Wakamiya, and Takahiro Hara, “Autonomous data gathering mechanism with transmission reduction for wireless sensor networks,” in Proceedings of the 2011 International Conference on Communications, Computing and Control Applications (CCCA 2011), Mar. 2011. [paper]
  5. Shimpei Tanaka, Go Hasegawa, Yoshiaki Taniguchi, and Hirotaka Nakano, “Time slot assignment algorithms for reducing upstream latency in IEEE 802.16j networks,” in Proceedings of the 7th Advanced International Conference on Telecommunications (AICT 2011), pp.6-11, Mar. 2011. [paper]
  6. Gyeongyeon Kang, Yoshiaki Taniguchi, Go Hasegawa, and Hirotaka Nakano, “Extending the protocol interference model considering SINR for wireless mesh networks,” in Proceedings of the 7th Advanced International Conference on Telecommunications (AICT 2011), pp.26-31, Mar. 2011. (Best Paper Award) [paper]

3.3. 口頭発表(国内研究会など)

  1. 竹森翔一, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16jリレーネットワークにおけるサービス領域展開手法の性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-7), vol.110, no.18, pp.37-42, Apr. 2010. [paper]
  2. 長谷川剛, 村田正幸, “オーバレイネットワークにおける計測結果統合手法の精度評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-16), vol.110, no.39, pp.1-6, May 2010. [paper]
  3. 松田一仁, 長谷川剛, 亀井聡, 村田正幸, “オーバレイルーティングに起因するISP間トランジットコスト削減手法の提案および評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-17), vol.110, no.39, pp.7-12, May 2010. [paper]
  4. 長谷川剛, 尾池健二, 天野勝博, 村田正幸, “インラインネットワーク計測技術のビデオ会議アプリケーションへの応用,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-25), vol.110, no.116, pp.13-18, July 2010. [paper]
  5. 伊勢悠輝, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “障害物による通信電波の遮断を考慮したIEEE 802.16jリレーネットワークの性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-54), vol.110, no.191, pp.61-66, Sep. 2010. [paper]
  6. 橋本匡史, 長谷川剛, 村田正幸, “無線LAN環境におけるTCPの消費電力解析,” インターネット技術第163委員会技術研究報告, vol.50, p.17, Sep. 2010. (ポスター講演)
  7. 松田一仁, 長谷川剛, 村田正幸, “ISPとの協調に基づくオーバレイルーティングのトランジットコスト削減手法,” インターネット技術第163委員会技術研究報告, vol.50, p.18, Sep. 2010. (ポスター講演)
  8. 姜京延, 谷口義明, 長谷川剛, 中野博隆, “信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルに関する一検討,” インターネット技術第163委員会技術研究報告, vol.50, p.19, Sep. 2010. (ポスター講演)
  9. 田中慎平, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16j上り通信におけるタイムスロット割り当てによる伝送遅延時間の比較評価,” インターネット技術第163委員会技術研究報告, vol.50, pp.20-21, Sep. 2010. (ポスター講演)
  10. 竹森翔一, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “無線ネットワークにおける局所情報に基づく被覆領域制御手法,” インターネット技術第163委員会技術研究報告, vol.50, pp.60-62, Sep. 2010.
  11. 久松潤之, 長谷川剛, 村田正幸, “TCPのパケット送出のバースト性を抑制した動画像ストリーミングの提案と評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2010-39), vol.110, no.198, pp.31-36, Sep. 2010. [paper]
  12. 田中慎平, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16j上り通信における伝送遅延時間低減のためのタイムスロット割り当て手法の提案,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-78), vol.110, no.240, pp.49-54, Oct. 2010. [paper]
  13. 姜京延, 谷口義明, 長谷川剛, 中野博隆, “無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルに関する一検討,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-79), vol.110, no.240, pp.55-60, Oct. 2010. [paper]
  14. Dinh Tien Hoang, 長谷川剛, 村田正幸, “計測衝突を軽減するための分散型オーバレイネットワーク計測手法,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2010-57), vol.110, no.287, pp.49-54, Nov. 2010. [paper]
  15. 重藤隆文, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “IEEE 802.16jネットワークにおけるノード位置の調整による通信性能の改善,” 電子情報通信学会第8回QoSワークショップ予稿集 (QW8-P-01), Nov. 2010. [paper]
  16. 橋本匡史, 長谷川剛, 村田正幸, “無線LAN環境におけるTCPの動作を考慮した消費電力モデルの提案,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-105), vol.110, no.339, pp.1-6, Dec. 2010. [paper]
  17. 西尾理志, 新熊亮一, 高橋達郎, 長谷川剛, Mandayam Narayan, “動的無線アクセス環境のための帯域協調利用メカニズム,” 電子情報通信学会技術研究報告 (MoMuC2010-83), vol.110, no.434, pp.27-32, Mar. 2011. [paper]
  18. 井上一成, 阿多信吾, 大谷嗣朗, 長谷川剛, 岩本久, 矢野祐二, 黒田泰斗, 塩田浩克, 村田正幸, “省電力化を実現するスライス化ルータアーキテクチャ,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-186), vol.110, no.448, pp.129-134, Mar. 2011. [paper]
  19. 姜京延, 谷口義明, 長谷川剛, 中野博隆, “無線メッシュネットワークにおける信号対干渉比を考慮した簡易電波干渉モデルの評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-189), vol.110, no.448, pp.145-150, Mar. 2011. [paper]
  20. 田中慎平, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “通信経路を考慮したIEEE 802.16j上りリンクへのタイムスロット割り当て手法の拡張,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-195), vol.110, no.448, pp.181-186, Mar. 2011. [paper]
  21. 竹森翔一, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “無線ネットワークにおける局所トポロジ情報を用いた被覆領域の自律制御手法,” 電子情報通信学会技術研究報告 (NS2010-196), vol.110, no.448, pp.187-192, Mar. 2011. [paper]
  22. 正原竜太, 長谷川剛, 村田正幸, “オーバレイ網における計測数削減手法の性能評価,” 電子情報通信学会技術研究報告 (IN2010-180), vol.110, no.449, pp.217-222, Mar. 2011. [paper]
  23. 今城健太郎, 長谷川剛, 谷口義明, 中野博隆, “降水短時間予報のためのオプティカルフローアルゴリズム,” 電子情報通信学会技術研究報告 (CQ2010-83), vol.110, no.455, pp.93-98, Mar. 2011. [paper]
  24. 谷口義明, 神崎映光, 若宮直紀, 原隆浩, “データ補間に基づく通信量削減手法を組み込んだ進行波型センサ情報収集手法,” 情報処理学会研究報告, vol.2011-DPS-146, no.39, pp.1-7, Mar. 2011. [paper]
  25. 太田能, 新熊亮一, 長谷川剛, 矢守恭子, 村瀬勉, “パレート最適ネットワーク制御技術の実現にむけて,” BS-5-1, 2011年電子情報通信学会総合大会講演論文集, Mar. 2011.
  26. 橋本匡史, 長谷川剛, 村田正幸, “無線LAN環境におけるバースト転送を利用したTCPフローの消費電力解析,” BS-5-7, 2011年電子情報通信学会総合大会講演論文集, Mar. 2011.

3.4. 博士論文・修士論文・特別研究報告

3.4.1. 博士論文

(該当なし)

3.4.2. 修士論文

  1. Gyeongyeon Kang, “A study on parameter tuning of protocol interference model considering SINR for TDMA-based wireless mesh networks,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2011.
  2. Shoichi Takemori, “Improving coverage performance for wireless networks based on geometric algorithms,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2011.
  3. Shimpei Tanaka, “Time slot assignment algorithms to upstream links for decreasing transmission latency in IEEE 802.16j networks,” Master’s Thesis, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, Feb. 2011.

3.4.3. 特別研究報告

  1. 今城健太郎, “降水量の短時間予報のためのオプティカルフローアルゴリズム,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  2. 北山智也, “IEEE 802.16jリレーネットワークにおける適応変調符号化を考慮したタイムスロット割り当て手法,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  3. 鯉谷和正, “エンド端末間パス上の複数箇所の利用可能帯域の同時計測手法に関する一検討,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  4. 正原竜太, “オーバレイネットワーク上の計測負荷削減のための空間的合成手法の性能評価,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.
  5. 通阪航, “IEEE 802.11マルチホップネットワークにおける省電力手法がネットワーク性能に与える影響,” 大阪大学基礎工学部情報科学科特別研究報告, Feb. 2011.